「愛の時代」のドイツ文学
レンツとシラー
著:菅 利恵
内容紹介
恋愛、家族愛、祖国愛──
18世紀の啓蒙時代、近代化の中で孤立した人々が求めたのは、
宗教でもナショナリズムでもなく「愛」だった。
宗教的な枠組みがゆらぎ、近代化の中で孤立した「わたし」を
「人間的なもの」につなぎとめ、理想主義的な自己像の支えとなった愛は、
国民意識の形成過程にどのように組み込まれたのか。
「愛の時代」からナショナリズムの時代への移行はどのようなものだったのか。
ドイツ語圏の啓蒙時代を新しく「愛の時代」ととらえ、
レンツ(1751-92)とシラー(1759-1805)のテクストを
中心に「愛の時代」に生まれたさまざまな言説を分析。
市民知識層のアイデンティティ形成の主軸が
「道徳」から「ナショナリズム」へ変化した過程を
批判的に再構築する。
目次
序章
1 愛の時代
2 愛の時代の背景──宗教とナショナリズムのあいだ
3 本書の流れ──レンツとシラー
第1章 主体的なものと規範的なもの
──愛をめぐる言説と市民的アイデンティティ
1 市民的なものと愛
2 啓蒙時代における愛の観念の変化
3 啓蒙時代の愛における「反市民的な」ものと「市民的な」もの
4 主体性の表現としての愛の矛盾
5 作品例──『エミーリア・ガロッティ』ほか
第2章 J. M. R. レンツ
──「愛の時代」をめぐる寓話
1 『哲学者は友達によって作られる』における友情と恋愛
1・1 脱理想化された市民男性像
1・2 「策略/政治」としての恋愛
1・3 メロドラマの意味
2 「自伝」としての恋物語──『森の隠者』
2・1 恋に刻印された作品構造
2・2 混乱した恋、混乱した「わたし」
3 錯誤としての恋──レンツ作品の批判的可能性
第3章 フリードリヒ・シラーにおける愛と政治(1)
1 シラーにおける愛の特徴──『ドン・カルロス』を糸口に
1・1 私的な愛から政治的な愛へ
1・2 シラーにおける愛の描写の背景
1・3 愛か政治か──ドラマを貫く問い
2 『マルタ騎士団』論──フリードリヒ・シラーにおける「男同士の愛」
2・1 シラーにおける友情礼賛とその時代背景
A 若者たちと権力者
B 友情礼賛の意味
2・2 理想の愛の形象化──『マルタ騎士団』
A 作品概要
B 『マルタ騎士団』における根本問題
C 『マルタ騎士団』における私的な愛
2・3 「男同士の愛」の両義性
第4章 18世紀後期における「政治的な愛」の諸相
──ヴィーラント、シューバルト、ハイン同盟
1 市民的な言説空間の発展
2 コスモポリタニズム──ヴィーラントを中心に
3 パトリオティズム──アプト、シューバルト、ハイン同盟
4 コスモポリタニズムとパトリオティズムの重なり
5 コスモポリタニズムとパトリオティズムを分かつもの
第5章 フリードリヒ・シラーにおける愛と政治(2)
1 『オルレアンの処女』と1800年前後のドイツ
1・1 『オルレアンの処女』の基本構造──戦うための理念の消失
A 厭戦的な作品世界
B 『オルレアンの処女』における愛
1・2 過渡的な時代の表現としての『オルレアンの処女』
1・3 「神の啓示」という「実験」
2 「政治的な愛」をめぐる新たな葛藤
──『ヴィルヘルム・テル』における愛と政治
2・1 理想化された愛のドラマ
2・2 「自由」なテルの背後に──ふたつの政治的な愛
2・3 暴君か、人間か──時代の狭間の苦悩
2・4 『ヴィルヘルム・テル』にみる私的な愛の政治的機能
終章
1 愛国とジェンダー──愛の言説の二面性
2 A. W. イフラントの家庭劇──「国父イデオロギー」とジェンダー規範
3 コスモポリタンの愛──ヴィーラントの『アリスティッポス』
ISBN:9784779124501
。出版社:彩流社
。判型:4-6
。ページ数:300ページ
。定価:3000円(本体)
。発行年月日:2018年02月
。発売日:2018年02月24日
。国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:DD。