出版社を探す

日経文庫 A94

医療と介護 3つのベクトル

著:池上 直己

紙版

内容紹介

■日本の医療・介護は、度重なる制度改正や高齢化などによって変わり続けていますが、その本質や、変化の大きな流れを、本書では(1)専門分化、(2)事業化、(3)公平化という3つのベクトルからとらえ、これからを展望します。

■第1のベクトルは「専門分化」です。医師の指示によって患者の入退院から薬の内容まで決まりますので、まず医師の置かれた立場を理解するのが不可欠です。医師には患者を治すという使命感がありますが、医学の膨大な知識を全部修得できませんので、専門分野に特化するベクトルが働き、それを測る指標は専門医制度の完成度です。
第2のベクトルは「事業化」です。医療は医師の診療だけでは成り立たず、医療機関は「事業体」としてヒト・モノ・カネを確保し、事業計画に従って事業を展開する必要がありますし、配分沿って費用を支出し、収益を確保する必要があります。そのためには医療機関の経営が、医師の家計や政府の予算から独立している必要があり、独立の程度によって、「事業化」のベクトルを測れます。
第3のベクトルは「公平化」で、だれでも、どこでも、いつでも受診できる体制を構築し、維持することです。医療は命が関わりますので、患者は「身の丈にあった」医療ではなく、最善の医療を借金してでも受けようとします。そのため世帯が貧困になる大きな理由は医療費にあります。したがって、医療費によって貧困にならない体制の達成度によって「公平化」のベクトルを測れます。

■この3つのベクトルの強弱は国によって異なり、例えば日本は「公平化」のベクトルが強く、患者はどこの医療機関でも受診でき、負担する金額は支払える範囲に留まっていますが、「専門分化」と「事業化」は弱いです。これに対してアメリカは「専門分化」と「事業化」が強く、お金があれば最高の医療を受けられますが、「公平化」は弱く、医療費が個人の破産する大きな要因になっています。
 新型コロナに対する初期対応を例にとると、まず「専門分化」が働いて感染症や集中治療の専門医の必要性が認識されました。次に、医療機関の「事業化」を支援するため、復職支援等で医師・看護師等のヒト、マスク等の個人防護具の調達でモノ、診療報酬の引き上げや交付金でカネをそれぞれ確保する支援が行われました。一方、「公平化」は基本的に維持され、患者の所得階層や年齢によるアクセスの制限は課題になりませんでした。

■著者は複雑な日本の医療・介護制度についてわかりやすく解説し、医療関係者だけでなく、経済学など他分野の専門家や行政の担当者からも高く評価されてきました第一人者です。

目次

第1章 専門分化のベクトル
1英米における展開
2日本の特性
3診療報酬による対応

第2章 事業化のベクトル
1事業化への対応
2諸外国における対応
3日本の特性
4診療報酬による規定

第3章 公平化のベクトル
1医療の特異性
2日本における公平化
3診療報酬による対応
4医療計画による対応

第4章 介護保険の見直し
1医療と介護の関係
2欧米における長期ケアの展開
3介護保険創設までの経緯
4介護保険の概要
5制度設計の基本問題

第5章 今後の展開
1寄木細工の日本の制度
2現行制度の課題
3医療と長期ケアの統合再編案

著者略歴

著:池上 直己
慶應義塾大学名誉教授。聖路加国際大学特任教授。日本医療政策機構 アカデミックフェロー
1949年生まれ。慶應義塾大卒、医学博士。慶應義塾大学総合政策学部教授、ペンシルベニア大学訪問教授、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授、を経て現職。
専門は医療政策・管理学。

ISBN:9784532114404
出版社:日経BP 日本経済新聞出版本部
判型:新書
ページ数:208ページ
定価:1000円(本体)
発行年月日:2021年04月
発売日:2021年04月18日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MBN