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ソビエト・ミルク

ラトヴィア母娘の記憶

著:Nora IKSTENA
訳:黒沢 歩

紙版

内容紹介

 ラトヴィアは、医師全体に占める女医の比率(7割超)と教育機関における女性管理職の比率(8割超)で、OECD(経済協力開発機構)加盟国中でもトップの座にある。この物語の核をなす母親もまた、産婦人科医として生命の誕生に携わる現場に身をおいている。
 ソビエト体制下の閉塞感に追い詰められていく母親は、出産直後の娘に乳を与えなかった。その傍らで祖父母は孫娘を養育しながら、密かに語り聞かせる――「かつてラトヴィアという国があったのだよ」
 「母」と「娘」という、名前の与えられていない二人の語り手は、交互にリレーをしながら繊細にたゆたう関係を紡ぎあい、それぞれの葛藤をひもといていく。そこにわずかに登場する男たちの存在感は、断片的なものにすぎない。そもそも生命と記憶は、母から娘へと継承されるものだというかのように。
 物語にインパクトを与えるのが、キリストを思わせるイェセと正教会の聖人セラフィムにちなんだ名をもつ人物であり、いわばオーウェル『一九八四年』のウィンストン・スミスである。ソビエト時代の人々はまた、アメリカのカウンターカルチャー、ブレジネフの死、チェルノブイリの原発事故、そしてベルリンの壁崩壊という、20世紀後半をガタガタと揺るがした出来事を肌身で切実に感じとっていた。物語は極めて個人的な母娘の関係を軸としながら、「人生は生まれた時代と場所で決まる」という普遍性を兼ね備え、同時にラトヴィアの森や暮らしの匂いも漂わせる。
 本作は、“We, Latvia, 20th century”をテーマに現代作家たちが取りかかった小説シリーズの一作である。2015年に出版されて本国で記録的なベストセラーとなった。著者は本作を、女医であった実の母に捧げるものであるとともに、もし自分が出産を経験していたならばこれを書くことはなかっただろうとも述べている。原題M?tes piensの直訳は、すばり『母乳』。(くろさわ・あゆみ 翻訳家)

著者略歴

訳:黒沢 歩
翻訳家。モスクワ留学を経て、1993年、リーガに日本語教師として渡った後、1997年、ラトヴィア大学にてラトヴィア文学修士号取得。ラトヴィア語通訳および翻訳を始める。2000年に開設された在ラトヴィア日本大使館勤務を経て、2006年よりラトヴィア大学現代言語学部日本語講師を務める。2009年、帰国。著書に『木漏れ日のラトヴィア』(新評論、2004)、『ラトヴィアの蒼い風』(新評論、2007)、翻訳書に『ダンスシューズで雪のシベリアへ』(新評論、2014)がある。

ISBN:9784794811332
出版社:新評論
判型:4-6
ページ数:274ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2019年09月
発売日:2019年09月17日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:FB