講談社選書メチエ
近代アジアの啓蒙思想家
著:岩崎 育夫
内容紹介
香港に国家安全維持法を導入した習近平の中国、ミャンマーの軍事クーデタ、フィリピンで強権をふるうドゥテルテ大統領など、現在、アジアの国々で、自由と人権の尊重、民主主義といった近代の潮流とは逆方向の動きが目立っている。アジアではこの100年余り、西欧起源のこうした思想と原理で自国を作り替える試みが続いてきたが、いまだ完全に自らのものとするに至っていないのである。しかもこうした「逆方向の動き」は、アジアのみならず、欧米社会でも起こっている。
そもそも、ヨーロッパに生まれた「啓蒙思想」は、アジア各地の知識人にどんな衝撃を与えたのか、そして、彼らはどんな社会をめざしたのか。アジア各国の啓蒙思想家の生涯から、近代アジアの苦闘の歴史と、現代にいたる矛盾をとらえ直す。
序章では、その最初期のモデルとしての福沢諭吉を取り上げる。以下、中国で革命を志した陳独秀と胡適、インドネシアの女性運動の先駆者カルティニ、インドのネルーとガンディー、朝鮮の儒教知識人・朴泳孝、日本に近代化を学んだベトナムのファン・ボイ・チャウ・・・。いずれも、アジアの進むべき道をしめした「道先案内人」であり、日本の啓蒙思想家・中江兆民が言うところの「種を播いた人」であった。そして、「啓蒙思想」は過去のものではなく、それを実現するための運動は今も受け継がれて「現在進行形」なのである。
目次
はじめに――啓蒙思想は「過去のもの」か?
序章 啓蒙思想の誕生と明治日本
1 アジアを「文明化」する思想
2 福沢諭吉――アジア啓蒙思想の先駆者
第一章 ヨーロッパは革命の賜物だ 〈中国〉陳独秀と胡適
1 儒教への抵抗と孫文の限界
2 民主主義と科学――陳独秀の反骨
3 アメリカとの協調――胡適の台湾支持
第二章 それは私の一生の望みです! 〈インドネシア〉カルティニとハッタ
1 オランダの植民地教育と「文明化」
2 「留学組」の独立運動――ハッタの民主主義
3 民族覚醒の母――カルティニが見た光
第三章 われわれの人生は、枯木に行く手を塞がれている 〈インド〉ネルーとガンディー
1 カースト制度とイギリス支配
2 反近代西欧文明――ガンディーの論理
3 誇りあるインドの発見――「文明家」ネルー
第四章 残念ながら、私はわが国に生まれた 〈朝鮮・ベトナム・タイ・シンガポール・トルコ〉
1 朝鮮の「挫折」した近代化改革――朴泳孝・兪吉濬・尹致昊
2 ベトナムの儒学知識人――ファン・ボイ・チャウ、ホー・チ・ミン
3 王朝国家タイの立憲革命――チュラロンコン、ピブーン
4 シンガポール「イギリスか、中国か」――リム・ブーンケン、タン・カーキー
5 イスラーム国家トルコの近代化――ムスタファ・ケマル
終章 一身にして二生を経るが如く――近代アジアの共通体験
1 近代アジアの自立運動と日本
2 啓蒙思想と現代アジア