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研究双書 No.626

ラテンアメリカの市民社会組織

継続と変容

編:宇佐見 耕一
編:菊地 啓一
編:馬場 香織

紙版

内容紹介

 21世紀に入りすでに15年以上が過ぎたラテンアメリカにおいて、軍政は遠い過去のものとなり、民主主義体制はもはや揺るぎのないものになっている。民主主義の定着とともに、市民社会とその基となる市民社会組織は性格を変容させつつ多様で量的にも拡大を示している。他方、1970年代末からの民主化以降、ラテンアメリカの国家と民主主義体制に関する議論、また拡大しつつある市民社会組織に関して活発な研究がなされてきた。そこで21世紀に入って15年が過ぎた時点で、これまで蓄積された先行研究をふまえつつ、ラテンアメリカにおける国家と市民社会組織の関係を整理して、学術的視点からその性格を確認することが本書の目的となっている。
 軍政から民主政治に体制転換したことに加えて、1980年代に始まり1990年代に本格化した新自由主義改革もラテンアメリカの経済面のみならず、社会・政治面に関しても大きな変容を与えたことは周知の事実である。それは輸入代替工業化という国家が経済過程に深く関与する経済政策から、市場機能を重視する経済政策への移行を意味している。しかし、新自由主義改革においても、国家の果たす役割が消滅したわけではなく、その役割が変容したことも通説となっている。21世紀に入り南米で成立した多くの左派政権も、20世紀末に実施された新自由主義改革とさまざまな意味で関係してくる。そこで本書の課題は、民主化と新自由主義改革という二重の移行を経たラテンアメリカにおける国家と市民社会組織が、いかなる関係性をもっているのかを明らかにするというものである。
 国家論あるいは市民社会論は、主として欧米の経験を基にした議論であるが、それを出発点として、ラテンアメリカにおけるそれぞれの性格を描き出した研究も多々みられ、本書もその延長線上に位置づけられる研究のひとつである。本書は、国家と市民社会組織の関係についてコーポラティズム論を基に利益媒介・政策形成の視点から分析しようとする第Ⅰ部と、民主化後における民主主義の性格と市民社会組織の関係を考察する第Ⅱ部から構成される。また、分析の対象とする国は、メキシコ、ボリビア、ペルー、ベネズエラおよびブラジルである。ここでの研究が、ラテンアメリカの国家と市民社会組織関係をめぐる諸議論に新たな視点を加え、研究上の論争を活発化させることに少しでも貢献できることを願ってやまない。

目次

まえがき

序章 問題の所在と分析の視点 宇佐見 耕一・菊池 啓一・馬場 香織
 はじめに
 第1節 問題の所在
 第2節 コーポラティズム論 -利益媒介・政策形成-
 第3節 民主主義と市民社会
 第4節 本書の構成

第Ⅰ部 利益媒介・政策形成と市民社会組織
第1章 メキシコにおける政労関係の継続と変容 -労働法制改革をめぐる政治を中心に- 馬場 香織
 はじめに
 第1節 メキシコ2012年労働法制改革の背景と概要
 第2節 本章の分析視角 -労組の戦略、パワー、レバレッジ-
 第3節 労組の戦略、レバレッジと労働法制改革
 おわりに

第2章 ボリビアにおける国家と強力な市民社会組織の関係 -モラレス政権下の新鉱業法の政策決定過程- 岡田 勇
 はじめに
 第1節 ボリビアの国家 -市民社会組織関係についての研究
 第2節 理論枠組み -ボリビア鉱業にみる国家と市民社会組織のあいだでの政策決定-
 第3節 新鉱業法の成立過程
 おわりに

第3章 ポスト新自由主義期ペルーの労働組合と国家 -20世紀の状況との比較- 村上 勇介
 はじめに
 第1節 国家主導型発展モデル期の労働組合
 第2節 労働組合の影響力の低下と1990年代の新自由主義改革
 第3節 ポスト新自由主義期の労働組合
 おわりに

第Ⅱ部 民主主義と市民社会組織
第4章 ベネズエラにおける参加民主主義 -チャベス政権下におけるその制度化と変質- 坂口 安紀
 はじめに
 第1節 市民社会と民主主義概念の整理
 第2節 ベネズエラにおける参加民主主義の萌芽
 第3節 チャベス政権下のコミュニティベースの参加民主主義の実態とその変質
 結論

第5章 分配政治とブラジルの市民社会 -連邦政府から市民社会組織への財政移転の決定要因- 菊池 啓一
 はじめに
 第1節 ブラジルの市民社会組織のプロフィール
 第2節 市民社会組織への財政移転
 第3節 データ分析
 おわりに

第6章 ブラジルにおける国家とキリスト教系宗教集団の関係 -福音派の台頭と政治化する社会問題- 近田 亮平
 はじめに
 第1節 ブラジルの政治と宗教をめぐる変化
 第2節 中絶をめぐる国家とキリスト教系宗教集団
 第3節 LGBT をめぐる国家とキリスト教系宗教集団
 第4節 国家と宗教集団の関係
 おわりに

終章 21世紀ラテンアメリカにおける国家と市民社会組織の関係 宇佐見 耕一

著者略歴

編:宇佐見 耕一
宇佐見 耕一 同志社大学グローバル地域文化学部教授
菊池 啓一  アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ
馬場 香織  北海道大学大学院法学研究科准教授
岡田 勇   名古屋大学大学院国際開発研究科准教授
村上 勇介  京都大学地域研究統合情報センター准教授
坂口 安紀  アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ長
近田 亮平  アジア経済研究所地域研究センターラテンアメリカ研究グループ

ISBN:9784258046263
出版社:アジア経済研究所
判型:A5
ページ数:265ページ
定価:3300円(本体)
発行年月日:2016年11月
発売日:2016年11月28日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JHB