出版社を探す

RF集積回路の設計法―5G時代の高周波技術―

著:前多 正

紙版

内容紹介

携帯電話などの移動体通信が実用化されてから30年で、通信速度は約1万倍以上も向上しており、2020年に実用化が予定されている第5世代移動体通信(5G)では、さらなる通信速度の向上が図られている。5Gの実現により、高精細な動画像がインターネットを介して瞬時にダウンロードでき、膨大な数のユーザがアクセスしてもシステムがダウンすることもなくなることが期待されている。また5Gは、医療、製造、流通、緊急サービスなど、あらゆる産業に大きな影響を及ぼすと予想されており、具体的な例としては遠隔手術や自動運転など、人々の生活をより快適で便利にできると考えられている。
このような無線通信の高度・高速化を支えるのは、高周波領域で動作するRF回路の進化である。携帯電話端末の無線回路は、数百MHzから数GHzの高周波アナログ(Radio Frequency:RF)信号を扱い、受信時には雑音にまみれたピコワット程度の微弱電波から正確な情報を取り出し、送信時には電池電源から1ワット程度の高出力信号を効率よく変換し、電波法で厳格に規定された周波数帯で送信する必要がある。高周波アナログ信号を扱う場合には、雑音だけでなく、回路に存在する寄生容量の影響、信号間の干渉、反射など、非常に多くの考慮しなければならないことが多いことから、アナログ回路開発には数多くのノウハウが必要である。
また、素子のばらつきなどの影響を受けやすいアナログ回路だけでは高性能なRF回路を実現することは困難であるので、アナログ回路の不完全性をデジタル回路で補正する技術が提案され、さらには、アナログ回路そのものをデジタル回路に置き換えて、同様の性能を実現できる技術が開発されるなど、設計者がカバーすべき技術範囲は非常に広範囲に広がっている。
現在では、高周波回路設計用の回路シミュレータ(Computer Aided Design:CAD)が発達しているので、CADによる数値計算でも必要な設計値を求めることもできるかも知れない。しかしながら、CAD設計では回路の最適化はできても、課題を解決することはできない。回路動作の原理を理解しつつ設計を行う力が身につけば、課題を解決するアイディアを設計段階で創出することができるようになる。
 本書は、変調方式や受信感度などの無線仕様から、RFトランシーバ全体を俯瞰しながら回路設計を行うためのRF回路の基礎と、設計で考慮すべきキーポイントを網羅的に述べている。また、各回路設計において、基本となる原理説明に数式を示し、その解析式の導出過程もできるだけ記載した。さらには、従来RF回路の欠点を改善すべく考案されてきた最新RF技術の原理を紹介しており、これからRFトランシーバ設計を学ぶ技術者に、開発の指針を提供するものである。尚、回路レイアウトのノウハウ、寄生容量の抽出や、回路モデルの構築方法、に関しては別の文献を参照されたい。

