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統合失調症急性期看護学

患者理解の方法と理論にもとづく実践

他著:阿保 順子
他著:岡田 実
他著:東 修

紙版

内容紹介

精神科看護の専門性がもっとも問われる統合失調症急性期看護をテーマに掲げた唯一の参考書であり,定本として読み継がれてきた『統合失調症急性期看護マニュアル』(2004年初版,2009年改訂版,すぴか書房)が全面的に見直され,書名も一新して,総合的な精神看護の「学」を標榜する一冊に生まれ変わった。「理論にもとづく」ことによって,たしかな見通しのもとに,回復過程にある患者の支援=専門的な看護の実践が可能となる。本著者オリジナルの「精神構造と保護膜」の理論による患者の状態の解釈と,それにもとづく看護方針と具体策は,前書に増してよくわかり,深く納得することができるであろう。。
「本書では今日の精神科病院医療の現状をふまえて,理論以前に基本的に重要な倫理や実践知,処遇や治療についてもページを割くことにした(Ⅰ:第1,2,3章)。その結果,必須事項をしっかりとおさえ,統合失調症急性期看護を総合的に学ぶために不足のない一書に生まれ変わったと思う(☞書名変更)。内容的な肝である“精神構造と保護膜”の理論(Ⅱ部:第4,5,6章)についても,ほとんど新しく書き直した。考え方の筋道は前書と変わらないが,説明する用語を整理し,わかりやすく明確な文章表現に改めるなど,リファインに努めた。説明はできるだけ心理学的概念に頼らないようにした。精神構造による「患者理解」が,心理学による「こころ」の解釈とは別の,看護学独自のテーマであることを明確に示したかったのである。たとえば「自我」という言葉は使っていない。また,「からだ」と「身体(しんたい)」も意識的に使い分けている。さらに,前書の2つの保護膜(内側と外側)の図式に,新しく「自ずと張っている保護膜」を加えたことで,曖昧さをクリアした。いずれにしろ,“精神構造と保護膜”理論の説明は,本書の記述が,現時点における決定版である。」(「あとがき」より抜粋) さらに,第Ⅲ部・事例集(事例1~10)の充実を図った。Ⅰ部(総論),Ⅱ部(理論)のおさらいとしてだけでなく,基礎教育の教材としても好適。是非活用していただきたい。本書をおいて統合失調症の看護を語ることは出来ない。

目次

序章 精神科看護の現在を問う:精神医療と看護、この50年をかえりみて
統合失調症を“ほどく”あるいは“耕す”
■すぐれた書籍に恵まれ、励まされた時代 ■歴史に学ぶ意味
精神科看護この50年の変化
揺れはじめた看護職能:オールラウンド性の喪失
■作業療法士の登場:集団作業療法の診療報酬化(1986年 ■退院・社会復帰促進と精神保健福祉士
精神保健医療福祉の改革ビジョン:10カ年計画の結末
■精神病床削減が失敗に終わった背景
臨床看護の変質
■診療報酬の成果主義になびく:入院基本料の軽視 ■総合的な看護スキルの軽視 ■看護記録にみる問題――自ら書かないことの末路
看護を取り戻すために

