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民族藝術学会

民族藝術学会誌 arts/ vol.37

編:民族藝術学会

紙版

内容紹介

 民族藝術学会は、1984年4月に発足しました。そこでいう民族芸術学は、既成の学問の枠組みを超え、人類の普遍的な営みとしての芸術現象を考究する学として構想されました。
 人類の生みだすアートをめぐっては、これまで、主として西洋とその影響下で成立した事象を芸術学や美術史学が研究の対象とし、それ以外の地域の事象、つまり、非西洋の事象を人類学・民族学が研究対象としてきたといった傾向がみられました。このため、この両者の研究は、久しく別々の道を歩いてきた観があります。ところが、今、この二つの分野は急速に接近しつつあります。
 人類学・民族学にとっても芸術学にとっても、問題系を共有するなかで、分野の別を超えた新たな知の領域が開けてきているといってよいでしょう。まさに民族芸術学が必要とされる沃野が広がってきたということができるだろうと思います。
 一方で、この「民族芸術」という言葉自体が使われることは、研究者の間ではほぼなくなってきているというのが実情です。民族藝術学会が学会誌『民族藝術』の英語名称として用いてきた“ethno-arts”という用語も、現在では、世界の先住民族の芸術をさす語として一部で用いられるにすぎません。そのようななかで、「民族芸術」という語を用いた途端、「芸術」とは別に「民族芸術」というカテゴリーがあるかのようにうけとられ、逆に既成の枠組みを超えて芸術を縦横に語ることが難しくなるという状況が、今、生まれてきているといえます。
 新たな学会誌の名称は、こうした状況を打開するために考案されたものです。また、この名称の変更にあわせて、ここで述べたような「学」としての視座を明瞭に示すために、これまで曖昧なままにおかれてきた学会の英語名称を、“Society for Arts and Anthropology” とすることにいたしました。
 民族藝術学会とその学会誌を、既成の学問分野や活動の領域を超え、人類の普遍的な営みとしての芸術現象を立場を異にする研究者やアーティストが共に考究する開かれた場として再創造しよう、というのが、この改革の目的です。

目次

// 特集:創造と摩擦:グローバルアート再考 //

【シンポジウム】
伊東信宏|2010年代のポップフォーク(東欧演歌)
イヴァ・ネニッチ|音楽における地域主義──南東欧諸国におけるポップフォーク
岩谷彩子|表面的音楽──ルーマニアのマネレがつなぐ世界
上畑 史|音楽と民族的アイデンティティ──セルビアの民俗調ポピュラー音楽「ターボフォーク」の言説と実態
ステラ・ジヴコヴァ|15 年後の補足──ブルガリアのポップフォークがひらいた新しいページ

【論考】
川口幸也|エル・アナツイ、土地につながり歴史をかたる──グローバリズムに抗して
羽鳥悠樹|S. スジョヨノ《チャプ・ゴー・メー》にみる混血的文化の表象
江上賢一郎 |グローバリゼーションを描く──2つの芸術実践にみる協働と対話の集団的技法から
緒方しらべ・中山龍一・武 梦茹/岡田裕成 編|グローバルアートを再考するための文献案内

[論文]
中尾世治・廣田 緑|アートと人類学の対称性へ──《trial 003 : as if archaeologists》の意味の遡及的探求
小森真樹|遺体が芸術になるとき──医学博物館が拡張する「芸術」と医学教育の倫理
武 梦茹 |近代中国の女子洋画教育──神州女学校と陳抱一

[報告]
服部 正・中村裕太|中村裕太は長谷川三郎に何を見たのか──《眼横鼻直》と蒲鉾板版木を中心に
畑井 恵|「わからない」展覧会のあとさき──目[mé] 非常にはっきりとわからない
加藤義夫|宝塚市立文化芸術センター・グランドオープンに向けて──新型コロナウイルス感染拡大に翻弄された開館の顛末
向井晃子|1950年代関西美術シーンでの前衛書と美術の交流──森田子龍の創造と摩擦
中塚宏行|田中健三の1940~50年代と戦後日本美術史──長谷川三郎の影響と関西自由美術展を中心に
房 旼娥|在朝鮮日本人画家・加藤松林人の戦後作品とその制作背景──日韓親和会と文学者・金素雲との関係を中心に
張 玉玲|「美」を以て「醜」を制す──絵本作家・画家葉祥明のコスモロジー

[評論]
淺野夕紀・大谷 燠・小林 公・中川 眞/服部 正|コロナ状況下での芸術表現──創作と発信の工夫と苦悩
齋藤 桂|高野裕子氏インタビュー:パンデミック下の音楽ホール
青嶋 絢|パンデミック以降の音楽、あるいはメディア・アート
佐藤真実子 |上野で「あるがままのアート」
竹口浩司|藤田嗣治と彼が愛した布たち
堀切正人|ヒロバとアート
山本真紗子|コロナ禍のなかの大阪での竹工芸名品展
鈴木慈子|美術館活動という視点
福田新之助|水面の森
竹内幸絵 |関西の戦後美術の「再発見」──さまざまな顔を持つ作家をどう展示するか
一柳智子|日山は天王山──葛尾三匹獅子舞と新型コロナウィルス感染症流行禍の状況

ISBN:9784910067032
出版社:松本工房
判型:B5
ページ数:288ページ
価格:5000円(本体)
発行年月日:2021年03月
発売日:2021年03月31日