異端と孤魂の思想 ―近代思想ひとつの潮流
著:綱澤 満昭
内容紹介
日本の近代思想の中で、著者は島尾敏雄、岡本太郎、橋川文三、深沢七郎、赤松啓介らの思想を「異端の思想」、そして東井義雄、小林杜人のそれを「孤魂の思想」として位相を与えている。
島尾はヤポネシア論、岡本太郎は縄文土器、橋川文三は日本浪曼派、深沢七郎はムラ社会、赤松啓介は性の民俗学、それらを柳田国男の民俗学との対峙によって、著者はそれぞれの「異端」を鮮鋭に浮かび上がらせている。
一方、東井義雄と小林杜人について著者は、日本人の最も情緒的な感情である肉親の情に思想が敗北する「転向」へと向かった二人を孤独な魂、すなわち「孤魂」と名付けている。
どちらも近代日本の精神史から日本人とは何者かを探り当てる上で、いわゆる学校のテキストから抜け落ちた、いや故意に隠されたものだと著者は断じている。
そして、巧妙に隠された思想を補完することによってしか、日本人の精神を深く理解することはできないと言っているのである。
目次
島尾敏雄の故郷観とヤポネシア論
国家が創出する幻想としての故郷 9
島尾敏雄にとっての故郷 11
柳田国男にとっての故郷と国家 14
「奄美」を故郷にしたかった島尾 22
ヤポネシアという視点 30
谷川健一が指摘する柳田民俗学の欠陥 37
岡本太郎と縄文の世界
柳田国男の功罪 53
岡本太郎と縄文土器の出会い 56
岡本の「縄文」と島尾の「奄美」 60
偶然性が生む「祈り」と「美」 63
芸術家 岡本太郎の思想 67
岡本太郎にとっての伝統 75
宮沢賢治と岡本太郎 81
橋川文三私見
橋川文三ふたたび 95
日本浪曼派への接近 98
日本浪曼派の問題点とイロニー 108
農本主義と日本浪曼派について 112
「米つくり」の思想 115
昭和維新への思い 122
朝日平吾の精神 123
渥美 勝の桃太郎主義 132
「阿呆吉」 138
深沢七郎のこと
「楢山節考」と母親像 149
「ムラ」の維持と人間 156
深沢の「庶民」 165
深沢の死生観 174
東井義雄の思想
東井義雄のおいたち 183
東井の思想と時代背景 187
「学童の臣民感覚」 192
東井の沈黙 197
「村を育てる学力」 204
国家の教育に符合した東井の思想 213
断片的赤松啓介論
赤松啓介と柳田国男 223
赤松が柳田民俗学に投げかけたもの 233
赤松の性に関する民俗学 237
「非常民」の民俗学 247
小林杜人と転向
吉本隆明のいう「転向」 257
小林杜人の転向 263
杜人を転向へと向かわせたもの 275
「転向」への決意 283
あとがき 293