熊楠の神
熊野異界と海人族伝説
著:戸矢 学
内容紹介
熊野は熊野川、那智の瀧、神蔵山の巨岩など、ほぼその全域が神霊が招き寄せられるという「依り代」に満ち満ちている。海外遊学で当時の最先端の学問にひたり帰国した南方熊楠は「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されるずっと以前に、神域の森や熊野古道の環境、人々の営みの中に、価値を見出していた。熊野こそは日本古来の神道に直結する「奇跡の信仰地」であり、縄文の精霊信仰が図らずも命脈を保っている稀有な世界である。三十数年前、南方熊楠の旧宅を訪ね、不思議な生命力を感じた著者が、知の巨人・南方熊楠をとおして日本人の神道信仰の原点を探った意欲作。
目次
第一章【血脈】熊楠(くまぐす)と海人族(あまぞく)
オオヒルメ伝説が暗示する聖なる血脈
熊楠の血脈(ルーツ)について
祭祀(さいし)氏族
熊楠、田辺に定住す。
海人族と神社信仰
熊野氏、紀氏の由来
熊野権現縁起
第二章【精霊】熊野の神
家都美御子(けつみみこ)の正体
熊野神の正体
まず、神林あり。
熊野の「ヒモロギ」
イワクラ信仰
本宮の神「ケツミコ」とは何者か
「社殿のない神社」に熊野の本質が
熊野の謎は「速玉神」に
空飛ぶイワクラが地球を変えた
イワクラの誕生
熊野は津波で「死の国」になった
第三章【異界】熊野と常世(とこよ)
死の国・補陀落へ
地の果て
熊野権現垂迹縁起(くまのごんげんすいじゃくえんぎ)
補陀落渡海(ふだらくとかい)
伊勢は常世(とこよ)、熊野は補陀落(ふだらく)
八咫烏(やたがらす)の真相
烏(からす)と神社の親和性
第四章【詛言(のろいごと)】熊楠(くまぐす)と言霊(ことだま)
熊野への黄泉がえり
「祟(たた)り」ということ
事挙(ことあ)げする熊楠
神々の呪詛
言霊信仰
「意見」は熊楠の呪詛
説教節は言霊の魔力か
「小栗判官(おぐりはんがん)(説教「をぐり」、著者による抄訳)
熊野に出現した蘇生の呪術
第五章【反転】熊楠と神
「さかさまの世と相成りたるに候」
熊楠の神道観
狂人か神か
鎮守の森と海人族
「カミ」の誕生
鎮守の森と自然崇拝
神名を唱えることは禁忌
俗信迷信への偏愛
「やりあて」から「霊魂」へ
神を探して熊野へ
終焉
酒神を偲ぶ――あとがきに代えて
参考文献