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MINERVA 西洋史ライブラリー 116

ヨーロッパ複合国家論の可能性

歴史学と思想史の対話

編:岩井 淳
編:竹澤 祐丈

紙版

内容紹介

「複合国家」の歴史的展開とその思想史的な意味とは――。今日の世界では主権国家に根ざしたナショナリズムが温床となり、分断や不寛容のあらしが吹き荒れている。本書では、こうした状況を相対化するため人文学が取り組みうる作業の一環として、歴史学と思想史という異なる分野の研究者が協同し、主権国家論を前提とする従来の議論では注目されてこなかった、ヨーロッパの国家が抱える重層性や可塑性に光を当てる。

目次

はしがき

序 章 複合国家ブリテンの紐帯と地域連鎖(岩井 淳)
 はじめに
 1 一六世紀の複合国家――ウェールズやアイルランドに及ぶ紐帯
 2 一七世紀の危機――複合国家解体の危機とその再建
 3 一七世紀末の紐帯――プロテスタント、議会、帝国
 おわりに


 第Ⅰ部 複合国家論から見たヨーロッパ

第1章 フランス政治思想史における複合国家論と主権論(安武真隆)
 はじめに
 1 「複合国家」論の現在
 2 旧体制期におけるフランス政治思想史
 おわりに

第2章 複合国家の近代――オーストリアの人権に関する基本法第一九条「民族は平等である」を読み解く(大津留 厚)
 はじめに
 1 「形容詞」で表現される国家、国境、国民
 2 アウスグライヒ――複合国家的国制と国民国家的国制のせめぎ合い
 3 「民族は平等である」の誕生
 おわりに

第3章 近世の神聖ローマ帝国とオランダ――複合国家論の射程(望月秀人)
 はじめに
 1 「帝国離脱」以前のネーデルラントの統合
 2 八十年戦争によるオランダの「帝国離脱」
 3 連邦共和国の紐帯
 おわりに

第4章 複合国家の近現代――シュレージエン/シロンスク/スレスコの歴史的経験から(衣笠太朗)
 はじめに
 1 近世・近代のシュレージエンと複合国家プロイセン=ドイツ
 2 オーストリア・シュレージエンにおける「シュロンザーケン運動」
 3 第一次世界大戦直後のシュレージエンにおける分離主義運動
 おわりに


 第Ⅱ部 ブリテン島とアイルランド

第5章 アイルランド「王国」――複合性と従属性(勝田俊輔)
 はじめに
 1 植民地としてのアイルランド
 2 名誉革命後のアイルランド――植民地性から従属性へ
 おわりに

第6章 ジョナサン・スウィフトの国家意識(中島 渉)
 はじめに
 1 アングロ・アイリッシュとしてのスウィフト――その出自と対アイルランド感情の複雑さ
 2 『傷つけられた婦人の話』に見るイングランド・スコットランド・アイルランドの三国関係
 3 『ドレイピア書簡』における国家論
 4 スウィフトの「ブリテン」意識のかたち
 おわりに

第7章 日本人のアイルランド認識と複合国家論(齋藤英里)
 はじめに
 1 明治の国家形成期におけるアイルランド認識とブリテン像
 2 帝国形成・発展期のアイルランド認識とブリテン像
 3 戦後日本のアイルランド史研究
 おわりに

第8章 ヒューム研究からの複合国家論(鎌田厚志)
 はじめに
 1 複合国家の「光と影」および「文明と野蛮」について
 2 政治と文学――スウィフトとヒュームを手がかりに
 3 学問と帝国批判――矢内原忠雄を手がかりに
 おわりに

第9章 バーク研究からの複合国家論(貫 龍太)
 はじめに
 1 『処罰法論』の研究史と複合国家論
 2 『処罰法論』の国制論――ナショナルな政治理念への懐疑
 3 『処罰法論』の宗教論――ブリテン的制度とナショナルな信仰
 4 『処罰法論』の歴史論――歴史認識における自律
 おわりに


 第Ⅲ部 思想史学から見た複合国家論

第10章 ブリテン思想史研究における複合国家論の可能性(竹澤祐丈)
 はじめに
 1 日本のブリテン思想史研究の二つの特徴と複合国家的観点の有効性
 2 個性記述的な思想史研究からの出発――ブリテン複合性への原初的関心
 3 「『イギリス』の内部問題」に関する議論の展開――異なる問題意識を持つ研究動向との自覚的接合の必要性
 おわりに

第11章 複合国家ブリテンにおける征服と植民――ジョン・デイヴィス小論(木村俊道)
 はじめに
 1 「古来の国制」と「古来の大権」
 2 征服と植民の歴史
 3 詩と統治
 おわりに

第12章 一七世紀思想史からの複合国家論――ジョン・ロックの寛容思想と名誉革命(武井敬亮)
 はじめに
 1 一七世紀ブリテンにおける〈統合の紐帯〉の変容
 2 名誉革命と寛容思想
 3 ジョン・ロックの寛容思想と『寛容書簡』
 おわりに

第13章 複合国家と思想史研究――一八世紀の政治・経済思想を題材として(森 直人)
 はじめに
 1 複合国家研究と「言説」の位置づけ
 2 歴史的経験の「モデル化」――『想像の共同体』を補助線として
 3 複雑な歴史と抽象的なモデル――ヒューム『イングランド史』と『論集』について
 おわりに

第14章 一八世紀アイルランドの社会変革論――スウィフト以後、バークリ『問いただす人』とバーク『改革者』を中心に(桑島秀樹)
 はじめに
 1 ジョージ・バークリ――バミューダの夢を故国アイルランドで
 2 『問いただす人』――技芸こそ貧しい「子ども」のアイルランドを救うカギ
 3 エドマンド・バーク――新聞『改革者』の出版、「趣味」から「道徳」の改革へ
 4 一八世紀ダブリンに満ちる憂鬱と「ケリー騒動」
 5 『改革者』――産業・技芸奨励のための公共精神と「ソサイエティ」
 おわりに

第15章 現代文明論からの複合国家論――政治思想としての歴史叙述(佐藤一進)
 はじめに
 1 ポーコックによる主権概念の再定式化
 2 ブリテンの複合国家性とヨーロッパの超国家性をへだてるもの
 3 歴史家の営為をめぐって
 おわりに


終 章 歴史学と思想史学における複合国家論の可能性(岩井 淳)
 はじめに
 1 一六世紀の複合国家――イングランドとウェールズの合同
 2 一六・一七世紀のコモンウェルス論――コモンウェルス・メンとハリントン
 おわりに


あとがき
人名・事項索引

著者略歴

編:岩井 淳
2021年5月現在
静岡大学人文社会科学部教授
編:竹澤 祐丈
2021年5月現在
京都大学大学院経済学研究科准教授

ISBN:9784623090600
出版社:ミネルヴァ書房
判型:A5
ページ数:356ページ
定価:7000円(本体)
発行年月日:2021年05月
発売日:2021年04月28日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHD