村上春樹とイギリス
ハルキ、オーウェル、コンラッド
著:吉岡 栄一
内容紹介
初めて語られる知られざるハルキ像!
村上春樹の好きなフィッツジェラルドは、『闇の奥』のコンラッドに心酔し、オーウェルは、コンラッドを政治小説の偉大なる師匠とみなしていた……。
「コンラッドはイギリス文学の作家のなかで、村上がいちばん言及・引用している作家である。頻度からいえばむろんアメリカ人作家ほどではないが、コンラッドが独走状態にあることは否定のしようがない。おそらく村上のコンラッドにたいする親近感のもとは、母国語ではなく異言語(英語)で小説を書いた、いわゆる広い意味での亡命作家だったからにほかならない。村上春樹の公言するところによれば、みずからも日本の文壇やその党派性になじめずに外国に移住し、日本にたいしてたえずウトサイダー意識やエグザイル意識を持っていたことが、村上のコンラッド評価の原点となっている。そこがまた村上の非日本的な小説が生まれる磁場ともなっているのだ」(「ハルキ、オーウェル、コンラッド」より)
目次
第一章 オーウェルと村上春樹――『一九八四年』と『1Q84』のタイトルの類似をめぐって
なぜオーウェルなのか
タイトル『1Q84』の由来
開高健とオーウェル、村上春樹とオーウェル
スターリンとスペイン戦争
『一九八四年』と『1Q84』のちがい
『1Q84』の小説世界
独裁国家と恐怖政治
深田のモデルと「Q」の意味
リトル・ピープルとは何者か
村上作品における「悪」
マーケティング戦略
作品評価の二極化
正統的な純文学なのか
第二章 コンラッドと村上春樹――『闇の奥』、『地獄の黙示録』、そして『羊をめぐる冒険』
作品相互の影響関係
意外な村上春樹のコンラッド熱
『ロード・ジム』と『世界の終り…』『ノルウェイの森』
「武人の魂」と『海辺のカフカ』
『羊をめぐる冒険』で『闇の奥』を隠した?
『羊をめぐる冒険』の物語構造
『闇の奥』の物語構造
「単一神話論」の影響
物語要素としての「障害」と「遅延」
羊博士とは何者なのか
異界の入口
羊男の登場
主題と構造の類似
日本にたいするエグザイル意識
村上春樹へのフィッツジェラルドの影響
コンラッドとフィッツジェラルド
第三章 オーウェルとコンラッド――エグザイル意識と女性表現の共通性
コンラッドの政治小説への関心
エピソードや人物造形の類似
コンラッドへの親近感の起源
コンラッド復活を予言
若いころからの愛読作家
オーウェルがコンラッドを敬愛する理由
女性登場人物たちの猫的所作
女性恐怖の始原
オーウェルが描く女性たち
オーウェルの女性観
イギリス社会の異人
コンラッドの政治不信と『一九八四年』
ハルキ、オーウェル、コンラッド――あとがきにかえて