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食品安全の“脅威”とは何か

著:藤田 哲

紙版

内容紹介

本書「はじめに」より
著者は主として食品化学の領域で、パン用酵母、食用油脂とその利用、乳化剤と乳化食品、酵素利用などの研究・開発に携わってきました。著者の食品添加物との縁は、1959年、世界初のショ糖脂肪酸エステル(シュガーエステル:食用の界面活性剤)の企業化で、主にその用途開発を担当した時から始まりました。その後、数々の食品新製品や添加物製剤の開発では、種々の食品添加物の恩恵を受けてきました。
 現在の加工食品では、何らかの食品添加物なしで供給されるものは稀で、水道水をはじめ砂糖、デンプン、食用油脂など基礎的原料の製造工程でも食品添加物が用いられます。
 食品を含めて全ての化学物質には毒性があり、食物が動物にとって栄養になるか毒物になるかは、摂取する量によって決まります。例えば人が、食塩を一度に500g摂れば死の危険にさらされます。保存料のソルビン酸は日本の消費者からは嫌われますが、その致死量は食塩とほぼ同量です。
 筆者は長年の間「日本の消費者だけが、安全性の高い食品添加物をなぜこれほどまでに忌避するのか」不思議に思っていました。その原因の一つが、中学・高校の家庭科教育にその理由を見ることができます。本書でもそのことは触れていますが、その教科書を執筆されている世代には、1950~70年代の食品を巡る諸事件の体験も無視できないものとして横たわっているのではないかと思われましたので、主だった事件の経過などもたどり、現在の制度にたどり着いた歴史を振り返っています。
 本書はこうした経緯を通して、現在の食の安全がどのように守られているのかも合わせて記述しています。
 同様に、2000年代の中国産冷凍ほうれん草の残留農薬問題をとおして、私たちの食生活を支えている基盤がどのようなものなのかを知ったうえで、こうした問題に対処する必要があるのではないかと考えています。
また、タイトルにある「脅威」とは「何か」ということを、ただ単に「化学物質」危険説に還元するのではなく、「科学的な視点」の欠如も、そうした「脅威」に通じてしまうというのではないかと危惧して本書をまとめています。
 世界の人口はまだまだ増える予想で、既存の食料生産ではない新しい手法が登場すると思われます。そうした中で、食料の安全・確保をどのように考えていくか、社会としてどのようにコンセンサスを醸していくのか、本書がそうしたことに少しでも役立てばと願っています。

目次

プロローグ                                       
 食品安全に関する消費者不安と実際との乖離  
 残留農薬について  

 食品添加物について  
 食品の安全性議論にどう向き合うか  

第1部 食品添加物
 1. 食品添加物についての基礎知識                           
  1.1 食品添加物と添加物行政の主な歴史  
  1.2 指定添加物と既存添加物  
  1.3 食品添加物の種類と用途  
  1.4 食品添加物はどのように決められるのか  
  1.5 食品添加物の規格基準-成分規格と使用基準  
  1.6 製造工程で使われる食品添加物の例  
  1.7 生体に対して「安全」か「毒」かの判定を左右する物質の量  
  1.8 実際の食品添加物摂取量、一人一日摂取量  
  1.9 国際的整合性を求められる食品添加物 (FAO/WHOとJECFA)  
 2.食品添加物が消費者に嫌われることになった経緯                  
  2.1 食品添加物の受け止め方  
  2.2 戦後の食品衛生のはじまり  
  2.3 1950-70年代の日本における食品公害の影響  
  2.4 戦後の二大食品事件の影響  
  2.5 食品添加物指定取り消し物質の影響  
  2.6 保存料の忌避とコールドチェーン、冷蔵庫の普及の影響から  
  2.7 一億総中流と大量生産・大量消費-都市消費者の時代  
  2.8 消費者の化学物質忌避に影響した著作-『沈黙の春』と『複合汚染』  
  2.9 教育によって刷り込まれる「食品添加物危険説」  
 3.一つの解決としての食品添加物の表示                       
  3.1 食品添加物表示のこれまでの経緯と現状  
  3.2 今後検討すべき食品添加物表示制度  
  3.3 食品添加物表示の諸外国との比較  
  3.4 食品添加物の全体表示と消費者への情報伝達のギャップ  
  3.5 日本の食品添加物が抱える問題点  
 4. 食品添加物のリスクとベネフィット                       
 第1部 補遺                                    
  「安全」ということをどう考えるか  
  食品リスクの考え、日本と欧米の比較  

第2部 輸入食品と残留農薬
  1.中国産の冷凍ホウレンソウ事件                        
   1.1 安全な食品輸入に向けた日中両国政府と企業  
   1.2 事件の教訓  
  2. 残留農薬のポジティブリスト制度                       
   2.1 農薬類のポジティブリスト制度の概要  
   2.2 ポジティブリスト制度が対象とする「農薬等」  
   2.3 残留農薬の一律基準0.01ppmの妥当性と分析技術  
   2.4 ポジティブリスト制度と輸入食品の安全性向上  
  3. 食品安全委員会の調査と輸入食品                       
  4. 輸入食品の検査はどのように行われるか                    
   4.1 輸入食品の検査制度  
   4.2 輸入食品の検査と食品衛生法違反  
  5. どのような違反があるか                           
   5.1 輸入食品の食品衛生法違反  
   5.2 違反の具体的内容  
   5.3 検査結果の評価と結論  
  6. 度を超えた中国食品たたき                          
  7. 減少が続いている食品中の残留農薬                      
   7.1 残留農薬の減少傾向  143
  8. 消費者はどれくらいの残留農薬を摂っているか                 
  9. 農薬を巡るいくつかの問題                          
   9.1 環境への影響-新農薬ネオニコチノイドと蜜蜂の失踪・大量死  
   9.2 飼料添加物、動物用医薬品の抗生物質と耐性菌の出現  
   9.3 抗生物質の削減と動物の福祉  
   9.4 拡大した遺伝子組み換え(GM)作物と表示  
  10. まとめに代えて 農作物と農薬                       

 [付録] 専門的側面から見た日本の食品添加物の問題点                
  ■外圧と内圧に揺れた?添加物行政  
  ■保存料の問題と無添加食品の実態  
  ■「無添加」「ゼロ」表示と優良誤認  

エピローグ-食品安全に科学的思考を                 

著者略歴

著:藤田 哲
1929 年 東京都に生まれる
1953 年 東京大学農学部農芸化学科(旧制)卒業
1953―68 年 大日本製糖( 株) 勤務,パン酵母およびショ糖脂肪酸エステルの研究開発
1 969―90 年 旭電化工業( 株) 勤務,各種乳化油脂食品、天然系界面活性剤、酵素生産・
利用の研究開発
1988 年 技術士(農学部門・農芸化学)、食品衛生管理士
1990 年 藤田技術士事務所開業
1991 年 農学博士(東京大学)
現 在 食品化学、食品・農産製造分野の研究コンサルタント
著   書 『食品の乳化―基礎と応用』(幸書房)
『食用油脂―その利用と油脂食品』(幸書房)
 同上 改訂版
『これからの酪農と牛乳の栄養価』(幸書房)
『食品のうそと真正評価』(エヌ・ティー・エス)
『食品詐欺の実態と誘因』(藤田技術士事務所)
 その他、報文、総説多数。

ISBN:9784782104286
出版社:幸書房
判型:B6
ページ数:188ページ
定価:1500円(本体)
発行年月日:2018年08月
発売日:2018年08月30日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MBN