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講談社選書メチエ

ロシアあるいは対立の亡霊 「第二世界」のポストモダン

著:乗松 亨平

紙版

内容紹介

1991年の崩壊以降、ロシアは歴史の表舞台から消えたが、今世紀その存在感を奇妙なかたちで取り戻した。ウクライナ危機では核兵器まで用意し、かつての冷戦構造を彷彿とさせた。本書では、一九六八年以後のロシア現代思想の歩みを渉猟し、「対立が終わった時代」の対立をめぐる想像力を追跡。ロシアのアイデンティティ構造(自らをつねに「xの他者」〔X=資本主義、権力……〕)を明らかにする。現代を読み解くための必読書。


20世紀は民衆と権力、資本主義と社会主義の対立の時代でした。そして1968と1991という年号は、そのふたつの対立の終焉を告げる契機となったとされています。1991年以降混乱をきわめたロシアは一時、歴史の表舞台から消えましたが、21世紀に入りその存在感を奇妙なかたちで取り戻しました。そして、2014年ウクライナ危機では核兵器まで用意し、かつての冷戦構造を彷彿とさせたのです。
本書は、一九六八年以後のロシア現代思想の歩みを渉猟し、「対立が終わった時代」の対立をめぐる想像力を追跡します。社会のカナリアである思想家・芸術家の表現を丹念に読み解いていくことで、ロシアという国家の根底にあるアイデンティティ構造をあぶり出します。つまり、自らをつねに「xの他者」(X=資本主義、権力……)と規定する不安定な精神がロシア的構造です。
大きな物語の崩壊した時代=ポストモダンの日本ではおもに、「絆」によって「小さな物語」同士を調停する「大きな仕組み」を求めています。一方で、ロシアでは、「第二世界」の物語を書きかえることで、「xの他者」という物語を活性化しようとしています。
現代を読み解くための必読書です。

目次

はじめに 一九六八/九一年の亡霊
主要人物一覧
第一章 「第二世界」の物語
   一 日本とロシアのポストモダン
   二 「第二世界」のシニシズム
第二章 ソ連記号論のパフォーマティヴィティ
   一 「私」とその外部
   二 ロトマンの演劇的文化論
   三 自由の権力性
第三章 ポストモダニズムの「ロシア」
   一 記号論の「ロシア」
   二 ポストモダニズムと観測問題
   三 カオスの二つの顔
   四 ナショナル・アイデンティティとしての爆発
第四章 記号から身体へ
   一 「生の構築」批判
   二 言葉とその外部
   三 「あいだ」としての身体
第五章 「第二世界」のない対抗
   一 「権力にとっての他者」の困難
   二 共産主義の未来と過去
   三 対抗としての共同性
   四 対抗としての無為
おわりに 対立を消尽するために
年表
あとがき
索引

著者略歴

著:乗松 亨平
乗松亨平(のりまつ・きょうへい)
一九七五年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程満期退学、博士(文学)。現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授。専門はロシア文学・思想。主な著書に『リアリズムの条件――ロシア近代文学の成立と植民地表象』(水声社)、訳書にミハイル・ヤンポリスキー『デーモンと迷宮――ダイアグラム・デフォルメ・ミメーシス』(水声社)、レフ・トルストイ『コサック――1852年のコーカサス物語』(光文社古典新訳文庫)など。

ISBN:9784062586160
出版社:講談社
判型:4-6
ページ数:264ページ
定価:1700円(本体)
発行年月日:2015年12月
発売日:2015年12月11日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JB