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低線量内部被曝の脅威

原子炉周辺の健康被害と疫学的立証の記録

著:ジェイ・マーティン・グールド
訳:肥田 舜太郎
訳:斎藤 紀

紙版

内容紹介

本書はアメリカ合衆国の核施設がもたらす健康被害について、大気圏核実験時代(1945年~63年)に続く核被害を参照としながら、徹底した疫学調査をもとに、簡明な図表と明快な論調で解説する。
とりわけ、アメリカ全土3,053の郡における人口および死亡数を追跡し、年齢グループを18に分けた上でのグループ別年齢調整死亡率を5年を1期間とした3期間を通じて割り出すという、膨大な基礎作業を通じて、核施設周辺での癌死亡率を分析していく姿勢は圧巻である。
また大気圏核実験、チェルノブイリ核事故が、地球規模で影響を与えていったことについて、様ざまな統計データをもとに実証。放射能汚染が地球全体の問題となることについて象徴的に示し、高リスク地域から低リスク地域への移住が問題の解決にはならないことを指摘する。
レイチェル・カーソンの予見を裏付けた、手ごたえのある警世の書。

目次

はじめに
概観と要約

第一章 序論:放射性降下物と郡の乳癌発生率
1.原子炉との近接度
2.郡の癌死亡率の情報源
3.放射性降下物の影響
4.低線量放射線の健康に対する影響の暴露
5.郡の癌死亡率の年齢調整
6.真実の暴露におけるパソコンの重要性

第二章 放射性降下物と免疫異常
1.1935年以来の乳癌発生率の変化
2.乳癌と放射線の結びつきはなぜ、隠されてきたのか
3.放射性降下物と新生児
4.放射性降下物と低出生体重児
5.新生児の健康の最近の悪化
6.低線量放射線への黒人新生児のより高い感受性
7.新生児の生育力の低下に関するその他の測定
8.新生児の甲状腺機能低下症
9.核実験が行なわれた期間のミルク中の放射能測定
10.無意味なミルク中の放射線マイナス値の測定
11.老朽化した原子炉の腐蝕
12.ソ連における核の腐蝕

第三章 低出生体重児とベビーブーム世代の免疫不全
1.1963~1980年に見られた核実験放射性降下物による晩発性の影響
2.1960~1990年に見られた放射性降下物による晩発性の影響
3.1980年以降に見られた放射性降下物による晩発性の影響
4.「 ベビーブーム」世代の免疫不全と生産性

第四章 乳癌死亡率と原子炉からの放出物
1.「原子炉との近接度」をどう定義するか
2.オークリッジ周辺の乳癌死亡率
3.年齢調整の意味
4.「統計学的に有意」の概念
5.オークリッジ核施設がもたらす人間の悲劇についての論文

第五章 1950年以後の乳癌死亡率の地域差
1.乳癌死亡率理解の鍵となる地域差
2.発生率は死亡率以上の増加
3.電離放射線に対する癌の対数的な放射線被曝線量反応関係
4.農村地域と都市における発癌の傾向の収斂

第六章 国立癌研究所はなぜ、原子炉の周辺での発癌リスクの増大を見逃したのか
1.国立癌研究所はどのように被曝した郡を定義したか
2.集計された死亡率に見られる有意な増加
3.対照群としての郡の奇妙な選定方法

第七章 原子炉周辺における発癌リスク増大の本質
1.老朽化したDOE原子炉周辺が最も危険
2.原子炉施設から50 マイル以内の「核施設のある」郡
3.乳癌死亡率の傾向と降雨
4.農村と都市における癌発生率の収斂について

