岩波文庫 緑202-4
詩人・菅原道真
うつしの美学
著:大岡 信
紙版
内容紹介
日本の文化伝統のなかには「うつしの美学」がきわめて深い根拠をもって生きている。「うつし」とは「移し」。すなわち、あるものを別のものに成り入らせ、その動勢と調和に美を見出す精神の活動である。菅原道真の詩は、その「うつし」が生んだ、最もめざましい古代的実例であった。和歌の詩情を述志の漢詩に詠んだ詩人を論じる。(解説=蜂飼 耳)
目次
はじめに——「うつし」序説
1 写実主義はなぜ勝利しなかったか
2 「うつし」という言葉
3 「移し」という行動的理念
4 「移り」——蕉風俳諧の重要な概念
5 「なぞらえる文学」
6 異質なものの連結
7 漢詩人・菅原道真
Ⅰ 菅家のうつしは和から漢へ——修辞と直情 その一
1 菅原道真研究史
2 漢と和の統合
3 『新撰万葉集』の「うつしの美学」
4 漢詩の修辞と和歌の修辞
5 「述志の詩」としての漢詩文
6 実用的な写実的な散文精神
Ⅱ 修辞のこうべに直情やどる——修辞と直情 その二
1 「詩を吟ずることを勧めて、紀秀才に寄す」
2 「阿満を夢みる」
3 「中途にして春を送る」
4 「花鳥」と悲愁
Ⅲ 詩人の神話と神話の解体——修辞と直情 その三
1 「寒早十首」
2 道真追放の理由
3 貧苦の描写
4 白居易「春の深きに和す」
5 同時代人・菅原道真
Ⅳ 古代モダニズムの内と外
1 詩人の達観
2 漢詩文から大和言葉文芸へ
3 大宰府における道真
4 「奥州なる藤使君を哭す」
5 「叙意一百韻」
6 漢語世界と叙事的精神への接近
あとがき
解説 菅原道真を現代へ連れてくる……………蜂飼耳