メルロ=ポンティの倫理学
誕生・自由・責任
著:川崎 唯史
内容紹介
弱いまま自由になるために――
自らの誕生と来歴を忘却した主体概念を批判し、他人や歴史、社会的なものとの関係に人間の実存を見出したメルロ=ポンティはどのように倫理学を行おうとしたのか。
哲学者自身の構想に沿ってその倫理学を再構成し、現代における可能性を展望する。
『知覚の現象学』の先に続く倫理学の歩みを跡づける初めての試み。
「私たちは問題を投げ出したり、時間が過ぎるに任せたり、ルールは守っているのだから悪くないと開き直ったりしたくなる。メルロ=ポンティはそうした私たちの弱さも一つの現実として記述している。しかし他方で、霧の中で目を凝らし、周囲の様子をよく見ながら、正解の保証はなくとも解決を試みる行為もまた現に存在するのだと彼は書いている。メルロ=ポンティの倫理学は、既存の道徳が失効した状況において、即興で新たな道徳が創造される瞬間に最大の注意を向けるのである。」(「はじめに」より)
●著者紹介
川崎唯史(かわさき ただし)
1989年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。国立循環器病研究センター研究員などを経て、現在、熊本大学大学院生命科学研究部助教。専門は哲学・倫理学(特に現象学、研究倫理学)。共編著に『フェミニスト現象学入門』(ナカニシヤ出版、2020年)、共著に『メルロ=ポンティ読本』(法政大学出版局、2018年)など。
目次
はじめに
凡 例
序章 メルロ=ポンティの倫理学へ
第一節 メルロ=ポンティの倫理学を研究する必要性――先行研究の検討
第二節 メルロ=ポンティによる倫理学の構想
第三節 メルロ=ポンティ思想の時期区分と倫理学
第四節 本書の構成
第一部 倫理学の基礎
第一章 知覚の本性から主体の本性へ
第一節 哲学的概念の改鋳
第二節 行動の本性から意識の本性へ
第三節 主体の本性を問い直す
第四節 主体への向け変えとしての現象学的還元
第二章 離脱と密着
第一節 離 脱
第二節 密 着
第三節 契約または贈与
第三章 誕 生
第一節 「私は私自身に与えられている」
第二節 「コギト」における誕生した主体
第三節 統一と分散
第四節 誕生論の意義
第四章 自 由
第一節 「自由」の章の位置づけ
第二節 中断の自由
第三節 動機づけられた自由
第五章 他人の知覚
第一節 古典的偏見
第二節 他人知覚の現象学
第三節 弱さゆえの交流
第六章 間主体性と社会的なもの
第一節 間主体性と対他存在
第二節 社会的なもの
第三節 社会的な性質づけ
第二部 倫理学の再構成
第七章 メルロ=ポンティの倫理学の基本的特徴
第一節 実質的な特徴
第二節 方法的な特徴
第八章 自己自身との交流
第一節 「セザンヌの懐疑」における二つの自由
第二節 コンプレックスによる動機づけ
第三節 雰囲気と多元決定
第四節 自己自身の創造的な捉え直し
第九章 愛
第一節 愛は性質を超えるか
第二節 性質を介する愛
第三節 他人の地
第四節 変身する生への愛
第十章 責 任
第一節 「小説と形而上学」の位置づけ
第二節 純粋意識から自己の客体視へ
第三節 行為の意味の多元決定
第四節 懐疑的ニュアンスの実存主義
第五節 時間を横断する実存
第十一章 歴史における責任と悲劇
第一節 社会的性質への一般化
第二節 歴史的偶然性の悲劇
第三節 歴史的責任と社会的な生の悲劇
第四節 プロレタリアートの道徳的理想化
第五節 表現による呼びかけ
終章 メルロ=ポンティの倫理学の意義
第一節 本書のまとめ
第二節 メルロ=ポンティの倫理学の行方
第三節 メルロ=ポンティの倫理学の現代的意義
あとがき
参考文献
事項索引
人名索引