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スーパーマンの誕生

KKK・自警主義・優生学

著:遠藤 徹

紙版

内容紹介

オバマもトランプも自分をなぞらえたほど〈アメリカ的なるもの〉を代表するスーパーマン。しかしその起源をさかのぼっていくと、隠蔽された三つの忌まわしい源泉に突き当たる。
 一つめは〈KKK〉。隠れた場所で胸にアイコンが刻まれた衣裳に着替え、ケープをなびかせて登場する正体不明の男というスタイルは、スーパーマンのものであると同時にKKKのものだ。
 二つめは〈自警主義〉。それぞれの共同体にとっての正義を遂行するため、国家の法律を無視して「正義のための暴力」をふるう自警主義こそ、スーパーマンの立場であるとともに、アメリカのフロンティアの歴史を推進したものだった。
 三つめは〈優生主義〉。「科学」の力で理想的な超人を造り出そうとしたアメリカ生まれの優生主義は、ヒトラーにも影響を与えた。
 こうした暗い起源をもつスーパーマンは、しかし、KKKから意匠を借りながらその内実を逆転し、自警から出て自警主義の悪漢と戦い、優生学から出ながら優生学の極端な推進者であったナチスと戦うヒーローとして、生まれ変わった。
 なぜそんな大逆転が可能だったのか? それを解くカギは「適合性」という考え方にある。
 適合性という概念は、優生学運動では、遺伝要因による環境への適合/不適合の不変の尺度とされた。つまり純血な白人男性こそ人間の進化に最も適合した存在だ、というわけである。
 このエリート主義的な文脈に異を唱えた雑誌があった。その雑誌『フィジカル・カルチャー』は、労働者層を読者層として想定し、遺伝的要因とは関係なく、トレーニングと食事制限―つまりフィットネス!―を通して身体を改造しすることで、誰でも社会に「適合(フィット)」できる存在になれる、と主張した。そして『スーパーマン』の二人の原作者ジェリー・シーゲルとジョー・シャスターは、この『フィジカル・カルチャー』の寄稿者でもあったのである。
 世界を支配しようとはせず、世界に適合しようとするヒーロー、スーパーマン。その誕生の過程には、アメリカの隠蔽された暗部とそれをねじり返す力が刻まれている。(えんどう・とおる)

著者略歴

著:遠藤 徹
同志社大学グローバル地域文化学部教授。「モンスター」「プラスチック」といったユニークな切り口から英米文学・文化研究を行なっている。また近年は作家としても知られ、「姉飼」で日本ホラー小説大賞を受賞、「麝香猫」で川端康成文学賞候補に選出された。

ISBN:9784794810663
出版社:新評論
判型:B6
ページ数:224ページ
定価:2000円(本体)
発行年月日:2017年04月
発売日:2017年04月06日
国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JB