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かかわりあいの人類学

他編著:栗本 英世
他編著:村橋 勲
他編著:伊東 未来

紙版

内容紹介

フィールドワークの極意と真髄とは何か。「他者」への理解、他者との「共生」に必要な手がかりを探る。――
 人類学の基本はフィールドワークである。それは、自己とは文化・社会的背景の異なる「他者」と長期間接することによって、他者を深く理解する「かかわりあい」の営みである。人類学にとって「かかわりあい」は、研究に必要な一次資料を集めるためのたんなる手段ではなく、他者との相互作用であり、その過程で自己も他者も変容していく。また、かかわりあいの道程はけっして平坦なものではなく、煩わしさ、誤解や葛藤に満ちている。研究対象との個人的なかかわりを回避して科学的な客観性を保とうとする他の人文学・社会科学と人類学は、この点で大きく異なっている。
 しかし、人類学にとって本質的に重要な営みであるにもかかわらず、「かかわりあい」はこれまで研究テーマとして主題化されることは少なかった。本書は、「かかわりあい」が持つ学問的な意義とは何かを正面から問う、日本語では最初の人類学の書籍である。日本を含む世界各地で実施したフィールドワークの過程で、他者とどうかかわったのか、それは自己と他者にとっていかなる経験であったのかを、具体的かつ批判的・自省的に考察し、フィールドワークにおける、そして人類学における学びや気づき、そして発見を伝授する。
 かかわりあいは、人類学だけに限定される課題ではない。すべての人間は、他者とのかかわりあいの中で日常生活を送っている。個人の孤立や、人間同士のつながりの希薄化が問題となっている一方で、多様な他者を包摂することが求められている現代社会において、自己が属する社会とは空間的にも心理的にも遠く離れた社会に自ら進んでおもむき、他者とのかかわりあいを求める人類学者のあり方は、普遍的な意味合いを持っている。
 人類学とはなにかを学ぶことができる教科書として、また、異文化理解・多様な他者との共生を考えるための実践的な入門書として最適の1冊。

目次

はじめに

序章 かかわりあいの人類学の射程他者とかかわること―人類学者の実践から学ぶ

第Ⅰ部かかわりあいの作法

第1章 社会人になるためのフィールドワーク―人類学の院生がベトナムの農村でかかわりあいの作法を学んだはなし

第2章 「かかわりあい」における酒飲み、「かかわりあい」としての酒飲み―中国の「酒の場」から人間関係を考える

第3章 理性と感情―ベトナムの漁村における韓国人人類学者の経験から

第4章 「かかわりあい」を生み出す食事―西ティモールの村と町でともに食べること

第Ⅱ部かかわることのディレンマと矛盾

第5章 しがらみの人類学

第6章 人脈を辿って「紛争空間」を渡り歩く―ミャンマー内戦に巻き込まれた人びとの越境的ネットワーク

第7章 戸惑いの帰趨―観光開発とのかかわりあいから考える

第8章 「文化」の収集における協働と葛藤―南スーダンと難民キャンプにおける現地の人びととのかかわりあい

第Ⅲ部かかわることから生成するもの

第9章 グローバル化する世界においてかかわりあうこと―日本への出稼ぎミャンマー人と私との生活経験の共有しそこない

第10章 何気ないかかわりあい―ハラレとヨハネスブルグにおけるフィールドワークの経験から

第11章 フィールドにおける相互期待の交錯―ソロモン諸島での共同生活から思考する人類学者と現地住民との「かかわりあい」

第12章 「体得しない」芸能研究者がフィールドでかかわったこと

第13章 違う存在になろうとすること―フランスのモン農民とのかかわりあいから

終章 不確かな世界で生きること

おわりに

著者略歴

他編著:栗本 英世
大阪大学大学院人間科学研究科教授。
奈良県生まれ。1980 年京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(文学)。国立民族学博物館助教授等を経て、2000 年大阪大学大学院人間科学研究科助教授。2003 年から同教授。社会人類学とアフリカ民族誌学を専門とし、南スーダンのパリ人と、エチオピア西部のアニュワ人を対象とする長期のフィールドワークに従事。個別社会に関する狭義の民族誌的調査研究を継続する一方で、内戦や民族紛争、難民、食料安全保障、人道援助、平和構築と戦後復興といった領域に研究テーマを拡大し、取り組んでいる。
他編著:村橋 勲
東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター特定研究員。主な研究分野はアフリカ地域研究、移民・難民研究。主なフィールドは東アフリカ。近年の研究テーマは、南スーダンにおける紛争、難民、人道支援、土着の政治宗教体系。主著に、『南スーダンの独立・内戦・難民――希望と絶望のあいだ』(昭和堂、2021 年)、「南スーダン難民の生計活動と対処戦略――ウガンダ、キリヤドンゴ難民居住地の事例」(『難民研究ジャーナル』6 号、2016 年、163-179 頁)。
他編著:伊東 未来
西南学院大学国際文化学部講師。主な専門は文化人類学・西アフリカ研究。主要業績として、「トンブクトゥにおける写本の救出活動」(『国際文化論集』36 巻1 号、2021 年、87-104 頁)、“Changing Malian Women’ s Economic Activities :Vending in the Market, Travelling the World” (Japanese Review of CulturalAnthropology 18(2)、2018 年、pp. 63-78)、『千年の古都ジェンネ―多民族が暮らす西アフリカの街』(昭和堂、2016 年)など。

ISBN:9784872597455
出版社:大阪大学出版会
判型:A5
ページ数:312ページ
価格:2500円(本体)
発行年月日:2022年03月
発売日:2022年04月09日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBCC