岩波新書 新赤版 1979
医療と介護の法律入門
著:児玉 安司
内容紹介
医療と介護は身近でありながら、関連する法制度は複雑である。病院での医療事故、医療安全、医療のキーパーソンと後見人制度、医療と介護の連携、診療データの利活用、医学研究の倫理、人生最終段階の医療など――。それらをめぐる法制度を、国内外の例とともに語る。激変する医療と介護をより深く理解するための1冊。
目次
はじめに 医療と介護の場で法律が身近に
変貌していく医療と介護の法律
社会保障の「公助」「共助」「自助」
感染症法と新型インフルエンザ等対策特別措置法
この本でお話ししたいこと
第1章 医療と介護の法律
1 日本国憲法の中の医療・介護制度
自由の世界とその限界
公共の福祉の世界
社会保険の登場
2 医療法改正の軌跡
戦前の国民医療法
憲法、そして、医療法と医師法
超高齢社会を視野に入れた医療法改正の歩み
医療法の改正と一条の軌跡
医療法一条が示す今後の方向
第2章 医療安全と医療事故調査
1 医療事故、そして医療不信
一九九九年から激増した医療事故報道
きっかけは三つの事故報道
医療の問題点
「異状」を届けるということ
医療不信から医療崩壊へ
2 医療安全の始まり
増える医療過誤訴訟
医療の品質保証(QA)
品質改善(QI)へ
不注意やエラーを制御する方法
失敗から学ぶ組織文化、成功から学ぶ組織文化
誤注射事故を考える
アメリカ学術会議報告「人は誰でも間違える」
「四万四〇〇〇人から九万八〇〇〇人」の根拠と批判
医療の不確実性
3 医療法改正
森報告書「医療安全推進総合対策」
高久報告書「今後の医療安全対策について」
4 医療事故調査制度
アメリカの医療事故調査の五つの側面
記録に対する姿勢の違い
内部討議の自由の保障
医師免許制度の違い
監察医などによる死因調査制度
日本のモデル事業の発足
医療の評価の方法
日本医療安全調査機構の発足
医療事故調査制度創設までの議論(1)検視との関係など
医療事故調査制度創設までの議論(2)無過失補償制度との関係など
第六次医療法改正と医療事故調査制度
第3章 医療訴訟を考える
1 損害賠償の原則
過失責任主義と金銭賠償の原則
金銭による塡補についての疑問
過失責任主義の困難
過失責任主義の例外
2 日本の民事医療訴訟
民事医療訴訟の件数の推移
最高裁の二一件連続破棄判決
司法制度改革と医療集中部の設置
医療訴訟の審理
専門知識の導入
鑑定という手続
和解の増加
3 医療ADR
裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
医療ADRへの取り組み
4 無過失補償制度
フランスの選択
日本の無過失補償制度
医薬品副作用被害救済制度
第4章 超高齢社会の介護と医療
1 社会保障を支える社会的・経済的条件
ケインズ・ベヴァリッジ型福祉国家の構想
第二次世界大戦後の高度経済成長
低成長経済への対応
2 超高齢社会を前にした医療と介護の改革
医療の改革
介護の改革
家族の介護力
3 社会福祉基礎構造改革と介護保険
社会福祉基礎構造改革とは
社会保険としての介護保険
介護保険における「措置から契約へ」
成年後見制度の導入
「親亡き後」のサポート
「意思決定支援」という考え方
4 医療の同意
虐待防止法の制定
患者の「自己決定権」の二つの側面
「同意」をとること
5 医療機関の「応招義務」
医師法一九条の応招義務
医師法の仕組み
医師の業務独占
医師の「応招」義務
医療法との矛盾の拡大
患者側の思い
医師の働き方改革
令和元年医政局長通知による医師法の解釈変更
第5章 人生の最終段階の医療
1 二つの裁判例
名古屋高等裁判所昭和三七年一二月二二日判決
横浜地方裁判所平成七年三月二八日判決
誰がキーパーソンか
現場の直面している問題
「治療中止の是非」の問題の多様性
「尊厳死」
DNR
2 医療に関する司法判断と「ガイドライン」
いくら頑張っても、それ以上のことはできない
最高裁の判断と厚生労働大臣の判断
検察官の起訴便宜主義
3 ガイドラインの形成
終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン
ガイドラインの改訂
4 アメリカにおける生命維持治療の中止や差し控え
カレン・クインラン事件
ナンシー・クルーザン事件
生命倫理と司法制度の日米比較
5 残された課題
ひとりひとりの問題として社会全体で考える
第6章 倫理委員会と医学研究
1 人で試すということ
創薬や医療技術の開発と倫理委員会
安全性と有効性を確かめる手順――「治験」「臨床試験」
ナチスの人体実験とニュルンベルク綱領
ニュルンベルク綱領の残した課題
ジュネーブ宣言
ヘルシンキ宣言
ヘルシンキ宣言における同意
2 倫理委員会
タスキギー梅毒放置実験、そしてベルモント・レポート
レイマン・コントロール
ミレニアム・プロジェクト
研究倫理審査委員会の困難
レイマン・コントロールを超えて
3 利益相反(COI)の管理
他人の利益を第一にする「フィデュシアリー」
「情報」と「リスク」
「利益相反」
ムーア事件
経済的利益のバイアス
4 臨床研究法の制定と課題
相次ぐ研究不正
医学分野の研究不正の刑事事件
臨床研究法、特定臨床研究審査委員会、そして臨床研究中核病院
EUの工夫
アメリカ、FDAの工夫
元気の出る研究倫理を求めて
第7章 医療情報の利活用
1 医療情報の利活用は何をめざしているか
高度情報社会の医療
医療情報とプライバシー
アメリカでのAI開発の例
2 海外の法制度の動向
OECDで最下位といわれた日本
患者自身への診療情報の提供
アメリカのHIPAA
EUの一般データ保護規則
3 個人情報保護法と次世代医療基盤法
日本の個人情報保護法
同意原則とその例外
次世代医療基盤法
今後への期待
おわりに
主な参考・引用文献