ためらいの看護
増補
著:西川 勝
内容紹介
◎森村修さん書評(「図書新聞」2023.6.3)
《西川が看護師として特異なのは、看護・介護を生業としながら哲学に興味を持ち続けていたこと…西川は、九鬼の主著『偶然性の問題』(1935年)に導かれて、独自の九鬼哲学解釈を展開している》
「不自由な手で、ようやくスプーンを口元まで運んだ人が、好物のゼリーに目を丸めてぼくに喜びを伝える。ハラハラして見ていたぼくにも嬉しさがこみ上げる。相手の喜びを理解したからというのではない。ただ見ているだけ、というぼく自身の弱さから救われた喜びである。そのぼくを見て、相手の目がさらに輝く。……生きている限り心臓が弾み続けいのちを支えるかのように、ケアの弾性は人と人の間にいのちをもたらす」(本書より)
介護・看護の現場から生まれた臨床哲学の名著の増補版。巻末に九鬼周造『偶然性の問題』をテーマにした著者の修士論文を新たに収録。
目次
【病棟から】
夜空のラーメン
コーヒー牛乳の日差し
聖地の吐息
唇の赤い花
ガラスを包む
青い瞳
Ⅰ 病の意味を見いだす
第1章 「信なき理解」から「ためらいの看護」へ
1 〝ためらい〞が病を治療する⁉
2 「わからない」と言ってはいけない看護教育
3 昏迷から醒めて
4 頼りない足取りを覚えていてくれた
5 ためらいに震えつづけたい
第2章 食と生きざま
第3章 生きる技術・生かす技術
はじめに
1 どうして、こんな目に
2 死の準備
3 ケアに根拠はない
4 味噌汁の意味
5 生への自由
おわりに 生かされる技術
【病棟から】
覚えのない傷
豚
空き缶
うら声
耳喰い
咳
乾いたパン
Ⅱ パッチングケアの方へ
第4章 臨床看護の現場から
はじめに
1 精神病院での経験
2 透析医療の現場から
3 看護をめぐって
4 臨床哲学と看護
第5章 ケアの弾性——認知症老人ケアの視点
1 途方に暮れるとき
2 パッシングケア
3 普通のケア
4 パッチングケア
5 ケアの弾性
【病棟から】
暴れん坊将軍
食い逃げ松ちゃん
月夜の点す紅
セブンティーン
貨車いっぱいの金塊
Ⅲ 人に寄り添うということ
第6章 臨床テツガク講座
1 理解不可能性から出発する
2 看護を離れ、看護の常識を疑う
3 中途半端な位置から
4 もう一つのことがらに気づく
5 切ない……
6 ヒ、ミ、ツ……
第7章 隠すプライバシーで露わとなること
第8章 鬱の攻撃性
1 鬱に出遭う
2 憐れみと苦悶
鬱は励ましてはならない 「憐れみ」はとっておきの餌食
3 鬱の罠
自我の弱さを印象づける罠 鬱は自己を攻撃して他者の反撃を許さない
4 自殺させるな
5 繊細に
第9章 「認知症」の衝撃
あとがき
*
補遺 ケアの弾性
序説
第1章 ケアの偶然性
第1節 無根拠
第2節 驚き
第3節 邂逅
第2章 死活の契機
第1節 欲望
第2節 賭け
第3節 遊戯
第3章 ケアの弾性
第1節 回復力
第2節 試行
第3節 自由
結論
増補版あとがき
初出一覧