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プロの投資家に対する「評判」と資産価格

著:佐藤 祐己

紙版

内容紹介

本書では、自らの評判(reputation)に関心を持つプロの投資家が存在する金融資産市場の理論モデルを分析する。モデルの基本的な枠組みは、高スキルの投資家ほど資産価値に関する高精度のシグナルを受け取り、それに基づいてマーケットメーカーに成行注文を出すという、Kyle (1985)流のものである。そこに、各投資家が自らのスキルを他の市場参加者に将来的に売却する可能性を組み込み、投資家の評判への関心が彼らの行動にどのように影響し、さらにそれが資産価格にどのように波及するかを分析する。

モデルの含意は以下の通りである。投資家達が自らの評判に強い関心を持つほど:

1. 取引のアグレッシブ度は高くなる。
理由:投資家達は自らのスキルを実際よりも高く見せかけるために、本来よりも取引サイズを嵩上げする、いわば「見栄張り」の行動をとる。

2. 資産価格の期待値に影響はないが、そのボラティリティは高まる。
理由:投資家達の見栄張り行動により、彼らが持つ私的情報が注文に強く反映されるため、マーケットメーカーは注文の大小に応じて価格を大きく上下させる。

3. 投資家達が得る取引利益は、市場環境に応じて増加することも減少することもあり得る。
理由:取引利益に対しては、注文サイズが大きくなることによる正の効果と、私的情報が価格に織り込まれてしまうことによる負の効果があり、相殺し合う。

4. 市場流動性(マーケットインパクトの逆数)は上昇することも低下することもあり得る。
理由:価格が投資家達の私的情報を強く反映するにつれ、マーケットインパクトには上昇圧力がかかる。しかし、注文の嵩上げが大きすぎると、嵩上げ分を大きく割り引いた残余分しか価格に反映されなくなるため、マーケットインパクトには下落圧力もかかる。これらの上昇・下落圧力の相対的な大きさは市場の環境によって逆転し得る。

5. 資産価格の情報度は上昇する。
理由:マーケットメーカーは、注文に含まれる資産価値に関する有益な情報は余す所無く価格に反映させるため、投資家のアグレッシブな注文を受けて資産価値に関する情報は価格により強く織り込まれる

ISBN:9784943852865
出版社:三菱経済研究所
判型:A5
ページ数:42ページ
定価:800円(本体)
発行年月日:2022年08月
発売日:2022年08月31日