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地方史はおもしろい

日本の歴史を突き詰める

おおさかの歴史

編:地方史研究協議会

紙版

内容紹介

現代社会のその先を作るために。日本の歩みを記憶として地域から残し伝え考えるための本。日本史ファン、研究者必携のシリーズ5冊目。

本書は「おおさか」を取り上げる。あえてひらがなで表わすのは、地域概念としての「おおさか」への関心は全国的であり、時間的な広がりを持つことによる。その概念はまた、全国的であるがゆえにデフォルメされた情報も少なからず含まれいる。なので全国に大きな影響を与え続けてきた、例えば古代における難波宮、豊臣氏の大坂城、あるいは各時代を通じて発展を示した文化・学問といったような大きなテーマは本書ではあえて取り上げていない。

取り上げるのは、執筆者が持ち寄った地域に残された史料である。その史料を検討し、そこから見通される歴史認識を再構築していくのが本書の「おおさか史」である。地方史の研究者は、身近に残る資料を手がかりに、どれほど思考を重ね、ときには悪戦苦闘を重ねているものか。刺激に満ちた推理過程は、歴史を理解するとはどういうことか、「おおさか」の歴史を真に知りたいと願う人に、楽しく、間違いのない導きの糸となっていること請け合いです。

第1部「飽くなき追究! 新しい歴史学の可能性と方法を求めて」では、歴史学のあり方あるいは課題設定の可能性を問おうとする。第2部「史資料が語る! おおさかの町と人」では、都市のコアな部分に関する解明を試みます。第3部「水と街道を注視する! 変化するものと変化しないもの」は、街道・用悪水施設・交通手段・治水といった社会生活及び生産に直結するインフラのありように注目する。第4部「史資料との格闘! 都市大阪周辺地域の史実」は、論にする際に視点の確保に苦心し、困難を克服しようとする、歴史学の面白さを伝えるものを提示します。

執筆は、小田康徳、長尾 武、室田卓雄、小田直寿、馬部隆弘、俵 和馬、岡本 健、野高宏之、飯田直樹、堀田暁生、奥田裕樹、石原佳子、前田豊邦、岸本直文、曽我部愛、高橋伸拓、片山早紀、藤村尚也、十河良和、西川哲矢、田中万里子、山田裕美の22名。

【本書の諸論考を読んで、「おおさか」地方史は、地道な史料調査と壷を心得た課題の設定、そして合理的考察の積み重ねの上にはじめて生きた歴史知識となるのだと、つくづく思う。おそらく、このような趣旨で編集される「おおさか」地方史は、これがはじめての試みだろう。「おおさか」の歴史を真に知りたいと願う市民諸氏や、その学問に志す学生の皆さんにとって、本書が楽しく、また間違いのない導きの糸となっていることを切に願うものである。】…はじめにより

目次

シリーズ刊行にあたって(地方史研究協議会 会長 久保田昌希)

はじめに(小田康徳)

第1部 飽くなき追究!――新しい歴史学の可能性と方法を求めて

採石ルートを辿り見えてくるもの
1 飯盛山南尾根・野崎での徳川大坂城の採石―キリシタン大名京極丹後守の遺跡と伝承(長尾 武)
1 はじめに/2 野崎・専應寺に現存する京極丹後守寄進の石垣、刻印石/3 クロマ山頂付近に見られる京極丹後守の石切場跡/4 寺川西谷の残石、石切場跡/5 クロマ山石切場への最短距離に位置する寶塔神社/6 民話が語る「狸のトメやん石碑」/7 おわりに

廃道に眠る歴史を掘り起こす
2 道供養碑はなぜ建てられたのか―大阪・池田に残る石造文化財(室田卓雄)
1 はじめに/2 ぎっしりと刻まれた戒名/3 周辺の石造文化財/4 大坂と京都を結ぶ重要な街道/5 おわりに

歴史学は人々の感性に迫れるか
3 大阪的美的感性の探求―暁鐘成『摂津名所図会大成』難波橋の鑑賞(小田直寿)
1 はじめに/2 難波橋界隈の景観/3 風光を読み解く/4 難波橋の風光へ/5 結びにかえて

考古学とは異なる遺構の見方
4 淀川沿いに造られた軍事施設をめぐる謎―文献史学的遺構論からみた楠葉台場(馬部隆弘)
1 はじめに/2 構想が浮上する過程/3 設計・施工の過程/4 警衛の体制/5 鳥羽・伏見の合戦/6 おわりに

つながりあう環境・信仰・生活
5 霊場・生駒山地の産業と民俗―山地西麓に暮らす人々の営み(俵 和馬)
1 〝神さぶる〟生活の山/2 生駒山を取り巻く種々の環境/3 生駒山地の園芸農業︱花卉栽培、ブドウ生産︱/4 生駒山地の工業・製造業︱水車工業・製氷業︱/5 生駒山という「民俗系」

第2部 史資料が語る!――おおさかの町と人

瓦に読む都市と職人
6 出土瓦からみた戦国期の瓦生産―天王寺瓦工を中心に(岡本 健)
1 はじめに/2 各地域の様相/3 戦国期における瓦生産の特徴/4 おわりに

なぜ彼らを同伴させたのか
7 髪結たちの意外な役割―道修町近所講の寄合と町髪結(野高宏之)
1 はじめに/2 近所講の結成/3 町と祝儀・勧進/4 浜社会/5 町髪結と町/6 近所講と町髪結/7 おわりに

近代の成立と町の解体
8 水帳が公文書になるとき―帳切・三新法・捨て子(飯田直樹)
1 水帳とは/2 公文書となった水帳/3 いつ公文書になったのか/4 町解体後の捨て子養育の行方/5 おわりに

