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戦場の疫学

著:常石 敬一

紙版

内容紹介

 疫学の疫は「流行病」のことであり、疫学とは「流行病学」のことである。
 ペスト菌や炭疽菌といった感染力の強い病原体に侵された患者が発生すると、疫学の出番である。感染ルートと患者との接触者をいち早く調べあげ、犠牲者をなるだけ少なくする方策が立てられる。人的隔離はもちろんであるが、大規模な流行には交通の遮断・経済封鎖も考えねばならない。人命救助と社会の安全を目指す医師・研究者の活躍の場である。
 しかし、それが戦争やテロとなると、話は逆になる。相手にダメージを与える手段が武器となるのである。それもバイオテロなら、相手に気づかれず密かに遂行することも可能である。
 戦前、浜松での食中毒や満州におけるペストなどに、まじめに精密に取り組んでいた研究者たち……その一方で、その実績・経験をさらに推し進め、生物兵器の開発が「防疫研究」の名の下に大規模に画策される。
 本書は、「優秀な」研究者たちが総力戦の下で、人体実験を含め細菌兵器の開発・実践に突き進んでいくさまを、資料を丹念に読み込み科学史の立場から明らかにした。著者三十年近くの研究成果。

目次

序章 バイオテロの早期発見には疫学が必要

1章 浜松事件の概要
「細菌中毒」という診断確定まで
学校長から警察(県庁)へ
軍にも発生していた
ゲルトネル菌中毒と餡餅中毒
軍と民、両方での患者発生——情報開示

2章 浜松菌確定後
菌特定後の調査体制
被害の差をどう考えるか——民間人と軍
汚染食品の特定——民間と軍との摂取物の比較対照
汚染時期の特定
汚染経路——どのように汚染されたか
誰がどのようにして汚染したのか——犯人探し
紅白の大福餅を分けるもの——餡でもない、着色料でもない…
浮粉が原因
生物兵器への幻想
ゲルトネル菌その後

3章 新京ペストの概要
発生の確認———情報の確認
首都ペスト汚染に驚愕
新京防衛体制の確立———関東軍の登場
石井四郎の登場
関東軍のペスト対策——家屋焼却と捕鼠作戦

4章 満州のペスト
中国東北部(「満州国」)のペスト
ペスト発生の歴史——中国の研究者
ペストの概要——日本側資料
肺ペスト
ペストの疫学——日本人研究者
ペスト調査所の設置——ワクチンの効果と媒介動物

5章 新京出動
ペスト制圧作戦——731部隊の活動の実態(その意味)
封鎖された新京市
ネズミ作戦———捕獲と絶滅
ペスト指数——ネズミ→ノミ→ヒトの確認
疫学調査の終了——毒ガスの使用へ

疫学的観察
新京ペストの疫学的観察の結論

6章 新京ペスト謀略説
新京ペストの意味
人為的感染
新京ペスト謀略説の検討——中国人研究者
新京ペスト謀略説の検討——米国人研究者
Q報告が示す事実
流行の疫学的比較
数千万円で買い取られた「人体実験」データ

7章 ペストからノミの研究へ
新京ペストからノミの研究へ
楽観的見通しの破綻——人為的感染の困難

ノミの研究
三人の研究者
ノミの保存・運搬
ノミの大量生産
撒布されたノミの生命力
爆弾に詰められたノミ
ノミが生み出した学位論文

終章 もうひとつの疫学

著者略歴

著:常石 敬一
『消えた細菌戦部隊——関東軍第七三一部隊』の著者。神奈川大学教授

ISBN:9784875252269
出版社:海鳴社
判型:4-6
ページ数:228ページ
定価:1800円(本体)
発行年月日:2005年11月
発売日:2005年11月08日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MBN