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点と線の言語学

言語類型から見えた日本語の本質

著:影山 太郎

紙版

内容紹介

多くの面で対照的な英語と日本語の文法・意味・語彙・形態・表現法など言語構造の違いを、〈点(個)〉と〈線(つながり)〉という観点から整理しなおす。著者の過去50年近くの研究の集大成となる1冊。各章末尾に練習問題を附属。

■「はしがき」より
(前略)本書では筆者が過去50年近くにわたって続けてきた研究を〈点〉と〈線〉という観点から整理し直しました。データ面では以前の発表論文を再利用したところが多いのですが,〈点〉と〈線〉という切り口による全体像の整理と解明はまったく新しい着想です。この考えは,個人という〈点〉を重視する英語社会と,人と人とのつながりという〈線〉を尊重する日本語社会の特徴を浮き彫りにするだけでなく,多くの面で対照的な英語と日本語の文法・意味・語彙・形態・表現法など言語構造の違いを際立たせるのにもピッタリの概念です。
内容は専門的ですが,言語学と隣接分野を橋渡しする入門書として役立つように工夫をこらしました。各章の末尾には練習問題も付けています。

①専門的な研究から言語学初心者への橋渡し[特殊な用語を避ける]
②日本語研究と英語学・言語学との橋渡し[日本語を世界諸言語の中で捉える]
③海外の研究と国内の研究の橋渡し [国際的な文献を多く引用]
④昭和・平成の研究から令和以降の研究への橋渡し[過去の主要な成果の取りまとめ]
⑤言語の研究から文化の研究への橋渡し[少しだが言語文化にも触れる]

本書が橋渡しとなって様々な分野が将来的に連携し,言語と人間社会を包括した研究へとつながることを願っています。

目次

第1章 言語の中の〈点〉と〈線〉とは
—日英語の対照研究を超えて—
1.1 本書の目指すところ
1.2 言語類型論と日本語
1.2.1 語形に基づく言語類型
1.2.2 〈する〉対〈なる〉の日英語対照研究
1.3 言語類型のパラメータとしての〈点〉と〈線〉
1.3.1 言語の中の〈点〉と〈線〉
1.3.2 形の〈線〉と意味の〈線〉
1.4 本書の構成
理解を深めるために

第2章 言語文化と語用論の〈点〉と〈線〉
—個を重視する英語とつながりを尊ぶ日本語—
2.1 日英語の発想と表現法 
2.2 〈線的〉なつながりを尊重する日本語文化
2.3 語用論における〈点〉と〈線〉
2.3.1 対人関係と丁寧さ
2.3.2 代名詞,指示詞,「行く,来る」動詞
2.3.3 感謝と謝罪
2.4 〈点〉から〈線〉を作る日本語
2.4.1 右方向への〈線〉の伸長
2.4.2 左方向への〈線〉の伸長
2.4.3 〈線〉の切り取り
理解を深めるために

第3章 アスペクト意味論の〈点〉と〈線〉
—出来事の丸ごと把握と段階的把握—
3.1 事象の捉え方とアスペクト
3.1.1 事象の構造と時間情報
3.1.2 パーフェクティブな事象把握とインパーフェクティブな事象把握
3.2 動詞(句)のアスペクト
3.2.1 金田一(1950)とVendler (1967)
3.2.2 日英語の状態動詞と進行形
3.3 「燃やしたけれど燃えなかった」構文
3.4 移動の構文と英語の着点指向
3.4.1 移動動詞と経路の概念
3.4.2 移動様態動詞と着点
3.4.3 中間経路と着点を橋渡しする前置詞to
3.5 移動の構文と日本語の中間経路指向
3.5.1 目的語としての中間経路
3.5.2 中間経路と「東京まで寝ていた」構文
理解を深めるために

第4章 構文論における〈点〉と〈線〉
—結果重視の英語と過程重視の日本語—
4.1 事象の捉え方と構文
4.2 状態の変化と結果構文
4.2.1 英語の結果構文
4.2.2 日本語の結果構文
4.3 物の授受と二重目的語構文
4.3.1 英語の二重目的語構文
4.3.2 日本語の二重目的語構文
4.4 受身文における主語と動作主のつながり
4.4.1 英語の受身文と日本語の受身文
4.4.2 直接受身文と間接受身文
4.4.3 動作主マーカーとしての「に」の性質
4.4.4 状態変化の受身文
4.4.5 主語とニ格名詞句の〈線的〉なつながり
4.5 動詞の自他交替と主語の選択
4.5.1 事象認識のパターンと自他交替の形態
4.5.2 自動詞から他動詞への使役化
4.5.3 他動詞から自動詞へ(I)—日英語に共通の反使役化—
4.5.4 他動詞から自動詞へ(II)—日本語特有の脱使役化—
理解を深めるために

