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一歩進んだ日本語教育概論

実践と研究のダイアローグ

監:西口 光一
他編著:神吉 宇一
他編著:嶋津 百代

紙版

内容紹介

日本語を学ぶことの先にある、社会づくりを視野に入れた日本語教育へ――
日本人と外国人双方にとってより良い社会を実現するために、日本語教育ができることは何か。

本書は教育実践と研究活動を切り離すのではなく、両者を往還することで、新しい日本語教育の創造を試みる。
実践と研究のあり方を考え、日本語教育についての基本的な視点や姿勢を理解することを目指す入門的概説書。
執筆者たちが自身の研究テーマを当該分野との出会いから紹介し、研究動向を含めてわかりやすく解説する。

第1部「理論編」では主として研究の視点から日本語教育にアプローチする。
第二言語習得研究におけるインタラクション、学習者オートノミー、対話とコミュニケーション、ナラティブとアイデンティティ、相互行為、日本語教育政策といった各トピックにおける研究に触れ、それぞれのトピックがどのように実践につながるかを論じる。

第2部「実践編」では専門家としての執筆者たちの視点から、実践への関わりや実践のありようについて紹介する。
海外における教育、難民・子供・就労者を含めた日本在住の外国人の生活に応じた学習支援、多文化共生のまちづくり、多文化間共修などの実践について触れ、それぞれの実践と研究的知見の関連や、実践と研究の往還のあり方について論じる。

目次

はじめに

第1部 理論編

第1章 日本語教育者の責任としての実践と研究のダイアローグ─教育実践と研究実践のポリフォニー(西口光一)
はじめに
1 課題としての研究と実践の乖離
2 研究と実践のダイアローグに向けて
3 21世紀初頭の日本語教育者
4 むすび

第2章 母語話者主義を超えた言語学習とは─VUCAの時代における批判的認識の重要性(義永美央子)
1 はじめに
2 第二言語習得研究におけるインタラクション研究
3 VUCAの時代における言語の学習・教育
4 「母語話者」「非母語話者」の再考
5 学習者オートノミーと教師の役割
6 学び方を学ぶ─学習者オートノミーを育む授業の実践
7 おわりに

第3章 日本語教育における言語観の再検討─自他関係に支えられる発話行為とナラティブ的現実(佐川祥予)
1 はじめに
2 ことばとは何か─LSヴィゴツキーとMMバフチン
3 物語るという行為
4 言語活動の実践現場

第4章 ナラティブとアイデンティティ─自分の世界を創造するために(嶋津百代)
1 ナラティブと私
2 ナラティブとアイデンティティ─私たちの価値観と世界観
3 ナラティブとアイデンティティを研究する
4 日常にナラティブを見つける
5 おわりに─私のことばの教育、ナラティブとともに

第5章 会話分析で何がわかるのか─「当たり前」を創り出す相互行為のリアリティ(森本郁代)
1 はじめに
2 会話分析とは何か
3 会話分析に対する疑問
4 日本語教育と会話分析の接点
5 おわりに

第6章 日本語教育政策研究は何をめざすのか─人文学としての日本語教育学と学際性(神吉宇一)
1 私と研究の関わり
2 日本語教育政策への注目
3 これまでの日本語教育における政策研究
4 日本語教育に対する人々の関心と政策的な目的
5 日本語教育政策研究の展望
6 おわりに

第2部 実践編

第7章 海外の日本語教育支援と教師派遣─教師が現地に飛び込む意味(西野藍)
1 はじめに
2 私の歩み
3 タイの日本語教育と日本からの支援
4 複線径路等至性アプローチ(TrajectoryEquifinalityApproach,TEA)
5 海外日本語教育にまつわる教育実践と研究実践の往還とは

第8章 海外の大学における活動ベースの日本語教育─未来を共創する日本語人材育成をめざして(羅曉勤)
1 VUCA時代における海外高等教育機関の日本語教育の可能性とは
2 実践研究について
3 実践結果
4 今後の課題

第9章 難民的背景をもつ人々との日本語活動─安心、安全に学び合える場をともにつくる(松尾慎)
1 はじめに
2 日本における難民の受け入れ
3 難民に対する公的な日本語教育の実情
4 難民的背景をもつ人々に対する日本語教育─VEC日本語活動
5 学び合いの場としての日本語教育の可能性
6 活動におけるコーディネーターの役割
7 事業の継続と拡大、組織の安定化
8 おわりに

第10章 在日外国人の人生・生活に注目した実践─日常生活の中に日本語教室を作る(林貴哉)
1 はじめに
2 エスノグラファーとしての言語学習者
3 実践を行った地域日本語教室の紹介
4 日本語教室のデザイン
5 地域日本語教室における相互文化的な交流
6 人生・生活に寄り添った研究と実践

第11章 外国にルーツをもつ子どもたちへの言語教育─すべての子どもが希望をもって学校に通える社会をめざして(高橋朋子)
1 はじめに
2 小学校でのフィールドワーク
3 外国ルーツの子どもたちをめぐる研究背景
4 おわりに

第12章 共に創る「職場の日本語Can-dostatements」─「コミュニケーションの失敗」のその先にある景色を求めて(大平幸、藤浦五月)
1 はじめに
2 私の大学院生時代、私の0地点─教室で学んだ日本語が使えない
3 私の院生時代─「やりたいことゼロ・教育経験ゼロ」からの手探り
4 実践─「職場の日本語Can-dostatements」の開発とワークショップ
5 ワークショップ─現場からコミュニケーションを創る試み
6 プロジェクトであることの意味─研究と実践のダイアローグ

第13章 多文化共生のまちづくり─国際交流協会、行政、研究の対話から(山野上隆史)
1 今の実践
2 研究との出会い
3 多様な外国人との出会い
4 実践の現場から施策の企画立案の現場へ
5 多様な実践をつないで進めるために
6 コロナ禍における外国人の生活などへの影響に関する調査研究を行って
7 今後に向けて

第14章 多文化間共修と日本語教育の往還─社会を創る協働的な学びのために(藤原智栄美)
1 はじめに
2 多言語・多文化社会としての日本社会が抱える課題─その改善に向かうために
3 多文化間共修が生み出す学びの特徴
4 多文化間共修の学びをデザインする─実践の事例と課題
5 日本語教育を多文化間共修に活かす─知見・実践がもたらす視点
6 空間を超えて拡がる共修─さらに深化する学びの機会の創出へ
7 おわりに

参考文献

索引

著者略歴

監:西口 光一
広島大学森戸国際高等教育学院特任教授、(公社)日本語教育学会会長。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了。博士(言語文化学)。
日本語教育の企画、リソース制作・システム開発、コース・コーディネーション、教員研修。
専門分野は、言語哲学と日本語教育学。
著書に『メルロ=ポンティの言語論のエッセンス―身体性の哲学、オートポイエーシス、対話原理―』(福村出版、2022年)などがある。

ISBN:9784872598018
出版社:大阪大学出版会
判型:A5
ページ数:278ページ
定価:2600円(本体)
発行年月日:2024年03月
発売日:2024年04月10日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:CB
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:CF
国際分類コード【Thema(シーマ)】 3:CJ
国際分類コード【Thema(シーマ)】 4:2GJ