NHK出版新書 586
「松本清張」で読む昭和史
著:原 武史
内容紹介
時代を超えて、闇は残る
「社会派推理小説」というジャンルを確立した国民的作家・松本清張。格差、差別といったタブーを恐れずテーマとして取り上げる姿勢、地方から中央を相対化する視線により、その作品には昭和という時代の闇が刻印されている。代表作の数々を「鉄道」と「天皇」に注目して読み解き、歴史の暗部に光をあてる。
目次
はじめに──昭和史の闇を照らす
第一章 格差社会の正体──『点と線』
香椎とはどんな土地か
近現代的な視点と古代史的視点の共存
アリバイ崩しに挑む『点と線』
寝台特急「あさかぜ」の登場
急行の旅から香る「時代の空気」
難行苦行としての鉄道の旅
特急と急行から“格差”が見える
四分間のトリック
現実の人間を描く
物語を動かす女性の心理
『点と線』はなぜ古びないのか
コラム 「あさかぜ」の思い出
第二章 高度経済成長の陰に──『砂の器』
『砂の器』とその時代
中年刑事が見た新進芸術家集団
ヌーボー・グループの中の格差
住宅事情に見る暮らしの現実
太平洋側と日本海側の〝落差〟
経済成長から取り残されたもの
事実に基づくトリック
東京中心史観の相対化
想像を絶する落差
時代の矛盾に目を向ける
コラム 昭和の車内とお伊勢参り
第三章 占領期の謎に挑む──『日本の黒い霧』
『小説帝銀事件』から『日本の黒い霧』へ
「GHQの謀略」という史観
今に続く米軍基地の問題
大岡昇平の清張批判
清張が目指したこと
第四章 青年将校はなぜ暴走したか──『昭和史発掘』
「オーラルヒストリー」の先駆け
軍事クーデターとしての二・二六事件
明治の再来としての昭和
直訴の頻発と政党政治の終焉
皇道派と統制派の対立
幻の宮城占拠計画
清張が三島の認識を変えた?
中橋基明の挫折
夜明けに中橋は何を思ったか
秩父宮と安藤輝三
理想の天皇像は秩父宮?
天皇の弟、秩父宮
処刑された当事者たち
貞明皇后と昭和天皇の確執
コラム 秩父宮はなぜ東北本線で上京しなかったのか
第五章 見えざる宮中の闇──『神々の乱心』
全精力を傾けた未完の遺作
裏で権力を持つ女性
「次男」という存在
アマテラスの弟・ツクヨミ
「神々の乱心」の意味
見えないものを書く
史料公開で明らかになった清張の先見性
結末のシナリオを予想する
終 章 「平成史」は発掘されるか
歴史家・思想家としての松本清張
『平成史発掘』のテーマ
「おことば」と祈り
平成から令和へ
おわりに