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「恨」文化を助長した日朝戦争―朝鮮王宮襲撃事件―

著:樋口 正士

紙版

内容紹介

日清戦争は、日本と清国との間の戦争であるが、開戦の理由は両国と朝鮮との関係にあり、開戦時の戦場も朝鮮国内であった。朝鮮が日清両国の間に位置しているという、地政学的な要因があったことは間違いない。ともあれ、一八九四(明治二十七)年というタイミングで日清戦争が勃発した原因を理解するためには、当時の日本・朝鮮・清国三国の状況を知り、日本が何故清国との戦争に至ったかの経緯を見ることになる。

一八九四(明治二十七)年七月二十三日の朝鮮王宮襲撃事件とは、とにかく日清開戦を実現させようとした、具体的には、朝鮮の政府を入れ替えて清国軍撤退を迫らせ、清国軍との開戦を正当化する条件を整えることを意図して行われた、日本が朝鮮へ挑んだ戦争のことである。
原田敬一氏は「七月二十三日戦争」という名称を提案している。それは「外国に駐屯している軍隊が、その国の王宮を襲い、守備兵と砲火を交え、占領する、というのは事実上の戦争と判断できる」ためであり、 そして、「この一日だけの戦争で日本軍が戦った相手は『朝鮮』である」としている。
この戦争の最大の悪影響は、朝鮮国内で反日感情を高揚することになった点であり、朝鮮における文化、思想においてすべての根幹となっている思考様式の一つ「恨(ハン)」の概念の一環を担った事である。

