出版社を探す

森のロマンス

著:アン・ラドクリフ
訳:三馬志伸

紙版

内容紹介

都パリを逐電したラ・モット夫妻は、荒野の一軒家で保護した美しき娘アドリーヌとともに、鬱蒼たる森の僧院に身を隠す。彼らを待ち受けるのは恐るべき悪謀――

今なお世界中で読み継がれる名著『ユドルフォ城の怪奇』に先駆けて執筆され、著者の出世作となったゴシック小説の傑作。刊行から二三二年を経て本邦初訳!

 袖口にスリットが入ったグレーのキャムレットの衣装は、彼女の容姿を引き立てこそすれ、飾り立てるものではなかった。開いた胸元には乱れた髪が覆いかぶさり、慌てて纏った軽いベールは、混乱していたためか、上げられたままになっていた。(…)この荒涼とした家、そしてそこに巣くう粗暴な輩たちとはあまりに対照的な、優雅で洗練されたその様相を見るにつけ、彼は、これは実人生での出来事というよりは、想像力が生み出したロマンスなのではないか、という気がしてくるのであった。彼は何とか彼女を慰めようと努めたが、その誠意あふれる同情心に疑いを差し挟む余地はなかった。娘の恐怖心は徐々に収まってゆき、悲しみと同時に感謝の念も湧き上がってきた。
「ああ、ありがたや……」彼女は言った、「わたしをお救いくださるために、天が貴方様を遣わしてくださったのですね……どうか貴方様に神の報いがございますよう……わたしには貴方様以外、この世に一人の味方もないのです……」(本書より)

著者略歴

著:アン・ラドクリフ
(Ann Radcliffe)1764年7月9日、ウィリアム・ウォードとアン・オーツ・ウォードの一人娘としてロンドンに生まれる。陶芸家ジョサイア・ウェッジウッドのパートナーとして有名なトマス・ベントリーに預けられて少女期を過ごす。ゴシック建築やピクチャレスクへの関心、詩人ジェイムズ・トムソンへの傾倒は、この母方の義理の叔父からの影響と考えられる。1787年、急進的な傾向で知られる「ガゼティア」紙の記者として筆を揮っていたウィリアム・ラドクリフと結婚。1789年、第一作となる『アスリン城とダンベイン城』を匿名で出版。翌1790年、第二作の『シチリアのロマンス』を同じく匿名で出版。1791年の第三作『森のロマンス』が好評を博す(本書の第二版から著者名が「アン・ラドクリフ」名義となる)。1794年、『ユドルフォ城の怪奇』を発表。この四巻本の長大な恐怖小説は、発売と同時に大評判となった。1796年、『イタリア人』を発表。前作に劣らぬ評価を得るが、本書が生前に発表された最後の小説となる。前年に罹患した胸部の感染症が悪化し、1823年2月7日に逝去。享年58。
訳:三馬志伸
(みんま・しのぶ)1959年千葉県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学(文学修士)。英文学者、翻訳家。著書に、Jane Austen In and Out of Context (慶應義塾大学出版会、2012)、編訳書に、ウィルキー・コリンズ、ジョージ・エリオット、メアリ・エリザベス・ブラッドン、マーガレット・オリファント『ヴィクトリア朝怪異譚』(作品社、2018)、訳書に、アン・ラドクリフ『ユドルフォ城の怪奇(上・下)』(作品社、2021)、メアリ・エリザベス・ブラッドン『レイディ・オードリーの秘密』(近代文藝社、2014)などがある。

ISBN:9784867930045
出版社:作品社
判型:4-6
定価:3600円(本体)
発行年月日:2023年11月
発売日:2023年11月07日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB