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日中戦争の国際共同研究 5

戦時期中国の経済発展と社会変容

編:久保 亨
編:波多野 澄雄
編:西村 成雄

紙版

内容紹介

▼中国にとって,日中戦争とは何であったか。8年間にわたり各地で繰り広げられた戦争は,中国の経済と社会にも多大な影響を及ぼすものとなった。本書は,戦時期の中国における経済発展と社会変容の過程を新たな史料と,これまで見過ごされてきた視点によって解明するとともに,それを戦後まで見通した長期的な視野の中で位置づけようとする試みである。

▼日中戦争期には,侵略に対する中国の抵抗の拠点になった四川や雲南のほか,日本の占領下に置かれた満洲(東北),華北,華中地域においても,軍需工業を中心に経済の急速な発展が見られ,それは戦後の中国経済へと継承された。戦時期の経済発展は,四川の製糸業や重慶の市内交通から銀行業・保険業などの金融業に至るまでの多くの分野に及んでいたことを示す。

▼ついで,こうした経済発展と密接に関連しつつ,戦時総動員体制の整備・強化によって社会的な統合が進む一方,新たな政治を求める民主化運動も進展したことを明らかにする。

▼最後に日中戦争研究の新たな動向を示す3つの代表的論文、および特別寄稿として、巻末にエズラ・ヴォーゲル氏による「日中改善のための提案」を付す。

目次

『日中戦争の国際共同研究』(第5巻)に寄せて

総論・戦時期中国の経済発展と社会変容  久保亨・波多野澄雄・
西村成雄

 第1部 戦時経済の発展と継承

第1章 戦時中国の工業発展  久保亨
 はじめに
 一 重慶政府による鉱工業統計
 二 重慶政府統治地域の鉱工業
 三 中国戦時経済の全体像
 四 戦時経済から戦後経済への展開
 おわりに

第2章 日中戦争と重慶銀行業  林幸司
 はじめに
 一 近代重慶における経済状況
 二 重慶における銀行公会の設立
 三 日中戦争と重慶銀行業
 おわりに

第3章 抗戦期中国の保険業  劉志英(林幸司訳)
 はじめに
 一 抗戦期大後方保険業の発展概況
 二 抗戦期大後方保険業の主な業務
 三 抗戦期大後方保険業の特徴とその役割

第4章 戦時期中国の貿易  木越義則
 はじめに
 一 戦時期中国の貿易行政
 二 戦時期中国の対外貿易の推計
 三 戦時期中国の対外貿易の実勢
 おわりに

第5章 戦時首都・重慶市の市内交通網  内田知行
 はじめに
 一 市内交通網の概況
 二 市内自動車交通事業
 三 市内道路交通(軽車両による交通・運輸事業)
 四 市内舟運事業
 おわりに

第6章 抗戦期四川の製糸金融と製糸業  趙国壮(吉田建一郎訳)
 はじめに
 一 後方製糸業の危機と四川糸業股份有限公司の設立
 二 四川糸業股份有限公司の資金調達と経営
 三 四川糸業股份有限公司の努力と後方蚕糸業の改良
 四 戦時金融と後方蚕糸業の発展
 おわりに

第7章 抗戦期重慶の工場間労働移動  耿 密(菊池敏夫訳)
 はじめに
 一 労働者の移動の概況
 二 労働移動に関する個別事例の検討
 三 国民政府の対応と措置
 四 社会各界の認知と対応
 おわりに

第8章 戦争初期日中両国と上海租界経済  今井就稔
 はじめに
 一 日本占領地と上海租界
 二 重慶国民政府と上海租界
 おわりに

第9章 日本の華北支配と開灤炭鉱  吉井文美
 はじめに
 一 開灤炭鉱とイギリス人
 二 国民政府との離別
 三 日本と開灤炭鉱
 おわりに

 第2部 変容する社会体制

第10章 中国の総力戦と基層社会  笹川裕史
 はじめに――日中戦争・国共内戦・朝鮮戦争
 一 総力戦による基層社会の混乱と変容
 二 出征兵士家族の救済・援護
 三 労働力支援の進展とその行方
 おわりに

