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発明は改造する、人類を。

著:アイニッサ ラミレズ
訳:安部 恵子

紙版

内容紹介

 歴史上、大きな転換点となった偉大な発明はただ一人の人間によって作られたわけではない。そこには、歴史に残らなかった幾多の協力者、ライバル(足を引っ張る者も)がおり、さらには歴史的偶然や必然もあった。

 これまでの書籍では、おもに発明の中心となった人物に光を当てて記述されているが、本書では、その当人だけではなしえなかった事実を明らかにしつつ、偶然の出会いや、ライバルによる競争、そこに絡む欲得も含め、歴史から欠落した陰の部分も丁寧に掘り下げていく。

 また、新たな発明は、さらに新しい発明を生み出し、それまでの生活習慣やわれわれの世界についての考え方を次々と変えてしまうことも明らかにする。たとえば、時計(正確で誰でも使える)が発明される前は、暗くなったら就寝するものの、夜中に一度目が覚めて軽く仕事をしたり食事までしていた。それが時計の日常化により「時間」とともに起きることを強制されるようになった。さらに電灯の発明が夜の作業をやりやすくし、夜は寝るだけのものではなくなっていく。夜の時間に会う約束ができ、夜の時間帯に働けるようにもなった。そしてこれらとは一見、無関係に思える鋼鉄の発明はレールを伸ばし、鉄道網も格段に広がったが、それは時間を正確に測る時計の発明によって、時刻表が作れるようになったからだ。そして割れにくいガラスの発明で、信号灯の赤い色が割れることなく利用でき、列車が衝突せずに運行可能となった。これらの発明で列車を利用できるようになり、駅馬車での何日もかかる移動から解放され、他の地域への短時間の移動が可能になり、物流にも変革をもたらしていったのだ。その結果、他の地域の商品が簡単に手に入るようになった。それまでの単純な地産地消でしかない生活からの大変化をもたらし、クリスマスがプレゼントする日にもつながっていったのだ。などなど、発明の相互の影響がわかるように記述されていく。

 しかし私たちの体は、そうした急速な進歩に追いつけず、ゆがみを生じる。たとえば、かつての分割睡眠に戻ろうとして夜中に目が覚めるとすぐに眠りにつけなかったり、人工照明が自然な概日リズムを乱すようになり、睡眠障害やホルモンバランスの変化を起こすようになった。その結果、夜勤労働者での癌や心疾患リスクの増加、糖尿病や肥満への影響も生じ、高身長といった成長ホルモンによる体自体の変化も生じている。そして今、ネットの発達で脳もその影響を受け始めたのだ。もともとわれわれ自身の脳にあったワーキングメモリーがネットに置き換わる変化が起き始めているのだ。シリコンバレーの富裕層がかよう高校にはパソコンが存在しない。そこで生活する親は子どもにこうしたテクノロジーを使わせないようにしている。そのことが暗示するものとは何だろうか。発明にまつわる失われた歴史を掘り起こし、驚くべき影響についても述べていく。

目次

まえがき

第1章 交流する
小さな金属ばねと振動する鉱石によって時計の性能がアップしたおかげで、私たちは時間に合わせて暮らせるようになったが、貴重な何かを見失うことにもなった。

第2章 結ぶ
鋼鉄は鉄道レールとしてアメリカを一つにしたが、文化の大量生産もうながした。

第3章 伝える
初めは鉄製で、後に銅製になった電信線が、コミュニケーションの高速伝達方法を生み出して、情報を形作り、そして意味を形作った。

第4章 とらえる
写真感光材料は、目に見える方法と見えない方法で私たちをとらえた。

第5章 見る
炭素フィラメントは暗闇を押しのけて、そのおかげで私たちはよく見えるようになったが、それと同時に私たちの目を覆って、その過剰さの影響が見えなくなった。

第6章 共有する
データの磁石粉は共有することを可能にしたが、共有を止めることを困難にもした。

第7章 発見する
実験用ガラス器具のおかげで、私たちは新しい薬を発見し、またエレクトロニクス時代への秘密を発見することになった。

第8章 考える
原始的な電話交換機の発明は、コンピューター用シリコンチップの先駆けになったが、私たちの脳の接続方法も変えた。

あとがき
謝辞
訳者あとがき
図の出典
引用の許可
参考文献

索引

ISBN:9784760153947
出版社:柏書房
判型:4-6
ページ数:408ページ
定価:2800円(本体)
発行年月日:2021年07月
発売日:2021年07月26日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:TBC