民法改正案の評価
債権関係法案の問題点と解決策
著:加賀山 茂
内容紹介
好評の『民法(債権関係)改正法案の〔現・新〕条文対照表<条文番号整理案付>』(信山社、2015年7月30日刊行)の姉妹編として,改正案の内容について,改正作業に関与しなかった第三者の立場から検討。改正法案の全体像とその体系性を解説し、また、修正私案(加賀山案)、【研究課題】(条文の修正法レッスン)も掲載。今後の更なる改正・立法議論のためにも有用の書。
目次
はしがき
参照文献略語一覧
表 一覧
第1部 改正案を第三者評価する
◆ Ⅰ 民法(債権関係)改正案の5つのテーマに対する評価
◇1 時効期間の統一――用語法の混乱と無視された家計管理者の立場
◇A 時効の中断・停止から,時効の更新・時効の完成猶予への用語の変更――混乱を招く不正確な用語法の使用
◇B 短期消滅時効の廃止――負担が増加する家計管理
◇2 法定利率の変動性――ゼロ金利が続いても下がることがない法定利率
◇A 法定利率の5パーセントから3パーセントへの変更
◇B 法定利率は,ゼロ金利を反映して下降変動するか
◇3 保証人の保護――後退した「連帯」保証人保護の理念
◇A 保証人の現状
◇B 連帯保証人の保護に反する連帯債務に関する改正案(現行法437条,439条の削除)
◇4 約款規定の新設――公正でない「社会通念」基準
◇A 条文の適用・不適用に関する不明確な判断基準
◇B 不明確な約款無効の判断基準
◇5 履行不能のドグマの拡大と瑕疵担保責任(現行法570条)の削除――解釈で済む問題についての無用な削除と有害な規定の新設
◇A 「原始的不能」を規定している2つの条文(410条,565条)の修正と削除
◇B 履行不能というドグマの拡大と瑕疵担保責任の削除
◇C 比喩的な例によって明らかとなる改正案の致命的な欠陥――法制審議会は,諮問に適合する要綱案の作成という請負人としての担保責任を果たしたのか
◆ Ⅱ 改正案の社会・経済の変化への対応に対する評価――少子・高齢化,情報化,国際化に対する不適応
◇1 少子・高齢化への対応の失敗と解決策
◇A 障害者権利条約に違反するおそれがある成年後見制度の見直しの放置
◇B 後見人,保佐人等の代理人による利益相反行為の放任(改正案108条2項)
◇2 情報化への対応の失敗と解決策
◇A 変化する通貨への対応の失敗
◇B パケット通信におけるタイムラグの対応への失敗
◇3 国際化への対応の失敗と解決策――弁済提供と受領遅滞の関係に関する対応の失敗
◆ Ⅲ その他の問題に関する改正案の矛盾・不具合とその解決策
◇1 一つの条文の中に潜む矛盾(改正案93条,415条)とその解決策
◇A 改正案93条における矛盾とその解決策――立証責任の分配の不整合
◇B 改正案415条における矛盾とその解決策――履行不能の特別扱いは無意味
◇2 条文間で生じている体系上の矛盾(改正案3条の2,95条)とその解決策――破壊された意思表示理論
◇3 「目的」と「目的物」の混同の放置とその解決策 ――物の定義に無体物を含める
◇4 実体法の論理のわかりやすさと立証責任の分配法理との相克(改正案410条)――場合を尽くした上で,立証責任を分配する
◆ Ⅳ 結論――改正案の最終評価=諮問不適合
◇1 民法改正の諮問と改正案における改正理由との対比――民法改正の出発点に立ち返る
◇A 諮問第88号(2009)と改正理由(2015)との対比
◇B 改正理由における「国民一般にわかりやすくする」点の欠落
◇C わかりやすくするとは,どうすることなのか――改正案は,本当にわかりやすくなったのか
◇D 法曹実務家にとってわかりやすくすることの重要性――裁判官に対する明確な判断基準の供与
◇E 改正理由における「社会・経済の変化への対応」の不十分さ――改正理由に関する審議の欠落
◇2 改正案は,なぜ諮問に答えられなかったのか
◆ Ⅴ 今後の改正の課題
◇1 諮問自体の改善
◇2 審議会の委員の総入れ替えによる2段階の審議方式の採用
◇3 変化への対応から,地球環境を考慮した社会・経済の変化を制御する試みへ
第2部 改正案への具体的修正私案
◆ Ⅵ 民法(債権関係)改正案の修正私案
◇1 条文番号を変更する必要がない程度の改正の規模
◇2 有害・無益な条文番号の変更とその弊害
◇3 条文番号を変更せず,現行法との連続を維持することができる具体的方法
◇4 条文番号だけを整理する修正私案(59箇条)
◇A 民法総則における恣意的で混乱を招く条文番号の修正私案
◇B 債権総論における恣意的で混乱を招く条文番号の修正私案
◇C 契約総論における恣意的で混乱を招く条文番号の修正私案
◇D 契約各論における恣意的で混乱を招く条文番号の修正私案
◇5 まったく手がつけられていない成年後見制度に関する修正私案
第3部 民法改正を能動的に考えるための5つの課題
◆ Ⅶ 【研究課題】民法を体系的に理解することをめざす人々のために
◇1 困難な状況を乗り越え比較研究を実りあるものにするためのレポートの作成の効用――課題に取り掛かる前に
◇A 民法(債権関係)改正による学習者の負担の増加
◇B 改正による民法の中核理論である意思表示理論の破壊
◇C 心裡留保,通謀虚偽表示を無効のまま放置する中途半端な改正
◇D 意思能力を欠く場合の意思表示と制限能力者の意思表示との関係の不透明
◇E 比較研究の絶好のチャンス――発想の転換
◇F チャンスをものにするための努力
◇2 研究課題
〈課題1〉改正案3条の2(意思能力を欠く時にした意思表示の効力)の修正案の作成
〈課題2〉改正案93条(心裡留保)の修正案の作成
〈課題3〉改正案410条(不能による選択権の特定)の修正案の作成
〈課題4〉改正案420条(賠償額の予定)の修正案の作成
〈課題5〉改正案564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)の修正案の作成
あとがき――民法学者の責務とは何か
条文索引
ISBN:9784797270464
。出版社:信山社
。判型:A5変
。ページ数:160ページ
。定価:1800円(本体)
。発行年月日:2015年11月
。発売日:2015年12月04日
。国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:LNB。