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岩波新書 新赤版 1900

新型コロナと向き合う

「かかりつけ医」からの提言

著:横倉 義武

紙版

内容紹介

医療現場では何が課題だったのか。医療政策・医療行政のどこに問題があったのか。そして今後の展望は——。著者は日本医師会会長として初動の緊迫した半年間、新型コロナ感染症対応にあたった。この経験の中で得た教訓と、感染拡大から一年半余を経た現状を踏まえ、「かかりつけ医」と地域医療を重視する立場からの提言を記す。

目次

はじめに


第1章 〈ドキュメント〉新型コロナウイルス感染症との半年間

二〇二〇年一月——得体の知れない感染症の脅威
 まずは情報連携の強化/早くも医療物資不足/日本医師会「新型コロナウイルス感染症対策本部」の設置/国民の生命か、経済か/水際対策の限界とサーベイランス/WHOのPHEIC宣言

二〇二〇年二月——まさかの一斉休校
 まん延防止のための医療体制の構築始まる/医師の判断で検査ができない/見えぬコロナの様相/足りない感染症病床——厚労省の方針転換/国への六項目の要望/政府「新型コロナウイルス感染症専門家会議」初会合/医療現場と国民にどう伝えるか/検査体制の強化?/学級閉鎖すべきか——学校医の出番/オンライン診療/現場で問われる本医師会の考え/「帰国者・接触者外来」はどこだ/「新型コロナウイルス対策の目的」——専門家会議による基本的な考え方/「医療提供体制の方向性」——政府の基本方針と医療現場の懸念/感染拡大防止のためのメッセージ発信/国へ要望書を手交/学校一斉休校は何をもたらすか/「ダイヤモンド・プリンセス」号にJMAT派遣/クルーズ船内におけるJMATの役割

二〇二〇年三月——迷走するPCR検査
 依然なくならない不適切事例/PCR検査保険適用への誤解/「帰国者・接触者相談センター」のパンク/「帰国者・接触者外来」のパンク/院内感染と濃厚接触者の判断/院内感染を防ぐための診療制限/オンライン診療の適用拡大/空床情報のネットワーク化/WHOの三つのシナリオ/「帰国者・接触者相談センター」と「帰国者・接触者外来」の強化/正しい医学的知見を伝えるために/医療従事者の濃厚接触者判断のその後/WHOのパンデミック宣言/防護具不足のその後/インフル特措法改正、緊急事態宣言発令準備整う/医療現場の懸念——医療従事者の感染/医療機関情報の把握/入院医療体制/医療提供体制をどうするか/「帰国者・接触者外来」への協力/軽症・無症状の陽性者の扱い/ワクチン開発への期待/「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」/PCR検査体制の再構築/保険適用わずか、いまだ行政検査/「帰国者・接触者外来」拡充をはばむ壁/抗体検査の測定キット/感染患者の増加を見据えた医療体制の構築/COVID-19JMAT/医師の生涯教育/日医独自の医療の緊急事態宣言へ/基盤としての財源システムの不在/感染者数の特徴

二〇二〇年四月——「緊急事態宣言」発令
 「医療危機的状況宣言」/医療提供体制の窮状/政府、「緊急事態宣言」の発令/医療機関への財政支援策三つの柱/医師会からの様々な発信/有効な治療薬の兆し——シクレソニドとアビガン/自宅療養患者等に対するフォローアップ/医師会によるPCR検査センター/日医「COVID-19有識者会議」の発足/防護具不足の解消に向けて/重症患者の病床確保に向けて/救急医療の逼迫/緊急事態宣言の解除に向けて/医師会「地域外来・検査センター」運営マニュアル/アビガンの早期承認を/病院経営悪化の懸念

二〇二〇年五月——病院経営悪化、深刻に
 受診控え——外来・入院患者数の減少/緊急事態宣言の延長/レムデシビルの承認/唾液によるPCR検査への期待/医療機関への財政支援を/第一波の収束——緊急事態宣言の解除/第二次補正予算の閣議決定

二〇二〇年六月——検査方法の進展
 唾液によるPCR検査、保険適用へ/抗体検査、三都府県調査/抗原検査だけで陰性判断へ/医療経営の窮状続く/次世代の看護師養成のために/後回しになりがちな健診/退任


第2章 新型コロナウイルス感染症政策を考える

1 PCR検査の二つの顔
 医療か公衆衛生か/検査数はなぜ伸び悩んだのか

2 防護具不足による医療崩壊の危機
 感染防護具が足りない/医療界の団結と協力だけでは解決できない/産業界との連携体制の確立へ

3 コロナ医療と通常医療を両立させる医療提供体制の再構築
 脆弱な感染症医療提供体制/陽性者はすべて入院という不都合——医療の本質と乖離した行政判断/入院・宿泊施設・自宅療養の仕組みへ/宿泊施設・自宅療養患者への健康支援/民間病院がコロナ患者を受け入れないのが悪いという風潮/病気はコロナだけではない——「コロナ医療」と「通常医療」の両立が重要/自宅療養患者への診療体制の強化

4 医療を守るには財源確保が必要
 風評被害と医療機関の経営悪化/安定的財源確保という課題

5 感染症としての位置づけをどうするか
 感染症法に基づく分類/既存の類型への位置づけでよかったのか

6 政策決定過程のあり方

7 治療薬の実用化に向けて
 重症化リスクの高い方へのアビガン投与/レムデシビルの特例承認/治療薬の今後

8 ワクチン開発と接種をめぐる話
 開発と接種に向けた法整備/国内ワクチン開発への期待/ワクチン副反応と救済制度

9 災害時の医療の役割——JMATをめぐって
 医師会の被災者支援活動/感染症流行下におけるJMATへの新たな期待/大切なのは、オールハザードアプローチの視点

10 危機管理体制——「日本版CDC」の必要性

11 感染症対策を健康教育へ
 子どもをいかに守っていくか/感染症に負けない人を育てる


第3章 「かかりつけ医」の果たす役割——感染症の教訓とともに考える

1 医師たるもの「かかりつけ医」となれ——父の教え
 結核患者のために私財を投じた父/感染症予防に便槽の清潔活動/地域に溶け込んでなんぼ

2 コロナ医療と「かかりつけ医」
 地域の医療連携体制の中心として/ワクチン接種と「かかりつけ医」

3 「かかりつけ医」の多様な働き
 かかりつけ医の役割と機能/かかりつけ医の育成/かかりつけ医の活動を支える

4 「かかりつけ医」をもとう


おわりに

著者略歴

著:横倉 義武
横倉義武(よこくら よしたけ)
1944年生まれ。久留米大学医学部卒業。医学博士。福岡県医師会会長(2006‒2010)、第19代日本医師会会長(2012‒2020)、日本人で3人目の世界医師会会長(第68代、2017‒2018)などを経て、現在、社会医療法人弘恵会ヨコクラ病院理事長。医師になって50年来、患者さんに寄り添う安心できる医療を目指して、患者さんに最も身近な「かかりつけ医」の立場から地域医療を支える活動を続けている。

ISBN:9784004319009
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:254ページ
定価:860円(本体)
発行年月日:2021年10月
発売日:2021年10月22日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MBN