目次

1.雑音
1-1 抵抗の雑音
1-2 MOSFETの雑音音
1-3 熱雑音の分布音
2.低雑音増幅器(Low-Noise Amplifier:LNA)
2-1 受信部構成と受信電力強度音
2-2 雑音指数と入力換算雑音音
2-3 縦列接続構成の受信機の雑音音
2-4 受信信号と雑音レベルの関係音
2-5 入出力整合音
2-6 LNA入力インピーダンスのスミスチャート上の軌跡音
2-7 カスコード構成LNA音
2-8 寄生素子の影響音
2-9 増幅器の出力雑音音
2-10 等雑音円、等利得円音
2-11 回路の非線形性音
2-12 雑音キャンセル型LNA音
3.ミキサ(Mixer:MIX)
3-1 周波数変換の原理
3-2 イメージ信号
3-3 イメージ除去ミキサ
3-4 イメージ除去比
3-5 位相差π/2(90度)の信号生成回路
3-5-1 ポリフェーズフィルタ
3-5-2 フリップフロップを利用した回路
3-6 ミキサ回路の具体例
3-6-1 受動ミキサ
3-6-2 受動ミキサの雑音
3-6-3 能動ミキサの変換利得
3-6-4 能動ミキサの雑音
3-7 ハーモニックリジェクションミキサ
3-8 最新のミキサ回路
4.電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO)
4-1 LC発振器の発振条件
4-2 位相雑音
4-3 その他雑音の経路(アップコンバージョン)及び雑音抑制回路
4-4 位相雑音が受信動作に及ぼす影響
4-5 VCOの回路構成例
4-5-1 n型MOS-VCO
4-6 直交VCO(Quadrature-VCO)
4-7 注入同期VCO
5.フェーズロックループ(Phase Locked Loop:PLL)
5-1 整数分周PLL
5-1-1 分周器
5-1-2 位相比較器
5-1-3 PLL伝達関数とループフィルタ
5-1-4 PLLループフィルタの実装
5-1-5 PLLの周波数応答
5-1-6 雑音源と位相雑音
5-2 分数分周PLL(fractional-N PLL)
5-2-1 理想的な分数分周
5-2-2 シグマデルタ変調器(ΣΔ変調器)と分周比のランダム化
5-2-3 MASH
5-2-4 アキュムレータのビット数とスプリアス
5-2-5 シグマデルタ変調器を用いた分数分周PLL例
5-2-6 分数分周PLLの伝達関数と位相雑音特性
5-3 デジタル制御PLL
5-3-1 デジタル制御発振器
5-3-2 シグマデルタ変調器
5-3-3 位相比較
5-3-4 時間デジタル変換器
5-3-5 PLL伝達関数とデジタルループフィルタ
5-3-6 ADPLLの位相雑音
6.アナログベースバンド
6-1 フィルタ特性とアナログベースバンド信号
6-2 gmCフィルタ
6-2-1 単相入力・単相出力gmアンプ
6-2-2 差動入力gmアンプ
6-2-3 gmCフィルタ
6-2-4 代表的なフィルタ特性
6-2-5 フィルタ特性の自動調整回路
6-3 離散時間フィルタ
6-3-1 スイッチトキャパシタを用いた離散処理フィルタ
6-3-2 デューティ制御離散処理フィルタ
6-4 ベースバンドアンプ(IFアンプ)
7.受信部全体設計(レベルダイア設計)
7-1 受信機アーキテクチャ
7-2 レベルダイア設計
7-3 アナログ回路の不完全性による復調性能への影響
8.送信部(トランスミッタ)設計
8-1 トランシーバ全体構成
8-2 送信機の性能仕様
8-3 送信機アーキテクチャ
8-4 送信信号が受信性能に及ぼす影響(SAWフィルタの必要性)
8-5 低雑音ドライバアンプ回路設計
8-6 パワーアンプ(Power Amplifier:PA)
8-7 低歪み・高効率化手法
8-8 アンテナスイッチ
8-9 サーキュレータ

著者略歴

著:前多 正
芝浦工業大学 工学部教授 博士(工学)
1983年 豊橋技術科学大学電気電子工学専攻修了。同年、日本電気株式会社入社。1999年 同社光無線デバイス研究所主任研究員、2006年 同社デバイスプラットフォーム研究所主幹研究員。2010年からルネサスエレクトロニクス株式会社を経て、2015年より現職。
2005年~2010年International Solid State Circuit Conference (ISSCC)プログラム委員、2018年電子情報通信学会英文論文誌(A)小特集プログラム編集委員長などを歴任。
専門はアナログRF回路設計。現在は、低消費電力RFトランシーバ、環境電波エネルギーハーベスト、集積化RFバンドパスフィルタに関する研究を推進中。所属学会は、米国電気電子学会(IEEE)、電子情報通信学会。

ISBN:9784904774861
出版社:科学情報出版
判型:A5
ページ数:354ページ
定価:4500円(本体)
発行年月日:2020年02月
発売日:2020年03月04日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KN
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:TJF