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考古民俗叢書

歴史のなかの久高島

家・門中と祭祀世界

著:赤嶺 政信

紙版

内容紹介

" 第一部①久高島の家の父系継承は、過去においては絶対的条件ではない。家の継承における父系偏重イデオロギーの流入・受容については、島外部のユタの関与が認められた。②久高島の家は、かなり流動的で非永続的なものであった。かなりの数の家が家筋と屋敷との間の不整合を抱えていた。③地割制の下では、世襲地を有するノロ家と根人家などを除く一般の家には原則として家産が伴わず、家の超世代的存続を希求する観念が久高島の家の態様に強い影響力を発揮するに至らない。④久高島の家には、近年まで祖霊祭祀専用の祭壇がなかった。そして、久高島の祖霊(死霊)は総じてカミと対立的な関係にあり、位牌の普及や墓祭祀の奨励も含めた祖先祭祀をめぐる近世の王府の政策は、近年に至るまで久高島にはほとんど浸透していない。この特異な祖霊観念や祖先祭祀をめぐる状況は、久高島の家と門中の態様に一定の影響を及ぼしていることが想定できた。⑤久高島の門中の系譜的構成の一つの特徴として、家の系譜関係が明確に認識される世代深度が浅いこと、そして、一定の世代深度を超えると家の系譜関係の認識は曖昧となり、ユタの関与もあって、門中を構成する家間の集合離散や系譜関係の再編成が頻繁に生じていた。⑥久高島の門中は、機能的にはムトゥ神祭祀集団としての性格を有していた。⑦久高島の門中は、対島外的な側面では祖先祭祀集団としての性格をもつが、村落内では祖先祭祀集団としての機能をはたしていない。⑧門中は、村落祭祀において重要な位置を占める農耕儀礼などには全く関与しておらず、門中の祭祀と村落の祭祀との間に連続性が認められなかった。また、門中は村落祭祀組織の構成単位になっておらず、さらに、久高島の神役(祭祀)組織は、門中制(父系血縁原理)を基盤にしたものではなかった。⑨門中形成の基盤になったのは、在来の「ムトゥ神制」だと想定されたが、ムトゥ神制に門中イデオロギーが被覆したために生起していると思われる。⑩門中成立以前に、祖先中心的に組織化された何らかの出自集団が久高島に存在したとは想定し難い。第二部 ①久高島が国家的聖地であったことを背景に国王や聞得大君の行幸が行われたこと、また、久高島の男たちが王府の公用船の船頭や乗組員をつとめる公的システムが存在したことを考慮しないと、その祭祀内容が十分理解できない要素を含んでいる。具体的には以下の見解を提示した。②久高島独特の祭祀であるイザイホウは、聞得大君に仕える久高島の女性たちに対する国王による辞令交付式という性格を帯びている。③八月のヨーカビーの日の祭祀は、御嶽での祭祀を終えて帰路につく国王一行を村境で迎える儀式を下敷きにして成立した。④八月のテーラーガーミの祭祀は、国王一行が港から公邸である「御殿」へ移動する際に行われた道行きの儀式を下敷きにして成立した。⑤ナーリキ(名付け)は、「国王にご奉公する」という社会的脈絡の中で意味をもつ行事であった。⑥近代になってから外部からのインパクトによって門中化現象が生じた。⑦門中化現象は、従来の社会・文化形態に対して分解・分裂・動揺をきたす側面が顕著に認められた。

目次

"歴史のなかの久高島―家・門中と祭祀世界―  目 次
序論 本研究の課題と方法 11
第一章 本研究の課題と方法 13
   はじめに 13
一節 沖縄の家研究と本研究の課題 16
二節 門中化論と本研究の課題 19
三節 日本民俗学史における民俗と国家制度 25
四節 沖縄の民俗研究史における民俗と国家制度 30
1 柳田國男と折口信夫の沖縄研究 30
2 柳田・折口以降の沖縄の民俗研究 35
五節 王府の政策と祖先祭祀の成立 41
六節 久高島の民俗と国家制度 46
第二章 歴史のなかの久高島 51
   はじめに 51
一節 久高島の概況 51
二節 久高ウミンチュの歴史的展開 59
1 国王のご奉公をする久高ウミンチュ 59
2 イラブー漁をめぐって 63
3 海運業者としての久高ウミンチュ 69
4 久高ウミンチュの交易活動 71
5 奄美諸島以北での久高ウミンチュの活動 73
6 近代以降の久高ウミンチュの活動 75
三節 国家的聖地としての久高島 77