日本と欧文文献をつきあわせる
9 外国人居留地に住んでいたのは誰か―川口居留地の区画と居住者たち(堀田暁生)
1 はじめに/2 最初の住人/3 明治一六年の清田報告とジャパン・ディレクトリーとの比較/4 商人・商会/5 宣教団体と宣教師/6 その他の宣教師・宣教医たちとお雇い外国人/7 終わりに

戦没者たちの葬儀を復元する
10 日本最古の陸軍墓地と日露戦争戦死者葬儀―真田山陸軍墓地・彰忠会・町葬(奥田裕樹)
1 はじめに/2 「彰忠会」の設立と寄付金集め/3 「彰忠会」執行町葬の概要/4 石津完造陸軍歩兵中尉の町葬/5 谷道太郎陸軍歩兵中尉の町葬/6 真田山陸軍墓地への埋葬/7 日露戦争の終結と「彰忠会」/8 おわりに

震災を生きのびた史料
11 「人」と地域の物語―五代友厚の娘「久子日記」から(石原佳子)
1 はじめに/2 母と娘、中之島に育つ《五代豊子と杉村正一郎》/3 父子二代、杉村正太郎と五代友厚/4 始まりは明治四十四年九月二十九日/5 北の大火と五代家転宅/6 明治四十五年七月十七日、市電焼跡線をめぐる辞任/7 大正二年四月二十日、中之島を歩く/8 終りに 「日記」という存在

第3部 水と街道を注視する!――変化するものと変化しないもの

何が変わり、何が変わらなかったのか
12 古代から近代まで続く北摂諸街道の変遷―長尾道と亀岡街道(前田豊邦)
1 はじめに/2 長尾道/3 長尾道の現状/4 関明神越道/5 能勢街道/6 妙見信仰の参詣道/7 参詣道に沿った茶店跡/8 結び

地域史の基層を掘り起こす
13 水利環境からみた和泉の地域開発―井堰・溜池・用水路(岸本直文)
1 はじめに/2 和泉市池田谷南岸の水利/3 和泉市池田谷北岸の水利/4 信太地域の水利/5 条里地割の施工時期と郷域/6 おわりに

地域の発展をもたらした起爆剤
14 中世淀川を行き交った人とモノ―寺社参詣がもたらした「大阪」の発展(曽我部愛)
1 都と瀬戸内海を結ぶ水上交通の大動脈/2 行き交う人とモノ/3 寺社参詣ブームの到来/4 後鳥羽院の熊野御幸/5 院・貴族たちの「大阪」への注目がもたらした発展

困った旅人をいかに助けるか
15 山崎通における旅行難民者救済システム―庶民の通行の実態を探る(高橋伸拓)
1 はじめに︱どのようにして庶民の通行を捉えるか/2 山崎通における旅行難民者救済システム/3 救済システムをめぐる山崎通沿道村々の訴願/4 おわりに

その土地は誰のものなのか
16 「喧嘩島」の所有権をめぐる争い―淀川流域の付洲開発(片山早紀)
1 洲は誰のものか/2 洲の開発をめぐる争論/3 洲の流失・復活と引き継がれる権益

明治期の河川法に基づいた最初の工事
17 淀川改良工事と土地収用―買収され、移転を迫られた側から考える(藤村尚也)
1 はじめに/2 淀川および淀川改良工事とは/3 買収価格の“受け入れ”/4 淀川改良工事における土地収用と河川法/5 さいごに

第4部 史資料との格闘!――都市大阪周辺地域の史実

出土した埴輪片に向き合い続ける
18 運ばれなかった埴輪からわかること―日置荘西町窯跡群と河内大塚山古墳(十河良和)
1 はじめに/2 埴輪を焼いていた窯の発見/3 出土した埴輪の特徴/4 作った人々の出自/5 供給先はどこか/6 河内大塚山古墳/7 安閑天皇と辛亥の変/8 おわりに―近年の研究動向から―

近世の紛争解決人
19 水をめぐる村々の争いと扱人―「鎌田水論一件日記」から読み解く(西川哲矢)
1 近世の村の紛争解決/2 争いの発端〜訴訟までの経緯/3 出訴、大坂町奉行所での審理/4 訴訟上の内済、扱人の介入/5 内済の終了と扱人/6 まとめ

近世を代表する庶民史料は何を語るか
20 神社普請と氏地の人びと―摂州豊島郡池田村『伊居太神社日記』を読む(田中万里子)
1 伊居太神社と『伊居太神社日記』/2 村の神社の普請事業/3 普請の主体と費用の負担者/4 神主河村上総定興/5 日記は語る

史料をジェンダー視点で見直す
21 旧思想打破の岸和田の女性たちが勝ち取ったもの―雨天運動場・公会堂・婦人館建設運動(山田裕美)
1 はじめに/2 城内尋常小学校雨天運動場建設運動/3 岸和田公会堂建設運動/4 女性たちの奮闘/5 婦人館建設運動/6 おわりに


あとがき(栗原健一)
執筆者紹介

著者略歴

編:地方史研究協議会
地方史研究協議会は、各地の地方史研究者および研究団体相互間の連絡を密にし、日本史研究の基礎である地方史研究を推進することを目的とした学会です。1950年に発足し、現在会員数は1,400名余、会長・監事・評議員・委員・常任委員をもって委員会を構成し、会を運営しています。発足当初から、毎年一回、全国各地の研究会・研究者と密接な連絡のもとに大会を開催、また、1951年3月、会誌『地方史研究』第1号を発行し、現在も着実に刊行を続けています(年6冊、隔月刊)。

ISBN:9784909658920
出版社:文学通信
判型:新書
ページ数:272ページ
定価:1500円(本体)
発行年月日:2022年11月
発売日:2022年12月23日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPJ-JP-E