第八章 放射性降下物と乳癌
1.大都市におけるミルクの消費
2.裕福な都市地域における過去のX線の過剰使用
3.1945年における放射線の傷害性
4.乳癌とロスアラモス
5.1945 年におけるアラモゴードでのトリニティ原子爆弾の爆発
6.ニューヨーク大都市圏における乳癌死亡率
7.ウエストチェスターにおける乳癌
8.ブルックヘブンとサフォーク郡の乳癌
9.放射性廃棄物による魚への危険
10.公衆向けテレビを使った防衛戦
11.商業テレビを使ったブルックヘブンの内部告発
12.ブルックヘブンに対する集団訴訟の要求
13.ブルックヘブン国立研究所の二枚舌
14.乳癌とコネチカットの原子炉
15.最高の乳癌死亡率を持つ都会型の郡
16.五大湖の近くにおける乳癌の高発生率
17.ミネソタの原子炉の近くでの乳癌死亡率
18.原子炉から100マイル以内にある「核施設のある」郡
19.「核施設のある」郡と「核施設のない」郡の間の死亡率比

第九章 もう遅過ぎるだろうか
1.生物種の消滅
2.なお存在する未汚染地域
3.政府をどう扱うか
4.時間との競争

付 録
付録A 原子炉周辺の乳癌死亡率の計算
付録B 60 の原子炉施設と周辺の郡のコンピュータ処理による地図
「核施設のある」地域と「核施設のない」地域
五大湖諸州
モンティセロ/プレイリー島原発
付録C 原子力発電所から放出される放射性物質
1 ヨウ素131 と放射性粒子状物質の大気中への放出
2 ガス状の核分裂生成物と放射化生成物の大気中への放出
3 液状の核分裂生成物と放射化生成物の廃液中への放出
ピークスキル周辺におけるインディアンポイント原発の放出放射能の健康への影響
付録D 国立癌研究所はどのように原子炉周辺における乳癌リスクの増加を確認したか

参考文献
核時代の構造ー「内部の敵」改訂訳に際して
はじめに
1.核時代
2.疫学調査
3.原子力産業
4.アメリカの悲劇
5.原爆被害と低線量被曝をめぐる問題
6.トリニティ核実験
7.さいごに
訳者あとがき
索引

著者略歴

著:ジェイ・マーティン・グールド
1915年生まれ。コロンビア大学で経済統計学博士号取得。1955年、最高裁判決にまで発展した有名なブラウンシュー事件で専門家証人として司法省に雇われ、統計学者としての地位を確立。以後、30年以上米国のオクシデンタル石油、グレイハウンド、エマーソンエレクトリックなど、主だった反トラスト訴訟の専門家として活躍。70歳近くになってビジネスを離れた後は、自らの資金も投じ、環境汚染が健康に及ぼす影響の研究活動をライフワークとする。その後、スターングラス博士の勧めにより、原子炉からの放射線物質と癌の関係の疫学調査を行ない、1990年、スターングラス博士と共に非営利組織「放射能と公衆衛生プロジェクト(RPHP)」を設立。2005年死去。
訳:肥田 舜太郎
1917年広島市生まれ、日本大学専門部医学科卒、陸軍軍医学校卒、医師。広島で被爆。全日本民医連顧問。医療生協さいたま名誉理事長。著書に『広島の消えた日 被爆軍医の証言』(日中出版、1982年、増補新版は影書房、2010年)、『ヒロシマ・ナガサキを世界へ』(あけび書房、1991年)、『ヒロシマを生きのびて 被爆医師の戦後史』(あけび書房、2004年)、『内部被曝の脅威』(鎌仲ひとみとの共著、ちくま新書、2005年)がある。訳書は『死にすぎた赤ん坊 低レベル放射線の恐怖』(スターングラス著、時事通信社、1978年)など。
訳:斎藤 紀
947年生まれ、福島県立医科大学卒、広島大学原爆放射能医学研究所内科(臨床血液学)、広島大学保健管理センター(助手)、広島中央保健生協福島生協病院、同・名誉院長、現在、福島医療生協わたり病院(福島市)勤務、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部会員。著書に『広島・長崎原爆被害の実相』(共著、新日本出版、1999年)がある。訳書に『死にいたる虚構――国家による低線量放射線の隠蔽』(グールドほか著、共訳、双信舎、1994年、自費出版、新版PKO法「雑則」を広める会、2008年、自費出版)がある。

ISBN:9784846111052
出版社:緑風出版
判型:4-6
ページ数:388ページ
定価:5200円(本体)
発行年月日:2011年03月
発売日:2011年03月31日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:VFD
国際分類コード【Thema(シーマ)】 2:MJ