第5章 動詞から右方向への〈線〉の展開
—レキシコンと膠着的な述語連鎖の仕組み—
5.1 日本語レキシコンの基礎
5.1.1 語彙層—和語,漢語,西洋語,オノマトペ—
5.1.2 品詞—動名詞と形容名詞を中心に—
5.1.3 接辞,接語,附属語
5.2 レキシコンにおける述語形成の仕組み
5.2.1 連結型と非連結型の語形成
5.2.2 「事故る」型の動詞の特殊性
5.2.3 レキシコンで作られる動詞の性質
5.3 文構造における述語形成の仕組み
5.3.1 文構造で作用する述語要素
5.3.2 文構造における述語要素の順序
5.4 述語連鎖における活用と屈折の役割
理解を深めるために

第6章 出来事の展開を〈線〉につなげる補助動詞群
—動詞の文法化と意味の機能化—
6.1 動詞と補助動詞と助動詞
6.2 アジア諸言語の補助動詞
6.3 現在と未来をつなぐテ形接続の補助動詞
6.4 文法的アスペクトと統語的複合動詞
6.5 語彙的複合動詞とアスペクト補助動詞
6.5.1 主題関係の複合動詞
6.5.2 語彙的アスペクトの複合動詞
6.5.3 「論文を書き上げる」と「論文が書き上がる」
6.6 語彙的アスペクト複合動詞の歴史的な成り立ち
6.7 丁寧と侮蔑の助動詞
6.8 日本語の補助動詞群から一般理論へ
理解を深めるために

第7章 動詞から左方向への〈線〉の展開
—名詞+動詞型の複合動詞と軽動詞構文—
7.1 名詞+動詞型の複合動詞と形態的な〈線〉の形成
7.1.1 「名詞+時制付き動詞」型の複合動詞
7.1.2 複合動詞と名詞抱合
7.2 時制を持たない「名詞+動詞」型の複合動詞
7.2.1 形容詞的用法と副詞的用法の複合動詞
7.2.2 時制屈折のない複合述語
7.3 軽動詞構文と意味的な〈線〉の形成
7.3.1 動詞イディオムの意味と構造
7.3.2 「彼女には婚約者がある」型の軽動詞構文
7.3.3 「講演会に参加者がある」型の軽動詞構文
7.3.4 「北海道に出張をする」型の軽動詞構文
7.4 文法システムと複合動詞の形成レベル
7.4.1 複合動詞と軽動詞構文における名詞の省略
7.4.2 3つのレベルの複合述語形成
理解を深めるために

第8章 日本語の〈線的〉性質と叙述タイプ
—事象叙述,属性叙述,身体感覚叙述—
8.1 デキゴトとモノの言語学
8.1.1 事象叙述と属性叙述の意味と構文
8.1.2 2種類の属性—生得的属性と獲得的属性—
8.1.3 文法規則が破られるとき
8.2 「青い目をしている」型の軽動詞構文と属性叙述
8.2.1 動詞「する」に関する制限
8.2.2 目的語名詞に関する制限
8.2.3 不定の身体部位名詞と軽動詞構文
8.2.4 属性叙述構文における形と意味のミスマッチ
8.3 「動作主+他動詞」型の複合語と2種類の属性
8.3.1 「動作主+他動詞」型の複合語
8.3.2 生得的属性と獲得的属性の本質
8.3.3 生得的属性とカキ料理構文
8.4 オノマトペと身体感覚叙述
8.5 結びにかえて—人間と動物と人工知能—
理解を深めるために

引用文献
項目索引
言語索引
著者略歴

著者略歴

著:影山 太郎
影山太郎(かげやま・たろう)
国立国語研究所名誉教授,関西学院大学名誉教授

主要著書
1980 『日英比較 語彙の構造』(市河賞)松柏社
1993 『文法と語形成』(金田一京助博士記念賞)ひつじ書房
1996 『動詞意味論—言語と認知の接点—』くろしお出版
2002 『ケジメのない日本語』岩波書店
2021 Verb-Verb Complexes in Asian Languages(共編), Oxford University Press

ISBN:9784874248751
出版社:くろしお出版
判型:A5
ページ数:288ページ
定価:3400円(本体)
発行年月日:2021年11月
発売日:2021年11月04日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:CB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:CF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:CJ
国際分類コード【Thema(シーマ)】 4:2GJ