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統合失調症を生きる

精神薬理学から人間学へ

著:長嶺 敬彦

紙版

内容紹介

医学の進歩により、「統合失調症」やその治療薬である「抗精神病薬」についてさまざまな知見が明らかになっていました。このことは、「普遍的疾患としての統合失調症」(schizophrenia as a disease)が探索された結果ですが、果たして、統合失調症の患者さんはその恩恵に浴し、昔より楽しく生きられているのでしょうか。医学の進歩に呼応する「精神の豊かさ」が得られているのでしょうか。
病める患者さんやその家族にとって“客観的”な統合失調症が問題なのではなく、“私的苦痛体験”である統合失調症が問題なのです。本書のタイトルである「統合失調症を生きる」(Schizophrenic Way of Life)とは、精神疾患を消し去るのではなく、疾患とともに歩むという考え方です。
本書を通じて、患者さんやその家族、日夜診療に従事するスタッフなど、すべての人が「他人事の統合失調症」ではなく「私的苦痛体験である統合失調症」を身近に感じてください。そして、「統合失調症を生きる」とはどういうことかを模索し、精神薬理学の進歩を「統合失調症を楽しく生きる知恵」に変換していただければ幸いです。

目次

A.臨床の視座
 ■麻酔科医の発想―精神科薬物療法を外科手術にたとえると
 ■もっともすぐれた医療機器は何か
 ■役立つ情報とは
 ■鍵の文化
 ■何も言えない

B.統合失調症とは
 ■陽性症状と陰性症状
 ■前駆期の重要性―精神疾患の一次予防ができる可能性
 ■疾患の近縁性
 ■遺伝は決定論ではない
 ■4つのドパミン経路
 ■統合失調症の治療
 ■幻聴が苦しいのではない
 ■妄想と錯誤帰属
 ■私はだれ
 ■プレパルス抑制
 ■統合失調症が「治る」とは
 ■3つの疾患との闘い
 ■併存疾患を多用すると本質を見失う
 ■If―家族の視点

C.抗精神病薬の臨床効果を最大にする方法を考える
 ■「抗精神病作用」とは難解なパズル
 ■抗精神病薬の開発は現在進行形である
 ■治療手段―介在する物質のコントロール
 ■糖尿病でのレガシー効果(legacy effect)
 ■統合失調症における臨界期仮説(critical period theory)
 ■臨床効果は3本の矢
 ■抗精神病薬の副作用
 ■コインの表と裏
 ■Pinesの共通点
 ■非定型抗精神病薬は寿命を縮めるのか?
 ■「至適最小用量」が最大の効果を生む
 ■至適最小用量の問題点
 ■非定型性とは
 ■部分アゴニストの薬理作用を理解する
 ■受容体と神経回路の違い
 ■ドパミン・システムの回復に必要なものは
 ■部分アゴニストはプロラクチンを低下させる
 ■低プロラクチン血症も副作用?
 ■部分アゴニストの功罪

D.ドパミンの役割
 ■ドパミンの低下は活気を損なう
 ■学習とドパミン
 ■ドパミンの意味論―サリエンス
 ■夢に関するHobsonの立方体モデルとドパミン
 ■ドパミンと境界線
 ■報酬系とドパミン
 ■直感とドパミン
 ■ドパミンD2受容体の過感受性―D2High受容体の存在
 ■ドパミンのすごさ

E.変動幅を考える
 ■量と質
 ■変動幅というドパミン遮断の「質」をコントロールする
 ■D2遮断の時間軸を考える
 ■症状のゆらぎ(1):効果の減弱―症状のブレを防ぐにはD2遮断の変動幅を小さくすることが大切
 ■症状のゆらぎ(2):副作用の増強―知覚変容
 ■知覚変容発作と夢
 ■ドパミンを必要以上に遮断すると
 ■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(1)
 ■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(2)
 ■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(3)
 ■窒息
 ■効果曲線の左方移動
 ■変動幅を小さくするには
 ■精神医療以外で変動幅が重要である現象(1):高血圧
 ■精神医療以外で変動幅が重要である現象(2):糖尿病
 ■精神医療以外で変動幅が重要である現象(3):パーキンソン病
 ■高脂血症の「量」と「質」
 ■脂質の二次元平面図(Two-Dimensional Map with nonHDL-C)
 ■抗精神病薬による体重増加での脂質代謝障害
 ■非肥満での脂質代謝障害
 ■代謝のABC
 ■変動幅(fluctuation),スパイク(spike),サージ(surge)が危険である理由
 ■「量」と「質」をコントロールする

F.臨床精神薬理学の限界
 ■臨床精神薬理学の問題点
 ■受容体での椅子取りゲームを考える
 ■アンタゴニストはアゴニストの対極にあるのではない
 ■ネット・アンタゴニスト
 ■神経系の機能は"創発"である
 ■コネクトーム
 ■蟻の行列
 ■創発にはニューロンのノイズが必要
 ■受容体にもノイズがあるはず
 ■機能があることが必ずしもいいのではない―失うことで進化する

G.非薬物療法の重要性
 ■薬物療法を万能にしてはいけない
 ■足音が肥料になる
 ■認知行動療法
 ■認知行動療法は分かりにくい?
 ■自分で実現してしまう予言
 ■スキーマは固定的ではいけない―5匹サルがいるとバナナにありつけないのはなぜ?
 ■認知行動療法と精神科薬物療法は近い
 ■心とは
 ■「溜め込む」ことの弊害
 ■抗精神病薬の本当の作用とは
 ■ココ,カラ主義

エピローグ
 ■「大量」は問題
 ■「大漁」も不幸かもしれない
 ■人間は強いようで弱い?
 ■弱くても前に進める

ISBN:9784880028323
出版社:新興医学出版社
判型:A5
ページ数:120ページ
定価:3000円(本体)
発行年月日:2012年04月
発売日:2012年03月15日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:MJ