Ⅰ 統合失調症急性期看護学総論
第1章 回復過程としての統合失調症急性期:中井久夫“寛解過程論”による
1 統合失調症の急性期とは
1]文献検討
2]なぜ急性期が強調されるのか
2 統合失調症の経過
■中井久夫の寛解過程論
1]発病前(発病準備期)
■前ぶれ ■知覚の過敏 ■過緊張,身体的な不調
2]発病/急性状態
■世界の構成のされ方が逆転する ■保護室の使用と鎮静:からだが悲鳴をあげている ■絶対的な恐怖,超覚醒,超過敏 ■治療・看護の第1目標:絶対的恐怖の軽減 ■セルフケアレベルの低下 ■治療的接近の可能性
3]臨界期
■心理的不安 ■抑うつ:自殺の危険 ■悪夢:恐ろしい直感 ■身体症状の出現
4]寛解期前期
■ぼんやりとした感じ ■患者固有のテンポ
5]寛解期後期
■時間感覚の回復 ■生活支援的かかわり
3 病歴―急性状態の患者背景
1]初発
2]再発
3]劇症化
4]潜在患者
5]ぶり返し
4 臨界期のケアの重要性
第2章 精神科救急あるいは外来受診患者の入院
1 救急と入院:患者の受け入れ
1]搬送経路・病室の確保
■外来に向かう看護師
2]診察室の構造:安全,安心の確保
3]診察室で:治療の入り口
■自発的入院を促す
4]病棟に迎える
■病棟への誘導 ■保護室の使用
2 患者へのアプローチ
1]救急場面における精神科看護
2]患者像の組み立て
3]家族から提供される情報
3 行動制限に伴う法的根拠
1]精神保健および精神障害者福祉に関する法律
2]隔離(保護室使用)
3]身体拘束
3]通信・面会の制限
4 薬物療法
1]急性期治療戦略の変遷
2]抗精神病薬の種類
■フェノチアジン系 ■ブチロフェノン系 ■ベンザミド系 ■非定型抗精神病薬
3]アゴニストとアンタゴニスト
4]定型と非定型という分類
5]形状
6]抗精神病薬の副作用
■錐体外路症状 (EPS) ■悪性症候群 ■肥満,糖尿病,脂質異常症 ■その他
7]服薬ケア
■事前のデータチェック ■観察のポイント
8]コンプライアンス,アドヒアランス,飲み心地
9]スイッチング
第3章 統合失調症急性期看護の基本:精神科看護の専門的常識
1 望ましい入院
1]救急対応
■どうなさいましたか? ■尊厳の擁護
2]柔らかな入院誘導
■心に届くコミュニケーション
2 治療的接近の原則
1]自然治癒力:回復過程の原動力
■自然治癒への方向性 ■一時性の強調
2]兆候優位の病理に対して
3]安心第一
■カタツムリのたとえ
4]患者との会話における心得
■波長を合わせる ■婉曲話法
5]理解しようとする態度:ふつうの言葉でわかり合う
6]異常体験に対する関心
■異常体験を聞きだそうとしてはならない ■秘密を知る魅力にとらわれてはならない ■異常体験を患者と語ることのむずかしさ ■感情的能力:共感的ケア
7]看護面接
8]患者との共同作業
9]発病前よりもよくなることをめざす
3 家族に対するケア
1]家族研究の視座
2]受診に至るまで
■気休めは何の意味もない
3]家族ケアの目標
4 看護師自身のストレスへの対処
■罵詈雑言のシャワー
1]理論的な理解にもとづく対応
2]感情のケアを受ける

Ⅱ 統合失調症急性期看護の展開:“精神構造と保護膜”の理論
第4章 患者理解の方法
1「精神構造」モデル
1]患者の側から理解するための理論
■身体論的な見方 ■現象の意味を知る
2]精神構造の模式図
2 発 病:精神構造による解釈-1 
1]発病に至る精神構造
2]発病時(急性状態)の精神構造
3 統合失調症急性期の患者理解:精神構造による解釈-2
1]幻覚・妄想状態
2]疎通性のなさ
3]躁状態
4]引きこもり
5]昏迷・亜昏迷状態
4 臨界期の精神構造
5 寛解期前期から後期の精神構造
6 精神構造モデルの理論的広がり
■診断名は違っても似ている状態像 ■人間理解の橋をかける
第5章 看護の原則:統合失調症急性期看護の実践を導く理論
1 保護膜という考え方
1]脅かされている自己(精神構造)をまもる
■応急手当 ■保護膜のニード ■自然治癒力:患者の内側から張られる保護膜
2]保護膜と看護
■3つの保護膜
2 統合失調症急性期看護の原則:“精神構造と保護膜”の理論
【原則1】患者が自ずと張っている保護膜をはぎ取らない
【原則2】患者の外側から保護膜を張る
■突発的な危険行為 ■患者の信頼
【原則3】患者の内側から保護膜が張られていくことを妨げない
第6章 回復過程に沿った看護の実際:看護方針と具体策
1 発病時(急性状態)の看護
1]患者本人が張っている保護膜の尊重
■着衣,かぶり物 ■信頼関係の形成
2]人的環境による保護膜
■かかわる人数 ■看護師の言動 ■接触,距離感 ■気配り
3]物理的環境による保護膜
4]身体知覚の歪みに対する保護膜:身体的アセスメント
■危険回避 ■睡眠,食事,水分摂取,排泄のケア
5]時間感覚の歪みに対する保護膜
■「待てない」ことへの配慮
6]徘徊のケア
7]自閉に対するケア
8]固まった状態に対するケア
2 臨界期の看護
■回復のしるし ■特徴的な症状 ■臨界期の看護の原則
1]身体症状に対して
2]強迫的な行動に対して
3]恐ろしい直観,突飛なひらめき
4]夢
3 寛解期の看護
1]寛解期前期
■ちょっと変な感じ ■睡眠の確保 ■退院を目標にした看護計画 ■リハビリのストレス,疲労
2]寛解期後期