目次

第一篇 当時の日本・朝鮮・清国三国の時代背景          
第一章 日本の状況             
第一項 政治の状況について                                   
一 日本の国内情勢
二 帝国議会での藩閥政府と議会の対立
三 対外硬派について
四 世論の中にあった反清感情について           
五 谷干城の対外硬論
六 三浦梧楼『兵備論』                  
第二項 経済の状況について                  
一 松方財政
二 明治日本の産業革命
三 日本の産業革命 
四 鉄道の勃興
五 工業化は軽工業から
第二章 朝鮮の状況                      
第一項 李王朝の思想
第二項 日朝の歴史的経緯                   
一 豊臣秀吉の朝鮮侵攻
二 秀吉の死後
三 十九世紀後半に至るまでの日本と朝鮮のの歴史過程    
第三項 日清戦争ではなぜ朝鮮が争われることになったのか   
一 江華島事件
二 壬午軍乱(一八八二年)
三 甲申事変(一八八四年)
第四項 日朝貿易状況                     
一 日朝貿易
二 反日感情を高めた問題行動
三 日本商より優れていた清国商の商才
第五項 在朝の日本人人口動態                                 
第六項 朝鮮には日本の銀行も進出していた            
一 渋沢栄一による日本の銀行の朝鮮進出
二 第一国立銀行朝鮮支店の開設・拡大
三 朝鮮支店の業績は低迷していた
第七項 反日意識を昂進させた防穀令事件            
第八項 巨文島事件・東学の乱(甲午農民戦争)           
一 巨文島事件(一八八五年)
二 東学の乱(甲午農民戦争)に至るまでの状況
三 東学の乱(甲午農民戦争)(一八九四年)
第九項 朝鮮の経済状況                    
一 開港に至るまでの朝鮮の中世社会の特徴について      
二「朝鮮の儒教」が経済に及ぼした影響            
三 開港前の朝鮮の農業
四 開港前の朝鮮の商業 
五 朝鮮の鉱業について                   
六 開港後の朝鮮の貿易
七 開港後の朝鮮の政治状況の変化
第十項 バードと塩川の観察による朝鮮経済社会の状況の実態   
一 イザベラ・バードの『朝鮮紀行』               
二 塩川一太郎の『朝鮮通商事情』 
三 バードの見た朝鮮の玄関口の状況
四 朝鮮の産業
五 朝鮮の商業
六 朝鮮の旅行、物流の事情
七 バードの見た朝鮮の両班、官吏
第三章 清国の状況                      
第一項 代表人物を介して見る日清戦争前             
一 李鴻章の太平天国の乱との関わり
二 李鴻章、捻軍鎮圧により直隷総督・北洋通商大臣に就任
三 日本との関わりと袁世凱の出現
四 朝鮮で壬午軍乱起こる
五 この頃の袁世凱の状態
六 袁世凱の朝鮮での活躍はじまる
七 甲申事変の鎮圧により実質的な朝鮮総督として君臨 
八 東学の乱(甲午農民戦争)起こる
九 日清戦争勃発する
第二項 清国の状況                     
一 清国の対日・対朝政策
ニ 一八七一年 日清の近代的外交関係の開始
三 冊封に対する経済上の援助と軍事上の保護責任
四 朝鮮に対する清国の地政学的認識と朝鮮「属国」実体化政策
五 清国と他の国との関係
六 清国の内政の変化
第二篇 日朝戦争(朝鮮王宮襲撃事件)―日清開戦に至る道程―   
第一章 日本の戦争準備と軍備状況               
第一項 明治維新以来の陸軍の整備・拡張
一 維新政府の陸軍創設
二 壬午軍乱後の陸軍の増強
三 日清戦争時の陸軍の体制
第二項 海軍の整備・拡張について
一 明治初年の日清間の衝突と海軍力拡張競争
二 清国は、日本の台湾出兵以降、北洋艦隊を整備
三 日本は、朝鮮の壬午軍乱後、海軍力を強化
第三項 戦争遂行を支えた鉄道の整備
第四項 軍拡への予算措置                  
一 初期議会期の政府の外交方針と軍拡の必要性
二 議会開設後の予算問題
三 民党側の軍拡への見解
四 健全な財政原則の中で達成された軍拡
五 日清戦争時点までの日本の軍事費
第二章 日本の指導者たち 日清戦争時の内閣と陸海軍      
第一項 天皇と内閣
第二項 陸軍・海軍の幹部
一 陸軍
二 海軍
第三章 朝鮮への出兵と日清開戦の意志決定           
第一項 朝鮮出兵の決定と、対清避戦方針の決定
一 東学の乱の発生と、日本からの朝鮮出兵の閣議決定
二 対清開戦は、政府の方針としては存在せず
三 政府内には路線対立、伊藤博文の対清避戦が公式方針
四 第一次輸送部隊四千名の出発と、大鳥公使の漢城到着
第二項 内閣の方針転換、対清開戦方針の決定
第三項 日清両国からの出兵
一 清軍の出兵
二 日本軍の出兵
第四項 イザベラ・バードが見た開戦直前の済物浦の状況
第五項 朝鮮改革提案と、列強からの干渉開始
一 共同内政改革を清国に提案するも、清国は拒否
二 列強の干渉を経て、日本は再び開戦路線に
第六項 日本軍の増派と「作戦大方針」
一 日本の第二次輸送部隊の派兵
二 大本営の「作戦大方針」
第七項 日本軍による朝鮮半島での電信線の建設強行       
一 開戦前の朝鮮半島の電信線の状況
二 日本軍による新線の建設
第八項 日本政府による開戦の決定
一 清国が増派なら反撃するというもの
二 現地では朝鮮王宮包囲計画をそのまま続行
第四章 日朝戦争(朝鮮王宮襲撃事件)               
第一項 開戦の条件を強引に正当化
一 朝鮮王宮襲撃占領作戦の実施
二 公使館と旅団が協議して計画、一個大隊ではなく旅団が動く
三 朝鮮王宮襲撃事件は、一日だけの日朝戦争
第二項 朝鮮王宮襲撃事件はどのようにして行われたのか       
一 二十三日深夜からの王宮襲撃
二 日本兵が王宮占領、韓兵を武装解除して、国王を脅迫
第三項 朝鮮王宮襲撃事件では、外交・軍事上の目的を達成
第四項 朝鮮王宮襲撃事件では、重大な負の影響も免れず
第五項 一年三ヵ月後に重大な失敗
第六項 必ずしも正しからず、新聞・世論
第七項 日清開戦への最大の批判者は明治天皇であった
日清戦争史の要約                       
年表 (日清戦争前後を中心として)

著者略歴

著:樋口 正士
樋口正士(ひぐち まさひと)

1942(昭和17)年 東京都生まれ。日本泌尿器科学会認定専門医。医学博士。

【著書】
『石原莞爾将帥見聞記―達観した生涯の陰の壮絶闘病録―』(原人舎)
『日本の命運を担って活躍した外交官 芳澤謙吉波乱の生涯』(グッドタイム出版)
『下剋上大元帥 張作霖爆殺事件』(グッドタイム出版)
『藪のかなた』(グッドタイム出版)
『ARA密約-リットン調査団の陰謀』(カクワークス社)
『捨石たらん! 満蒙開拓移民の父 東宮鉄男』(カクワークス社)
『福岡が生んだ硬骨鬼才外交官山座圓次郎』(カクワークス社)
『東亜新秩序の先駆 森恪≪上巻・下巻・補遺 3冊組≫』(カクワークス社)

【趣味】家庭菜園

ISBN:9784907424244
出版社:カクワークス社
判型:A5
ページ数:420ページ
定価:1800円(本体)
発行年月日:2018年07月
発売日:2018年07月07日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:NHF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:1FPK