空の木
著:川那辺 薔
内容紹介
謎。複雑。郷愁。怪異。そして、ふしぎな感動。
日本のナボコフ、天才・川那辺 薔による初の小説集。
娘を失った父の悲しみ。大学をめぐる奇怪な出来事。
近代批判に満ちた衝撃の問題作。
表題作日本初アンチ(?)スカイツリー小説「空の木」
ほか3篇所収。
…これから面白いことやるから、先生も店を出な、と言うので、ついて行くと、隅田川の辺に連れて行かれた。(中略)あっというまに、マスターも手伝って、大の字に、凧に乗せられてしまった。(中略)マスターがボートを発進させると、強い南風もあって、凧は瞬く間に二十メートルほど揚がってしまった。ボートの後ろには、時禱書に描かれたものではない方のバベルの塔に描かれた人力のクレーンそっくりの滑車のようなものが取り付けられていて、そこを通った片方のロープを私が握っているので、ロープをゆるめれば、凧は高く揚がるようになっている。爺さんは、あんまり上に行くんじゃねえぞ、スカイティリーを上から見下ろすんじゃねえ、と忠告してくれたが、初めてのことでもあり、私は元来高所恐怖症であることも忘れて、その景色を楽しんでいた。(中略)私はスカイティリーを上から見た。上から見ると、この塔に意味があるのか、と思った。それはまるで意味のない、無用の建築のような気がした。そして次には、この塔は、まさに私のものだと思った。(中略)それは人々の物欲が育てた巨大な植物だ。まもなく電磁波という目に見えない巨大な悪の花を咲かせることだろう。そしてある神性が、これを破壊するに違いない。いや、そうではない。それは残すが、ある仕方で人々を殺すだろう。立派な建物、立派な法律、立派な潜水艦は残る。しかしそれを使う人間がいない。鋼鉄で身を固めても、臆病ものは裸同然というのが、世の常である。(「空の木」より)
目次
Ⅰ 空の木
Ⅱ バンドホテル
Ⅲ 遺言の半分
Ⅳ タンタキュレール 我汝に呼ばわる