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ブルーバックス

時間はどこから来て、なぜ流れるのか?

最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」

著:吉田 伸夫

紙版

内容紹介

科学が捉えた「時間の本質」――時間は過去から未来へ流れて《いない》!?

時間の正体は、宇宙の起源につながっている。
時間とは何か? 時は本当に過去から未来へ流れているのか? 「時間が経つ」とはどういう現象なのか?
先人たちが思弁を巡らせてきた疑問の扉を、いま、物理学はついに開きつつある。
相対性理論、宇宙論、熱力学、量子論、さらには神経科学を見渡し、科学の視座から時間の正体に迫る。

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【本書「はじめに」より】
 「時間が経つ」あるいは「時が流れる」とは、どういうことだろうか?
 目の前に置かれた時計を見つめている自分を想像していただきたい。時計の針が、3時ちょうどを指しているのを見たとしよう。そのままじっと時計を見つめていると、秒針がゆっくりと一周し、長針がわずかに進んで、3時1分を指すのが見える。さらに見つめ続けると、やがて針は3時2分を、続いて3時3分を指す。
 時計を見ている人にとって、針がある時刻を指すのを目にする場合、その時刻だけがリアルな瞬間だと感じられる。針が3時2分を指しているならば、3時1分を指す光景は過去の記憶であり、3時3分を指すことは未来の予測である。どちらも、3時2分を示す時計を目の当たりにしている「いま」のようなリアリティは感じられない。時計を見つめ続けると、時計の針は、しだいに、その後の時刻へと動いていく。この状況を素朴に解釈すると、眼前の時計が示す「いま」の時刻が、後へ後へと移動していくことを表すようにも思われる。
 さて、ここで考えていただきたい。こうした「時の流れ」は、意識の外にある物理世界においても、客観的な出来事として起きているのだろうか? 言い換えれば、「時の流れ」は物理現象なのか――という問題である。

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【主な内容】
■はじめに――時の流れとは
《第I部 現在のない世界》
■第1章 時間はどこにあるのか
■第2章 過去・現在・未来の区分は確実か
■第3章 ウラシマ効果とは何か
《第II部 時間の謎を解明する》
■第4章 時間はなぜ向きを持つか
■第5章 「未来」は決定されているのか
■第6章 タイムパラドクスは起きるか
■第7章 時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか

目次

■はじめに――時の流れとは
ニュートンの時間観/場の理論の台頭/本書は何を目標とするか/本書の構成

《第I部 現在のない世界》

■第1章 時間はどこにあるのか
原子スケールの現象と時間/時計で時を計る/尺度の起源/尺度を生み出す量子効果/大きさのない世界/現実世界における大きさの基準/時間の尺度を決める/時間の尺度と重力/重力による光の屈折/時間はどこにあるのか?/もう少し深く知りたい人のために――等価原理と時間の遅れ
■第2章 過去・現在・未来の区分は確実か
地球の運動とエーテルの風/電磁気学で公転運動が検出できるか/静止エーテルの謎/力学で公転運動が検出できるか/アインシュタインの相対性原理/人間的な法則・宇宙的な法則/マクスウェルの電磁気学/ローレンツの挑戦/運動に伴う時間のずれ/相対性原理と「現在」/拡がった時間と運動/もう少し深く知りたい人のために――時間のずれが必要な理由
■第3章 ウラシマ効果とは何か
回転しても変わらない世界/静止と運動の区別がない世界/ミンコフスキーの幾何学/座標系の同等性/ミンコフスキーが明らかにしたこと/時間と空間の界面/光速は(なぜか)不変である/ニュートリノの速度/運動する時計の遅れ/ウラシマ効果/時間と空間の計量/もう少し深く知りたい人のために――光速不変性は原理か

《第II部 時間の謎を解明する》

■第4章 時間はなぜ向きを持つか
熱の流れとエントロピー/エントロピーと秩序/ビッグバンのパラドクス/変化はビッグバンから始まる/恒星・惑星・海洋の形成/エントロピーは時に減少する?/エントロピーが減少できる条件/分子のヒートポンプ/時間の端緒としてのビッグバン/もう少し深く知りたい人のために――生命現象と物理法則
■第5章 「未来」は決定されているのか
ニュートン力学における未来の決まり方/確定しない初期条件/微分方程式とは異なる法則/量子論の波動性/量子論における歴史/二重スリット実験/干渉と脱干渉/世界線の座標/世界のはじめから終わりまで/もう少し深く知りたい人のために――脱干渉の曖昧さ
■第6章 タイムパラドクスは起きるか
タイムトラベルの方法/「ループする時間」という抜け道/時間ループのタイムパラドクス/ワームホールによる時間ループ/物理学者の発想法/パラドクスの起源/「親殺しのパラドクス」の解決/「万物理論のパラドクス」の解決/人間とタイムパラドクス/もう少し深く知りたい人のために――「存在」と「生成」の物理
■第7章 時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか
時間は無意識下で再構成される/バッターがボールを打ち返せるわけ/捏造された意識内容/皮膚ウサギ効果/脳は時間に関して恐ろしく鈍い/過去と未来の非対称性/「時間の流れ」という錯覚/意識における構成要素の交代/意識の時間構造/「時間の流れ」の起源/もう少し深く知りたい人のために――意識と量子論

著者略歴

著:吉田 伸夫
吉田 伸夫(よしだ・のぶお)
1956年、三重県生まれ。東京大学理学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。科学哲学や科学史をはじめ幅広い分野で研究を行っている。ホームページ「科学と技術の諸相」(http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/)を運営。著書に『明解 量子重力理論入門』『明解 量子宇宙論入門』『完全独習相対性理論』『宇宙に「終わり」はあるのか』(いずれも講談社)、『光の場、電子の海』(新潮社)、『素粒子論はなぜわかりにくいのか』『量子論はなぜわかりにくいのか』『科学はなぜわかりにくいのか』(いずれも技術評論社)など多数。

ISBN:9784065184639
出版社:講談社
判型:新書
ページ数:240ページ
定価:1000円(本体)
発行年月日:2020年01月
発売日:2020年01月16日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:PDZ
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:PH