日本古代の記憶と典籍
著:長谷部 将司
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内容紹介
史書・系譜・説話・詩歌集など多様な典籍を検討し、その編纂者と受容者との間で共有・更新される「情報」と「記憶」に注目し、氏族秩序の形成過程に迫る意欲作
1)多種多様な典籍を検証
日本古代の史書・系譜・説話・詩歌集などさまざまな典籍を検討し、作成者がどのような意図で編纂したのか、受容者はどのような認識で受け取ったのかなどの観点から、双方における「記憶」の形成や更新の実態、両者の情報格差をあざやかに明示する。
2)最古の史書を読む意味
『日本書紀』を読む儀式「日本紀講書」に注目し、受容者の『日本書紀』への接触という観点から、『日本書紀』の「万世一系」規範が奈良時代に徹底しえなかった点を指摘する。また弘仁・承和年間など皇統の危機に「日本紀講書」を実行した点に、『日本書紀』を持ち出すことで記憶を更新する政治的意味を読み取る。
3)氏族系譜の更新と集積
平安初期成立の『新撰姓氏録』は地方豪族の系譜を多く収録した『古事記』を引き継ぐ事業だったが、王権の方針転換により挫折したと捉える。また同時期の各種「氏文」を私撰史書と位置づけつつ、受容者としての王権がそれらを王権強化の手段として利用した点に系譜の持つ双方向性を指摘する。
4)漢詩集から読み解く仕奉
平安初期成立の三編の勅撰漢詩集『凌雲集』『文華秀麗集』『経国集』や、菅原道真による『菅家文草』を読み解き、漢詩の応答が君臣間の新たな仕奉行為であり、勅撰漢詩集への載録などによる記憶化が王権に対する諸氏族の仕奉の確認行為となることを明らかにする。
5)王権と共に変容する神々
九州の一地方神だった八幡神はいかにして中央に進出し応神天皇となったのか、桓武天皇の弟で怨霊となった早良親王はなぜ「崇道天皇」を追贈されたのか、菅原道真の怨霊はいかにして天神として受容されたのか、これら新興の神々の分析より、王権から与えられた地位により神々が秩序化される具体相を明らかにする。
目次
序 章 研究史の整理と課題の提示
第一章 『日本書紀』受容の諸相―「正史」確立への試行錯誤―
第一節 八世紀における『日本書紀』の受容
補 論 『日本霊異記』に見る官撰史書の論理との差異
第二節 九世紀における『日本書紀』の受容
〔コラム〕「日本紀の御局」と「日本紀の家」―「中世日本紀」への道程―
第二章 『新撰姓氏録』の編纂―氏族秩序の転換点―
第一節 『新撰姓氏録』序文の氏姓観
補 論 「氏族志」編纂事業と功臣家伝
第二節 『新撰姓氏録』による氏族秩序の射程
〔コラム〕『氏族志』・『姓氏録』・『大唐姓族系録』―唐における「氏族志」編纂―
第三章 言説空間の拡大―重層化する氏族秩序―
第一節 『高橋氏文』に見る私撰史書の意義
第二節 勅撰漢詩集による氏族秩序の形成
第三節 『菅家文草』に見る私家集の歴史性
〔コラム〕『医心方』と『占事略決』―家職を担保する典籍―
第四章 変容する神と天皇―「天皇」の位相の変化―
第一節 八幡大菩薩成立の前提
第二節 「崇道天皇」の成立とその展開
補 論 吉備津彦命神の転身
第三節 臣下としての菅公・天満天神
〔コラム〕豊国大明神と東照大権現―神として祀られる人の変遷―
終 章 日本古代の氏族秩序と天皇観
索引(人名・氏族名・神仏名/史料名/事項/研究者名)