第一部 久高島の家・門中と祭祀世界 87
第一章 久高島の家と地割制 89
   はじめに 89
一節 家・屋敷と神霊 90
1 屋 敷 90
2 火の神 92
3 トゥパシリ 94
4 床の神 99
5 フルの神 100
6 仏 壇 100
二節 地割制 101
三節 家の動態 106
1 世帯の構成 106
2 家の継承―理念とその変化― 107
3 家筋と「位牌」祭祀  109
4 家の存続―家筋と屋敷― 115
5 「家号」からみた家の本支関係 120
四節 地割制社会における家 123
第二章 久高島の祖霊観念・祖先祭祀と家の態様 129
   はじめに 129
一節 葬送儀礼 129
二節 死の穢れと死霊のカミ化 136
三節 祖霊と他界観 142
四節 御嶽の神と祖霊 145
五節 家祭祀における祖霊とカミ 149
六節 祖霊(死霊)観念の検討 154
1 墓 所 155
2 グショームン 156
3 盆に来る霊 156
4 遺骨の移入をめぐって 158
5 生活への祖霊の関与 159
6 カミと対立する祖霊 161
七節 祖霊観念・祖先祭祀と家 162
第三章 久高島の門中の実態とその特徴 167
   はじめに 167
一節 門中の系譜的構成 169
二節 門中の祭祀儀礼と祖先祭祀 184
三節 門中と墓制 190
第四章 久高島の祭祀組織の特徴 195
   はじめに 195
一節 村落祭祀組織の概要 195
二節 祭祀組織の特徴 199
1 兄弟と姉妹―ユナイ神をめぐって― 199
2 男性神役の存在をめぐって 205
3 ノロとソールイガナシ 209
4 船大工の神の船頭神 215
三節 ウムリングァ 222
1 霊的職能者としてウムリングァ 222
2 ウムリングァの職能 225
 (1)―個人・家庭レベル― 225
 (2)―門中・村落レベル― 229
四節 イザイホウの中止と祭祀組織の崩壊過程 234

第五章 久高島の村落の祭祀世界と門中 239
   はじめに 239
一節 ムトゥ神と門中制 239
二節 ウムリングァと門中 245
三節 神役の継承 247
四節 供物の供出単位 254
五節 村落の祭祀世界と門中 260

第二部 久高島の祭祀と国家制度 271
第一章 イザイホウと国家制度 273
   はじめに 273
一節 イザイホウの概要 273
二節 先行研究の検討 278
1 「神女」就任儀礼としてのイザイホウ 278
2 貞操試験としての「七つ橋渡り」 280
3 神女の独身制とイザイホウ 285
4 七つ橋渡り 290
5 オナリ神とイザイホウ 294
三節 イザイホウと国家制度 295
1 先行研究 295
2 祭 場 296
3 首里を指向する神々 300
4 イザイホウと玉城のミントゥン家 302
5 男性の関与 304
6 国王による辞令交付式としてのイザイホウ 305
第二章 八月行事と国家制度 320
一節 八月行事の概要 320
二節 ヨーカビーとテーラーガーミ 322
三節 先行研究の検討 326
四節 テーラーガーミの考察 330
五節 ヨーカビーの考察 339
六節 八月行事と国家祭祀 354
第三章 ナーリキ(名付け)と国家制度 360
一節 名付けの儀礼過程 360
二節 先行研究の検討 364
三節 名付け儀礼と国家制度 366
第四章 門中化現象に見る久高島の社会史 376
   はじめに 376
一節 村落の始祖神話と玉城 376
1 久高島の始祖神話 376
2 久高島と∧ミントゥン∨の贈答儀礼 378
3 三月のウハチアギと六月のクンブバナ 380
4 フガピキャー 384
二節 村落の始祖神話と祭祀世界 386
三節 門中化と門中の祖先観念 391
四節 門中化現象に見る久高島の社会史 397

本研究のまとめと展望 403

参考文献 413
附 録 「久高嶋江為御祭礼被遊 行幸候時 御規式之事」の史料紹介 429
あとがき 443
索 引 454"

著者略歴

著:赤嶺 政信
"編者略歴赤嶺政信(あかみね まさのぶ)一九五四年 沖縄県島尻郡南風原町字喜屋武に生まれる筑波大学大学院修士課程地域研究科修了琉球大学法文学部教授。文学博士専門は民俗学〔主要著書・論文〕『シマの見る夢―おきなわ民俗学散歩―』(ボーダーインク、一九九八)、「キジムナーをめぐる若干の問題」(『史料編集室紀要』一九、沖縄県立図書館史料編集室編、一九九四)、「建築儀礼にみる人間と自然の交渉―沖縄・八重山諸島の事例から―」(松井健編『自然観の人類学』榕樹書林、二〇〇〇)、「家のフォークロア―沖縄・宮古の場合―」(筑波大学民俗学研究室編『心意と信仰の民俗』吉川弘文館、二〇〇一)"

ISBN:9784874491430
出版社:慶友社
判型:A5
ページ数:456ページ
定価:9500円(本体)
発行年月日:2014年02月
発売日:2014年02月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBCC6