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生命保険の社会学

日本とアメリカ合衆国における生命と金銭

著:久木元 真吾

紙版

内容紹介

「天国に遅れてやってきた妻が、いきなり私にビンタした。」

これは2011年3月に発表された、公募広告賞の「第48回宣伝会議賞」でグランプリに選ばれた広告コピーである。ある生命保険会社の課題に対して作られたコピーであるが、亡くなって天国に先に行っていた夫(私)のもとに、遅れて亡くなりやってきた妻が、再会するや否やビンタしたということである。
この夫は生命保険に入らずに亡くなってしまい、そのため遺された妻もしくは妻子がその後大変な思いをしたことがうかがえる。その苦労の大きさゆえに、保険加入を怠った夫と天国で再会できても、喜ぶのではなくいきなりビンタするという行動に出た―というわけである。

このように、生命保険には残された者への生活保障という一面があるが、一方で命に値段を付けるという一面も持っている。
保険は、もともと大航海時代の損害保険からはじまった歴史的経緯があり「損害」は物の価値によって決まるが、生命保険は「命」に値段を付けるという意味から倫理的な問題をはらんでいる。従って本書では、生命保険が「生命を扱うしくみ」であるという点にこだわって論じた。まず、アメリカ合衆国における生命保険の発展過程から社会的な意味づけを明らかにし、その後、日本に輸入された生命保険がアメリカとは違う経緯をたどりどのように受け止められ普及してきたかを明らかにしたうえで、生命保険の社会的な位置づけや役割を考察する。

目次

はじめに

第1章 生命保険という問い
 1 .生命保険への社会的関心
 2 .説明の対象としての生命保険
 3 .ずれていく生命保険
 4 .定義から意味作用へ
 5 .対象と素材
 6 .分析の視角――操作としての生命保険
第2章 アメリカ合衆国における生命保険 17
 1 .生命保険の「競売」
 2 .アメリカ合衆国における生命保険の展開
 3 .「死と金銭の交換」という不安
 4 .隠蔽のロジック
 5 .「不安」の核心―欲望への恐怖
 6 .メルクマールとしての被保険利益
 7 .露呈―生命の金銭的価値
 8 .隠蔽されているものと露呈しているもののずれ
第3章 日本における生命保険
 1 .不安の不在
 2 .日本における生命保険の展開
 3 .「保険の本質」という問い
 4 .保険の「本質」としての「相互扶助」
 5 .「対象の正確な記述」との距離
 6 .相互扶助論の規定力
第4章 生命保険買い取り業と生前給付型生命保険
 1 .生命保険の買い取り業の出現―アメリカ合衆国
 2 .古典的な生命保険像の二つの条件
 3 .末期疾病型の生前給付型生命保険の登場―アメリカ合衆国
 4 .末期疾病型の生前給付型生命保険の導入―日本
 5 .生命保険の買い取り業をめぐる展開―日本
 6 .ライフセトルメントの登場―生命保険と社会の関係
第5章 生命保険と社会

文  献
おわりに

著者略歴

著:久木元 真吾
久木元 真吾(くきもと しんご)

東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位修得退学。公益財団法人家計経済研究所
次席研究員、慶應義塾大学経済学部特任准教授などを経て、現在帝京大学文学部社会
学科教授。
専門は社会学(比較社会学、現代社会論)。
【主な著書】
『グローバル人材とは誰か――若者の海外経験の意味を問う』(共著,青弓社,2016年)
『大学生のためのキャリアデザイン入門』(共著,有斐閣,2014年)
『いのちとライフコースの社会学』(共著,弘文堂,2011年)

ISBN:9784860155841
出版社:みらい
判型:A5
ページ数:172ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2022年08月
発売日:2022年07月25日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:KFFN
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:KCVQ