随想森鷗外
著:小塩 節
紙版
内容紹介
森鷗外ほどの大きい、まさに彼自身の言う『空車』のように巨きな存在は、通常の目では見通せぬ渦を巻いていたものだろう。普通一般の日本人であれば、死に臨んで己れと全自然、全世界との融合融和を念じ、そこに秘かな悲哀を覚えつつ満足するだろう。死に臨んで全世界に対して怒る人はまずいない。これほどの大きな弧を描いて生を完うした人間が、憤怒の情をもって己が死を迎えるとはどうしてか。なにゆえに、それほどに、己れを叱ったのか。鷗外の歩んだ道をたどりながら、その実像と自身は決して語ることのなかった深い深い悲しみに触れる。新しい鷗外像がここにある。
目次
まえがき/『妄想』 海を眺める白髪の翁・作品『妄想』・死・自我・師と主・『空車』/津和野から東京へ幼き日と青春時代 津和野の幼少年時代・父と母と・切支丹禁制・切支丹の津和野流刑・鷗外の屈折―キリスト教についての沈黙/ドイツ留学 ドイツ留学・ライプツィヒ・ドレスデン・ミュンヒェン・ベルリン―留学最後の一年・ナウマン論争の始まり・鷗外文庫の漢訳聖書・寛容・翻訳について/結核 死に至る病・肺結核・明治二十五年(三十一歳)の喀血・肺結核による肋膜炎・肋膜炎(胸膜炎)再発・痰・遺言/脚気 脚気の系譜・脚気・陸海軍における脚気・鷗外と脚気・脚気と海軍・鷗外の脚気観・科学的調査・腸チフス/恋人エリーゼ・ヴィーゲルト 帰国・賀古鶴所宛の手紙・エリーゼの面影・エリーゼについてのデータ二、三・鷗外遺品のモノグラム/あとがき