コラム-1 徘徊や自閉・引きこもりの意味
コラム-2 臨界期の期間
コラム-3 臨界期における療養の場

Ⅲ 統合失調症急性期看護事例集:精神構造の解釈と看護の実際
事例-1 幻覚・妄想に支配され,自らの言動をコントロールできなくなった患者
事例-2 思考の混乱により疎通性に障害のある患者
事例-3 躁状態で,感情のコントロールが困難な患者
事例-4 引きこもりから,亜昏迷・昏迷状態をきたした患者
事例-5 陽性症状が表面的には目立たないが,幻聴が活発な患者
事例-6 興奮が激しく攻撃的で,治療・ケアに抵抗が強い患者
事例-7 焦燥感や不安から自殺企図に及んだ患者―臨界期の看護
事例-8 急性状態は治まって退院したが,幻聴に悩まされて再入院に至った患者
―寛解期の看護
事例-9 激しい妄想を抱きながら1人で暮らしている患者―訪問看護でのかかわり➊
事例-10 長年1人暮らしで生活は自立できているように見えるが,実際は幻聴が激しく必需品の買い物にも支障をきたしている患者―訪問看護でのかかわり➋

著者略歴

他著:阿保 順子
長野県看護大学名誉教授
1949年青森県弘前市生まれ。1970年日本赤十字中央女子短期大学卒業。慶応義塾大学通信教育部にて哲学を,弘前大学人文科学研究科にて文化人類学を学ぶ。日本赤十字中央病院,弘前市立病院にて看護師。看護教員,非常勤講師を経て,1993年北海道医療大学看護福祉学部教授。2010年長野県看護大学学長(~2014年)。現在,NPO法人こころ理事長。
著書:『身体へのまなざし;ほんとうの看護学のために』(すぴか書房,2015年),『精神看護という営み;専門性を超えて見えてくること・見えなくなること』(批評社,2008年),『痴呆老人が創造する世界』(岩波書店,2004年/岩波現代文庫では『認知症の人々が創造する世界』に改題,2011年),『回復のプロセスに沿った精神科救急・急性期ケア』(編著,精神看護出版,2011年),『高齢者の妄想;老いの孤独の一側面』(浅野弘毅と共編,批評社,2010年),『人格障害のカルテ〔実践編〕』(犬飼直子と共編,批評社,2007年),ほか。
他著:岡田 実
岩手保健医療大学教授
1952年青森県青森市生まれ。1977年弘前大学教育学部卒業。1985年弘前大学医療技術短期大学部看護学科卒業。2004年放送大学大学院文化科学研究科総合文化プログラム環境システム科学群修了,修士(学術),2010年北海道医療大学大学院看護福祉学研究科看護学専攻博士後期課程修了,博士(看護学)。青森県立つくしが丘病院看護師長,青森県立精神保健福祉センター総括主幹,弘前学院大学看護学部教授,長野県看護大学教授を歴任。2019年より現職。現在,大学院研究科長。また,Zoomによるオンライン・ワークショップ(中堅・熟練看護師育成プログラム,看護研究支援プログラム,文献の抄読会)主催。 mokada@iwate-uhms.ac.jp
著書:『暴力と攻撃への対処;精神科看護の経験と実践知』(すぴか書房,2008年),『ナイチンゲールはフェミニストだったのか』(共著,執筆論題「ナイチンゲールの女性論;ラスキン,J・S・ミル,ガマーニコフとの比較から」,日本看護協会出版会,2021年),ほか。
他著:東 修
佐久大学看護学部准教授
1967年北海道森町生まれ。1992年掖済会名古屋看護専門学校卒業。2009年北海道医療大学大学院看護福祉学研究科看護学専攻博士前期課程修了,修士(看護学)。精神看護専門看護師。看護師として生々会松蔭病院,国立名古屋病院,市立函館病院,林下病院勤務を経て,2013年長野県看護大学健康センター長,2015年同大学看護学部講師。2019年亀田北病院看護部長補佐。2021年より現職。
著書:『死の臨床;高齢精神障害者の生と死』(松本雅彦・浅野弘毅編,執筆論題「精神科病院における身体合併症治療の現状」,批評社,2011年),『回復のプロセスに沿った精神科救急・急性期ケア』(阿保順子編,2章①,精神看護出版,2011年)

ISBN:9784902630305
出版社:すぴか書房
判型:B5
ページ数:176ページ
定価:2500円(本体)
発行年月日:2021年09月
発売日:2021年09月10日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:MJ