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身体の植民地化

19世紀インドの国家医療と流行病

著:デイヴィッド・アーノルド
訳:見市 雅俊

紙版

内容紹介

19世紀から20世紀初頭にかけて、大英帝国支配下のインドにおいて天然痘、コレラ、そしてペストが猛威をふるう。イギリス側はその対策に乗りだすことになるが、西洋医療の介入は、ヒンドゥーやムスリムの在地医療とのあいだで大きな軋轢を生むことになった。
つぎつぎに襲来する疫病にたいして、イギリスの植民地官僚・医者とインドの医者・在地住民とのあいだで、どのような対策を講じるべきかをめぐってさまざまな〈交渉〉が展開した。そのなかで帝国支配が、在地の人びとの身体管理にまで及んでゆくことになる。
その過程が、本書では、M・フーコーの身体論、A・グラムシのヘゲモニー論、E・サイードのオリエンタリズム論などの理論的枠組みを活かしつつ、膨大な一次史料にもとづいて詳細に描かれる。
本書は、大英帝国による疫病対策と医療政策をとおして、植民地の権力と知という問題をえぐり出すだけではなく、インド社会内部の差異、とくに下層民(サバルタン)の政治と中流階級のヘゲモニーといった問題にも肉薄してゆく。鮮やかな叙述であり、〈植民する側〉と〈植民される側〉の両方の現場の生の〈声〉が史料から丹念に拾い上げられ、そうして植民地時代のインドの病気と医療の壮大なドラマが展開する。
近年盛んになった植民地医療史研究のもっとも重要な古典の翻訳である。

目次

日本語版によせて
謝辞

序論
ブララ・バザールの猟奇事件/嫌悪と願望/身体の植民地化

第1章 西洋の治療法と東洋の身体
植民地科学と植民地医療/熱帯医学の勃興/環境論のパラダイム/気候と身体構造/インド医療との出会い/テキストを超えて/東洋語主義と英語主義/結論

第2章 植民地の飛び地――軍隊と監獄
軍隊医療/軍隊健康の危機/軍隊健康の改革/ヨーロッパ人兵士の健康/インド人兵士/飛び地の外へ?/医療の刑務所支配/監獄の健康/規律と食事/結論

第3章 天然痘――女神の身体
天然痘の女神/人痘接種/牛痘接種/試験期間中の牛痘接種/機関/牛痘接種と立法/結論

第4章 コレラ――無秩序としての病気
死亡率の軌跡/植民地の危機としてのコレラ/コレラを理解すること/治療の誤謬/「むさ苦しいジャガンナートの巡礼軍団」/伝染と折り合いをつける/結論

第5章 ペスト――身体にたいする攻撃
新しい干渉主義/身体にたいする攻撃/ペストの噂/「原住民の機関」/対決から懐柔へ/結論

第6章 健康とヘゲモニー
ヘゲモニー/病院と施療院/女性と医療/インドのための女性医師/パトロネージと指導力/都市部/健康、人種、民族/結論
結論

註記
訳者あとがき
図表一覧
文献一覧
事項索引
人名索引

著者略歴

著:デイヴィッド・アーノルド
1946年ロンドン生まれ。1968年、エクセター大学卒。1973年、サセックス大学で博士号を取得。ロンドン大学SOAS教授、ウォーリック大学アジア・グローバル史教授などを歴任。ウォーリック大学名誉教授。専門は南アジア史。邦訳書に『環境と人間の歴史――自然、文化、ヨーロッパの世界的拡張』(飯島昇藏・川島耕司訳、新評論、1999)、『身体の植民地化――19世紀インドの国家医療と流行病』(見市雅俊訳、みすず書房、2019)がある。
訳:見市 雅俊
1946年東京生まれ。京都大学人文科学研究所助手、和歌山大学経済学部助教授、中央大学文学部教授を歴任。専門はイギリス近現代史。単書に『コレラの世界史』(晶文社、1994)『ロンドン=炎が生んだ世界都市』(講談社、1999)。編書に『近代イギリスを読む』(法政大学出版局、2011)。共編書に『青い恐怖・白い街』(平凡社、1990)『記憶のかたち』(柏書房、1999)『疾病・開発・帝国医療』(東京大学出版会、2001)。主な訳書にS・ハウ『帝国』(岩波書店、2003)、R・ポーター『啓蒙主義』(岩波書店、2004)、D・アーノルド『身体の植民地化』(みすず書房、2019)、G・ヴィガレロ『清潔(きれい)になる〈私〉』(監訳、同文舘出版、1994年)。

ISBN:9784622088516
出版社:みすず書房
判型:A5
ページ数:368ページ
定価:7600円(本体)
発行年月日:2019年09月
発売日:2019年09月22日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MBN