本書は、「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」と記載する)の改訂が議論される中、「いじめと法」を専門とし、立法政策にも通暁する研究者がいじめ防止対策推進法(以下、「本法」と記載する)28条の規定するいじめの重大事態の調査が抱える課題を分析した上で、調査の本来あるべき「現在」を実現するための方策として本法の改正を具体的に提案するとともに、調査をより充実させるための「未来像」として、家庭裁判所における手続の創設を提案するものである。
重大事態の調査は、民事訴訟をはじめとする法的措置及び加害児童生徒に対する保護処分等とは異なり、その調査結果に基づいて、重大事態への対処及び同種の事態の発生の防止を図っていくことができるから、その意義は大きい。
もっとも、本法は、重大事態の調査手続については、規定していない。また、本法には、施行規則や施行令がなく、これらによることはできない。
こうした状況の下で、調査手続を詳細に定めているのは、文部科学省により2017年3月に策定された「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」と記載する)である。
筆者は、重大事態の調査手続が適正かつ適式に行われることにより、重大事態への対処が適切になされるとともに、同種の事態の発生の防止が図られることを願って、2023年に『逐条解説「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」』(以下、「前著」と記載する)を上梓した。
前著は、ガイドラインの規定を踏まえて、学校、学校の設置者及び第三者委員会を含む調査組織が「ここまではやらなければならない」という内容を具体的に叙述し、調査の本来あるべき「現在」を明確にするものであった。筆者は、前著が重大事態の調査の在り方の現時点での到達点を示すものであったと自負している。ガイドラインが求める調査を実施すれば、重大事態への対処及び同種の事態の発生の防止を図るための取り組みにつなげていくことができ、被害児童生徒及びその保護者はもちろん、加害児童生徒及びその保護者、他の児童生徒及びその保護者、教職員、学校、学校の設置者、そして地域社会にも大きな利益をもたらすことができるはずである。
しかし、本法又はガイドライン等の法規範を無視したり、その規定に違反したりする学校、学校の設置者及び第三者委員会を含む調査組織等があまりに多く、後を絶たない。
本書は、こうした法規範の違反をはじめとする重大事態の調査が抱える課題を分析し、その解決策の必要性を示した上で、解決策を提示する。
解決策の提示に当たっては、①ガイドラインが示している調査の本来あるべき「現在」を実現するための方策として、個別の課題を解決するための本法の改正を具体的に提案するのみならず、②重大事態の調査をより充実させるための「未来像」として、家庭裁判所における手続の創設を提案する。