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逃げられない性犯罪被害者

無謀な最高裁判決

著:杉田 聡

紙版

内容紹介

近年、最高裁が性犯罪に逆転無罪判決を下す事例が相次いだ。それはなぜなのか。裁判官は「女性は逃げられるはず」などの「経験則」を固守するが、本書はその誤りを鋭く指摘する。さらに、被害者救済の整備など、性犯罪に関する対策を具体的に提言する。

目次

序章 近年の性暴力事情と逆転判決の衝撃
 1 近年の性暴力とその根絶へ向けての取り組み
 2 二つの事件――「〇九年判決」と「一一年判決」
 3 本書の内容

第1章 逃げられない被害者
 1 被害者は逃げられないことが多い
 2 逃げられないのは暴力のためではない――被害者が陥る無力感
  コラム なぜ被害者は逃げられないのか:1 橋爪(伊藤)きょう子
  コラム なぜ被害者は逃げられないのか:2 桐生正幸
 3 被害者が陥る心理状態――現実感の喪失と離人症
  コラム 被害のさなかに起こる離人感と現実感の喪失 橋爪(伊藤)きょう子
  コラム 強かん者の犯人像――犯罪者プロファイリングから 桐生正幸
 4 周囲の通行人はどれだけ力になるか
 5 男女間の関係にはよけい介入できない
  コラム なぜ目撃者は助けることをためらうのか――援助行動の要因 桐生正幸
 6 口封じ――加害者がとる策略:1
 7 加害の隠蔽――加害者がとる策略:2
  コラム 傷つけないように「配慮」する加害者 堀本江美

第2章 身体に痕跡は残るのか
 1 被害者に残る痕跡――誤解を生む「強(forcible)かん」イメージ
 2 無抵抗・いいなり状態で膣に傷がつくのか
  コラム かならず膣などが傷つくのか 堀本江美
 3 精液はかならず残るのか
  コラム かならず膣内に精液が残るのか――消化器官としての膣 堀本江美
 4 加害者・被害者の身体位置の問題

第3章 通報と告訴――なぜためらうのか
 1 千葉事件に見られる被害者の行動・周囲の行動
 2 なぜ通報・告訴をためらうのか:1――「汚れた」「恥ずかしい」という思い
  コラム 被害者はなぜ自分を責めるのか 桐生正幸
  コラム 被害者は誰に配慮するか、何を恐れるか――被害者との面接から 橋爪(伊藤)きょう子
 3 なぜ通報・告訴をためらうのか:2――脅迫と被害者が陥る無力感
  コラム 被害者が陥る無力感――被害者の心理的ダメージと通報前行動 橋爪(伊藤)きょう子
 4 なぜ通報・告訴をためらうのか:3――警察・病院などでの検査
  コラム 検診時に見る被害者の心とからだ 堀本江美
 5 なぜ通報・告訴をためらうのか:4――加害者の存在への恐怖、加害者による報復の恐怖
 6 なぜ通報・告訴をためらうのか:5――セカンドレイプの恐れ、家族に知られる恐れ

第4章 記憶と神話――被害者が陥る心理、被害者に対する予断
 1 供述の変遷を問題視する最高裁判決――これが「疑わしき」と見なす要因になるのか
  コラム 被害者は被害事実をどれだけ正確に記憶できるか 桐生正幸
 2 人はどれだけ記憶できるか――被害事実が奪う記憶力
  コラム なぜ供述内容が変化するのか――急性解離症状と心因性の健忘 橋爪(伊藤)きょう子
 3 まかり通るレイプ神話――判決は女性の職業に予断をもたなかったか
 4 被害者の「落ち度」は問題にならない――全裸で歩いても被害者は悪くない
 5 「落ち度」と貞操観念にこだわる裁判官
 6 女性がセックスできるのは特定のもしくは特定のタイプの相手――京教大事件に関する京都地裁判決
 7 捜査・公判過程での被害者の扱われ方――依然として残る被害者軽視
  コラム 被害者は警察・検察・裁判所でどう扱われるか 養父知美

第5章 一一年判決の基本原理――「経験則」と「疑わしきは被告人の利益に」
 1 「経験則」と自由心証主義
 2 「疑わしきは被告人の利益に」と強かん事件
 3 法律審としての最高裁と無謀な「自判」――判例とはしえない最高裁判決
  コラム 裁判官は何によって心証を得るのか――書類審査が欠落させる心証形成 養父知美

第6章 司法官の性意識を生むもの
 1 裁判官は性犯罪について学んできたのか――司法研修制度の問題点
 2 特殊性が理解されないまま一般犯のように扱われている――男の常識への固執
 3 どれだけ強かんが独自の犯罪として扱われてきたか――法学書・判例に見る強かんの理解
  コラム 性犯罪の特異性――「物証」や「目撃者」が乏しい理由 養父知美
 4 裁判官はどこから性情報を得るのか
 5 市民生活のない裁判官
 6 最高裁判事とは誰なのか――最高裁判事の任官システム
 7 裁判員裁判への影響は?――判決を誘導する裁判官
 8 強かん事犯では裁判官は無罪へと誘導するおそれがある
 9 専門的な検察官・裁判官をもつ韓国の事情
  コラム 性犯罪に対する韓国の取り組み 養父知美
 10 訴えに対する警察の対応――近年、制度的な取り組みは進んだというが
  コラム 警察ではどのような教育がおこなわれているか 堀本江美

終章 改革そして展望――性犯罪のない社会を
 1 司法改革
 2 被害者救済制度の改革
  コラム 性暴力被害者支援センターの役割――「ゆいネット北海道」の事例から 堀本江美
 コラム 生涯にわたる苦しみ――支援センターに求められる要件 橋爪(伊藤)きょう子
 3 加害者更正プログラム・被害防止方法
  コラム 性犯罪者処遇プログラムの概要と動向 桐生正幸
 4 全般的な法的・社会的改革
  コラム 被害者の性的経歴と「強姦被害者保護法(Rape Shield Law)」 養父知美
  コラム 親告罪の問題点 養父知美

判決文
あとがき

著者略歴

著:杉田 聡
1953年、埼玉県生まれ。帯広畜産大学教授(哲学)。著書に『男権主義的セクシュアリティ』(青木書店)、『レイプの政治学』(明石書店)、『AV神話』(大月書店)、『カント哲学と現代』(行路社)など多数。

ISBN:9784787233516
出版社:青弓社
判型:4-6
ページ数:236ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2013年02月
発売日:2013年02月16日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:LNF