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教育福祉の社会学

〈包摂と排除〉を超えるメタ理論

著:倉石 一郎

紙版

内容紹介

本書は、教育を通じて貧困や排除の克服をはかる「教育福祉」の歴史・実践を検証し、その理論を社会学的に再構築していくものである。教育現場をとりあげた映像作品も参照しつつ、〈包摂と排除〉の二元論を超えるメタ理論の構築をめざす。

目次

序章 出発点――〈包摂と排除〉の同心円モデル
 1.本書のはじめに
 2.同心円モデルが帰結する二つのアプローチ――社会移動モデルと純包摂モデル
 3.「練習問題」としてのビジティング・ティーチャー、福祉教員
 4.本書の構成

第1章 包摂と排除の「入れ子構造」論――迷宮に分け入るための一歩
 1.本章のはじめに――同心円モデルの何が問題なのか
 2.在日朝鮮人教育にみる「入れ子構造」
 3.障害児の就学猶予・就学免除制度にみる入れ子構造
 4.中間考察
 5.「福祉教員」の事例にみる包摂と排除
 (1)福祉教員がおこなった「包摂」としての実践
 (2)福祉教員と包摂の置かれた歴史的文脈をめぐる一考察
 6.本章のおわりに

第2章 ルーマンから学ぶ「包摂その一歩手前」の大切さ――「平凡でないマシーン」とその平凡化の視座から
 1.本章のはじめに
 2.機能分化・包摂/排除・教育システム
 3.内部転写(re-entry)が可能にする「平凡でないマシーン」の平凡化
 4.シティズンシップ・就学義務制度・「市民に非ざる者」の排除
 5.〈差別=選別の教育〉という言説の陥穽
 6.スーパーコードとしての包摂/排除
 7.本章のおわりに

第3章 「包摂の一歩手前」を可視化した貴重な記録――在日朝鮮人高校生を描いたあるビデオドキュメンタリーから
 1.本章のはじめに
 2.この作品とわたし自身、あるいは本章の叙述法
 3.作品のオープニング――誰が至高のナレーターなのか?
 4.登場人物たちと出会いそこねる―――1995年12月・神戸
 5.見られることなく見続ける「第二のカメラ」
 6.ジャーナリストの矩を超える――そのとき何が起こったか?
 7.舞台の高校を訪ね、「先生」と会う――1996年9月
 8.心臓部=「教室」へ
 9.ひょんなことから始まった「同窓生たち」とのつきあい――1996年冬~1997年夏
 10.作品の後半部――「親密性深化の物語」への傾斜
 11.再び、不同意の「映り込み」
 12.裏切られた予定調和
 13.後日譚――1998年
 14.後日譚2――1997年秋~1999年春
 15.本章のおわりに

第4章 創発的包摂の教育小史――「必要の政治」を主題とする三つの事例から
 1.本章のはじめに
 2.創発的包摂とは何か
 3.議論の補助線――「必要の政治」と「20世紀シティズンシップ」
 4.教科書無償闘争(1961~63年)
 (1)問題の背景
 (2)経過
 (3)長浜の闘争にみる創発的包摂
 5.金井康治君闘争(1977~1983年)
 (1)問題の背景
 (2)経過と解釈
 (3)金井闘争にみる創発的包摂
 6.「民受連」の挑戦(1995年頃~2003年)
 7.本章のおわりに

補章 〈宿題〉からみた包摂と排除――教育総動員体制論序説
 1.本章のはじめに
 2.〈宿題〉への歴史的パースペクティブ
 (1)佐藤秀夫の〈宿題〉論
 (2)山村賢明の〈宿題〉論
 (3)総力戦・総動員体制研究
 3.解放教育運動における〈宿題〉――高知県の闘争を中心に
 (1)無償化闘争の隠されたテーマ
 (2)問題化される〈宿題〉と教科書無償闘争
 (3)長欠・不就学問題への福祉教員の取り組み
 (4)小括
 4.「効果のある宿題」ともう一つの「自己完結不可能性」――大阪・松原の事例から
 (1)宿題問題への「決着」の付け方
 (2)学校システムの自己完結という「見果てぬ夢」
 5.本章のおわりに

第5章 創発的包摂を生きる主体の肖像――リー・ダニエルズ『プレシャス』を観る
 1.本章のはじめに
 2.奇跡としての包摂――本作品の基本情報と背景
 (1)オルタナティブ・スクール(代替学校)とGED(高校卒業認定資格)
 (2)AFDC(要扶養児童世帯扶助制度)
 (3)エイズ・中絶問題・レーガン政権
 3.プレシャス一家の暮らしぶり・親子関係とその変容
 4.ワイス氏――「成長する」狭義の包摂の忠実な担い手
 5.レイン先生――創発的包摂の支え手として
 6.本章のおわりに

第6章 公私融合の混迷状況で読み解く〈包摂と排除〉――教育基本法改定前・後の比較から
 1.本章のはじめに
 2.前提となる議論
 (1)拙稿「生活・生存保障と教育をむすぶもの/へだてるもの」(倉石 2015)の反省
 (2)仁平典宏による〈教育福祉〉批判
 3.20世紀後半のリベラリズム秩序と戦後教育学という「知恵」
 (1)旧教育基本法とリベラリズム秩序
 (2)教育・福祉の結合余地と発達保障論・戦後特殊教育という「作品」
 4.21世紀の「教育福祉」が抱え込んだ不幸な条件
 (1)改定教育基本法が体現する公私融合世界
 (2)両アクターの脆弱化――公私融合の背景
 (3)クロスオーバー=支え合い状況のリアル
 5.本章のおわりに――「不幸な状況」を脱する道は?

終章 蟷螂の斧をふりかざす――コロナ禍のもとでの思考停止に抗う
 1.創発的包摂への逆風?――専門家と非専門家の関係性
 2.「社会保障モデルの時代」への逆行か
 3.労働力の商品化、然らずんば死なのか?
 4.本書のおわりに――あとがきに代えて

 参考文献
 初出一覧
 索引

著者略歴

著:倉石 一郎
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1970年兵庫県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。東京外国語大学教員をへて現職。この間、ウィスコンシン大学マディソン校客員研究員などを歴任。研究分野は教育学・教育社会学・教育社会史。特にマイノリティ教育の比較分析。
主著に『テクストと映像がひらく教育学』(昭和堂、2019年)、『増補新版 包摂と排除の教育学』(生活書院、2018年)、『アメリカ教育福祉社会史序説』(春風社、2014年)、『差別と日常の経験社会学』(生活書院、2007年)。共著として『問いからはじめる教育史』(岩下誠、三時眞貴子、姉川雄大との共著、有斐閣、2020年)。翻訳書として『教育依存社会アメリカ』(小林美文との共訳、岩波書店、2018年)、『黒人ハイスクールの歴史社会学』(久原みな子、末木淳子との共訳、昭和堂、2016年)。

ISBN:9784750352206
出版社:明石書店
判型:A5
ページ数:212ページ
価格:2300円(本体)
発行年月日:2021年06月
発売日:2021年06月16日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JNA