第11章 蔣介石と総動員体制の構築  段瑞聡
 はじめに
 一 蔣介石の総動員理念の形成と特徴
 二 総動員に関わる諸機関の変遷
 三 総動員設計委員会の成立、改組と解散
 四 不発の「総動員法」と「総動員計画大綱」
 五 国家総動員会議の成立と総動員体制の確立
 おわりに

第12章 戦時中国の憲法制定史  中村元哉
 はじめに
 一 近現代中国憲政史の中の“戦時中国の憲法制定史”
 二 国民参政会憲政期成会の憲法草案修正意見と自由・権利の保障
 三 憲政実施協進会の憲法草案意見書と自由・権利の保障
 おわりに

第13章 戦国策派と中国の民主主義  水羽信男
 はじめに
 一 戦国策派について
 二 戦国策派の民主主義論の位相
   ――林同済・雷海宗の議論を中心として
 三 戦国策派の個人主義の位相
   ――陳銓・沈従文の議論を中心として
 おわりに

第14章 戦時国民党政権の辺疆開発政策  島田美和
 はじめに
 一 戦時辺疆政策の転換
 二 戦時における辺疆工作人員
 三 辺疆工作人員の応募者
 四 辺疆工作人員の合格者
 おわりに

第15章 日中戦争と華北の日本居留民  小林元裕
 はじめに
 一 日中戦争の勃発と北平の日本居留民
 二 日中戦争の勃発と天津の日本居留民
 三 日中戦争の全面化と天津での戦闘
 四 日本居留民の「銃後」
 おわりに

 第3部 日中戦争史研究の新地平

第16章 抗日戦争の新たな歴史像の模索  ハンス・ヴァン・デ・ヴェン(李仁哲訳)
 はじめに――抗日戦争研究の課題
 一 戦争勃発と近代戦の破綻
 二 新たな戦法の模索
 三 共産党の人民戦争論
 四 日本軍の「一号作戦」
 おわりに

第17章 日中戦争と興亜院の歴史的位置  加藤陽子
 はじめに
 一 日中戦争の性格
 二 興亜院の性格
 三 内閣による統制
 おわりに

第18章 重慶爆撃死傷者数の調査と統計  潘 洵(柳英武訳)
 はじめに
 一 戦時と戦後に行われた死傷者数の調査・統計
 二 戦時期の文書史料に基づく爆撃死傷者数
 三 死傷者数の調査・統計に影響を与える諸要因


あとがき  編者一同
日中関係改善のための提案  エズラ・F・ヴォーゲル

編者・執筆者紹介/訳者紹介
索引

著者略歴

編:久保 亨
信州大学人文学部教授。
1953年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程中退、修士(社会学)。専攻は中国近現代経済史。
主要著作に、『戦間期中国〈自立への模索〉―関税通貨政策と経済発展』(東京大学出版会、1999年)、『戦間期中国の綿業と企業経営』(汲古書院、2005年)、『シリーズ中国近現代史(4) 社会主義への挑戦』(岩波書店〈岩波新書〉、2011年)など。
編:波多野 澄雄
筑波大学名誉教授、アジア歴史資料センター長。
1947年生まれ。 慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。専攻は日本外交史。
主要著作に、『太平洋戦争とアジア外交』(東京大学出版会、1996年)、『歴史としての日米安保条約』(岩波書店、2010年)、『国家と歴史―戦後日本の歴史問題』(中央公論新社〈中公新書〉、2012年)、『日本の外交 第2巻 外交史・戦後編』(編著、岩波書店、2013年)など。
編:西村 成雄
大阪大学名誉教授、放送大学客員教授。
1944 年生まれ。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了、法学博士。専攻は20世紀中国政治史。
主要著作に、『中国近代東北地域史研究』(法律文化社、1984年)、『中国ナショナリズムと民主主義―二〇世紀中国政治史の新たな視界』(研文出版、1991年)、『20世紀中国の政治空間―「中華民族的国民国家」の凝集力』(青木書店、2004年)など。

ISBN:9784766421484
出版社:慶應義塾大学出版会
判型:A5
ページ数:488ページ
定価:6400円(本体)
発行年月日:2014年06月
発売日:2014年06月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPC