ウミガメは100キロ沖で恋をする
著:菅沼 弘行
内容紹介
「養殖で一儲けしよう」と小笠原のウミガメの世界に飛び込んだひとりの青年。しかし、「養殖なんて、絶対に採算がとれない」と愕然とし、今度は「ウミガメを守る、増やす」ことに方向変換。小笠原諸島、インドネシアと、ウミガメとともに「世界を漂流」し、「ウミガメのいるところ、菅沼あり」と呼ばれて45年。
「ウミガメを守りたい」「かわいそう」という思いだけではウミガメを救うことはできない」が持論の著者は、「ウミガメを保護したいという思い込み、つまり誤解がウミガメを危機に陥れている原因になっている。そもそも人はウミガメにを保護できるほどの知識も能力も持っていない」という。
いまではNPO法人ELNAを立ち上げ、「せめて僕らがかかわった地域のウミガメは絶対に絶滅させないーー」そんな思いで、熱帯の海岸を歩き回り、産卵巣をがむしゃらに掘りまくり(もちろんふ化後)、海岸に打ち上がったウミガメの死体をバッサバッサと切りまくり、ときにはウミガメの研究者と交渉(というかケンカ)する日々を送っている。本書は、そんな著者が歩いてきたウミガメの世界について、現場から語り伝えるノンフィクションである。
目次
はじめに
ウミガメ養殖で大儲け/ ウミガメのお産婆さん/ ウミガメ養殖は儲からない! /
小笠原から世界へ/ 身近なウミガメへの〝思い〟と〝思い込み〟
ウミガメ図鑑
オサガメ/ アオウミガメ/ アカウミガメ/ タイマイ/ オリーブヒメウミガメ/
ケンプヒメウミガメ/ ヒラタウミガメ
1章 絶滅危惧種「ウミガメ」のいま
絶滅危機にあるウミガメ/ タイマイとワシントン条約と日本/
2年で13万7000頭を捕殺/ タイマイを絶滅に追い込んだのは/
18000万円の無意味な調査旅行/ 届かなかったべっ甲職人の危機感/
アリバダが復活したヒメウミガメ/ オサガメとマグロはえ縄漁/
食文化としてのウミガメ/ダウンリストはよろこぶべきか
ウミガメコラム① ウミガメの生態
リクガメとウミガメって何が違う? / カメはいつ地球上に現れた? /
ウミガメの潜水の秘密は? / ウミガメは何年生きるの? /
ウミガメってどんな一生? / 地球温暖化でメスガメばかりになる?
2章 移植でウミガメは増やせない
ウミガメ〝保護〟最大の思い込み/ 卵を殺してしまう移植/ 盗掘対策には軍隊を/
移植が母浜回帰を狂わせる? / カメの生態を無視した放流会/
なにもしないのがいちばん! / 海の力に任せる
ウミガメコラム② ウミガメを脅かすもの
マイクロプラスチックとゴーストネット/ 野生動物による食害/
産卵や脱出を邪魔する海岸を照らす光/ 砂浜への車の乗り入れ/ 砂浜の減少
3章 小笠原のアオウミガメ
ウミガメとともに歴史を刻む島/ 持続的利用を実現する小笠原/
ELNAの活動の肝「モニタリング調査」/ 鉄筋で卵を探す理由/ 死体は語る/
大村海岸の光害/ ヘッドスターティングへの期待/ 基礎データとカメ研/
99年続いた人口ふ化放流事業/ 小笠原のアオが増えた理由/
ウミガメコラム③ ちょっと自慢
活用されはじめたPIT タグ/ ノギスと電気柵とサージミヤワキさん
4章 ジャワ海のタイマイ
なりゆきではじまったタイマイ保全/ タイマイの卵と現地経済/
卵の盗掘人から監視人へ/ ナタで追いかけられて/ 地道な海岸の掃除/
ネズミを絶滅させろ/ キマル島のムサさん/ インドネシアという島/
海外で活動するということ/「菅沼、バカルディ、持ってきたか?」/
地元の人と一緒にやる理由/ ジャワ海5島だけは守り抜く
ウミガメコラム④ アキル・ユスフさんのこと
突然のお別れ
5章 パプアのオサガメ
オサガメ繁殖地、太平洋最後の砦で/ 狩猟民族アブン族とウミガメ/
卵を食べる野ブタを撃退/ サシバエとワニの恐怖/ 西パプアのもうひとつの〝戦い〟/
さまざまな妨害を受けながら/ 村人を怒らせた議案/ オサガメの産卵数が増えない理由
ウミガメコラム⑤ 研究者との共同研究
カメが気象予報の手伝い/ ELNA の現場力
6章 ウミガメを「守る」ということ
ボランティアではできない/ 人の影響を取り除く/ ウミガメ研究者と保全/
雨ドイとワニとニオイ/ 種によって産卵場所が違う理由/ オサガメのカモフラージュ/
移植が防げる母浜回帰/ 僕に与えられた最後の仕事
おわりに__