はじめに
第1章 自己実現的予言
日本におけるトイレットペーパー・パニックと銀行取り付け
メインストリームの経済学とバブルは折り合いが悪い
銀行取り付け等はなぜ起きるのか:メインストリームの経済学の複数均衡による説明
人間は、なかなかパニックを起こさない:正常性バイアス
パニックを起こす四つの条件
金融市場にも正常性バイアスが働く:ドーンブッシュの法則
第2章 ヒトはどのように判断・行動しているのか
メインストリームの経済学による公共政策の基礎
1 行動経済学の知見
現在バイアスの罠
サンクコストの罠
責任者は深みにはまる:膝まで泥まみれ
人間のなかには二つのシステムがある
自動システムは原始的か
AIと人間の「ヒューリスティック」の違い
人間としての成長は人間をエコンから遠ざける
人間にとっての社会規範の重要性
人間は損失を嫌う:プロスペクト理論
2 ヒトの心への働きかけ:フレーミングとナッジ
フレーミング・選択アーキテクチャ
プライミング効果
ナッジ
ナッジの公共政策への応用
ナッジの倫理的課題
行動経済学的な人間像
第3章 マクロ的な社会現象へのフレーミングやナッジ
1 米中貿易摩擦と日米貿易摩擦:ポジティブなフレーミングの陥穽
中国から見た日米貿易摩擦
「国際協調」というポジティブなフレーミング
非対称的な国際協調の陥穽
2 日本の移民政策:フレーミングが強める現在バイアス
「新三本の矢」
日本は日本人の国として高齢化し収縮していくのか
「定住外国人」というフレーミングのリスク
将来の日本社会を混迷させる現在バイアス
3 新型コロナ対策:ナッジと社会規範の重要性
新型コロナウイルス禍の幕開け
各国の感染対策
日本の対策におけるナッジの要素
ウイルスの感染拡大とストーリーの感染拡大には類似性がある
第4章 メインストリームの経済学の「期待への働きかけ」
1 メインストリームのマクロ経済学が考える金融政策の枠組み
金融政策の基本:安定化政策としての金利操作
自然利子率と中央銀行の誘導金利の規範的関係
インフレ率はどこに落ち着くか
期待への働きかけの重要性
インフレ目標政策の歴史的出発点
金融危機後の状況
その後のニュージーランド
2 物価安定をどう定義すべきか
グリーンスパンによる物価安定の定義
物価測定が困難になってきた理由
物価測定をより困難にする経済の急激な変化
第5章 「期待に働きかける金融政策」としての異次元緩和
異次元緩和の出発点
1 公開市場操作からみた異次元緩和
量的緩和についての二つの考え方
公開市場操作のメカニズム
異次元緩和下でマネタリーベースを激増させることができる理由
当座預金への付利は売出手形売却と同じ資金吸収手段
自由に預金を引き出してはいけない日銀当座預金
2 「期待への働きかけ」の帰結
エコノミスト・金融市場関係者は懐疑的
家計の反応はエコノミストを下回る
家計は異次元緩和に関心をもたなかった
日本の状況はグリーンスパンの物価安定の定義を満たしていた
グリーンスパン的な物価安定脱却の二つの方法
異次元緩和に欠落していた家計にとってポジティブなストーリー
物価が上がっても賃金は上がらない
心理的衝撃を与えるサプライズの試み
物価上昇につながるフレーミングとナッジ
ピーターパンは飛ばなかった
第6章 物価安定と無関心
1 物価安定のあるべき姿とその達成手段
インフレ目標を二%とする理由
金融政策の「のり代」を巡る議論の変化
インフレ目標引き上げ論の高まり
インフレ目標引き上げ論へのイエレン議長とバーナンキ元議長の反応
国により「のり代」は異なる
「グローバル・スタンダード」という片思い
「のり代」はいつ作るのか
「物価への無関心」を障害と考えるのは本末転倒
2 ニューノーマルを超えて
正常性バイアスを壊さずインフレ率を上げることはできるか
コロナ禍での財政政策の復権とその金融政策への影響
正常性バイアスからみた物価の財政理論
財政インフレとインフレ目標
あとがき
付録:金融政策に関するノート
文献案内と脚注的補論