結婚と扶養の民族誌
現代パプアニューギニアの伝統とジェンダー
著:馬場 淳
内容紹介
パプアニューギニアのマヌス島のクルティ語を話す人たちの村―クルティ社会を断続的に計15ヶ月間(1999年から2006年まで)現地調査した成果。
19世紀後半植民地化され、二つの大戦に巻き込まれ、戦後は国際社会の一員たる主権国家の建設に向き合い、独立後は持続可能な経済社会を模索してきてパプアニューギニア人たち。この激動の過程は、彼らの意思や抵抗と相互作用しながら、地域社会のあり方を総体的に変え、現在の生活世界をかたちづくってきた。
本書では、近代社会の「常識」の概念では計れない「伝統的慣習」のなかでの結婚と扶養をめぐる人々の生活実践をジェンダーの視点――男女双方の視点や関係性を踏まえながら、男女の協同や衝突の姿、そして交渉しながら日常生活を構築していく力動的な過程――から記述するとともに、こんにちの伝統(カストム)のあり方をみつめる。
目次
序章
フィールドへ 15 本書の目的 20 フィールドワーク 23 本書の構成 26
第一章 理論的背景 29
第一節 伝統文化論 29
1 カストム論の概要 29
2 カストムとポジションの問題 32
3 客体化論 36
第二節 パプアニューギニアにおけるジェンダー研究 39
1 性の対立論 40
2 社会変化とフェミニスト人類学 42
3 ジェンダーの政治学 45
第三節 ジェンダー研究とカストム論の接点 48
1 カストム論におけるジェンダーの問題 48
2 ジェンダーの政治学における客体化の類型 51
第四節 マヌス研究史 53
第二章 民族誌的背景 61
第一節 調査地の概要 61
1 マヌス島 61
2 クルティ社会 65
3 D地区 66
第二節 生活世界 67
1 生活世界と三つの意味領域 67
2 クルティ社会の人間観 70
(1)人のカテゴリー 71 (2)ウム・カマル 72 (3)ビッグマン 74
(4)「家族」と世帯 76 (5)「振る舞い」 76
第三節 社会の構成 79
1 D地区の社会構成 79
2 クランの役割 82
3 単一起源神話の虚実 84
4 二つの出自原理の併存 87
第四節 経済生活 90
1 マヌス州の経済 90
2 生業とマーケット 93
3 流通 95
4 食生活の実態 96
第三章 辺境の歴史――パリアウ運動とD地区 107
第一節 パリアウ運動の概要 107
第二節 ケンプの誕生 111
1 パリアウ運動以前のD地区 111
2 ケンプの建設 114
第三節 運動下のD地区住民の実践 115
1 カウンシルのやり方 116
2 社会状況 118
第四節 D地区住民の脱魔術化――運動の「終焉」の語り 120
1 パリアウ運動とカーゴカルト 120
2 パリアウ運動の「終息」 123
3 パリアウを語るということ――ンドラモイの事例 126
第五節 パリアウ運動以後の世界 128
1 ウム・カマルから新しい共同性へ 128
2 カストムの歴史的構成 130
【結婚編】
第四章 婚姻慣行の持続と変容 137
第一節 結婚とカストム・ワーク 137
1 カストム・ワークの種類と意義 137
2 結婚をめぐるカストム・ワーク 139
(1)ナク・ウム 139 (2)ケリム 140 (3)トゥドウ・ピヒン 142
(4)ンガップ 143 (5)ノウィ 143
3 結婚の安定性 146
4 カストム・ワークの現状 147
第二節 結婚戦略の持続 149
1 「振る舞い」と結婚する!? 149
2 政略結婚 152
(1)戦前の事例:サリヤウ 153 (2)戦後の事例①:ンドラモイ 155
(3)戦後の事例②:ワイ 156
3 「良い結婚」 157
4 複婚(一夫多妻) 160
第三節 婚資の支払いの現状 163
1 D地区におけるンガップの実施状況 163
2 婚資額の上昇 165
3 婚資額へのオブセッション 167
4 ンガップに向けたキャンペーン 170
第四節 結婚をめぐるカストムと法 173
1 結婚の法的分類 173
2 婚資の多義性 176
小括 180
第五章 結婚生活とジェンダーの政治学 183
第一節 経済生活における女性の役割と主体性 183
1 地域社会での現金収入 183
2 シシリアの現金収入活動 186
(1)小商店の経営 186 (2)マーケット活動 188 (3)スコーン・ビジネス 190
3 「豊かさ」とは何か 191
第二節 性と生殖をめぐる政治学――避妊の実践 193
1 民俗生殖理論 193
2 女の仕事としての避妊 196
3 家族計画政策 199
4 D地区の家族計画の実態 203
5 避妊の実態――D地区診療所の家族計画カードの分析 205
第三節 紛争処理とジェンダー――離別をめぐる協議 210
1 パプアニューギニアの紛争処理制度 210
2 エリザベスの主張 213
3 キラの指向性――「政府の法は我々の家族を壊す」 215
4 ポールの語りとその変化 218
5 ワン・ベルとジェンダー・バイアス 224
間奏 南太平洋の恋愛日記――ケンと二人の女たち 229
1 ケン 229 2 ダイアナ 230 3 オリーブ 232 (1)再会 232 (2)悲劇 235
4 三角関係の顛末 237
第六章 扶養の「問題」の社会的背景 241
第一節 離別の原因 241
第二節 子どもの処遇 248
1 子どもを扶養するということ 248
2 二つの原理を生きる子どもたち 253
第三節 「シングルマザー」の実態 257
1 シングルマザーの定義と困難 257
2 ありふれた存在としての「シングルマザー」――カストムの視点から 261
3 離別の風景 264
4 「シングルマザー」の生活形態――柔軟な世帯構成 266
5 離別後の扶養 269
【扶養編】
第七章 日常に埋め込まれた扶養 277
はじめに 277
第一節 扶養する環境 278
1 社会環境の変化 278
2 系譜と空間の近接性 279
3 扶養する環境――「シングルマザー」の事例から 285
第二節 寄贈の構造――関係の再生産 287
1 ティネムブロイ 287
2 複数の寄贈 289
3 姉妹の重要性 290
4 関係の具体的客体化と再生産 292
第三節 カストムで生きる――食べ物の分配 293
1 平準化するカストム 294
2 カストム・ワークの扶養機能 297
(1)ンガップ(婚資)の支払い 297 (2)セヘル 298 (3)ペペイ 299
(4)カストムで生きる 300
3 闇の中のカストム 301
第四節 パラ・ソウエ儀礼――「振る舞い」の再生産 304
1 パラ・ソウエの規則と仕組み 304
2 パラ・ソウエの形式と内容 307
3 パラ・ソウエの関係性 309
(1)姻族 309 (2)ウム・カマル 310 (3)キョウダイ 311 (4)対象者の範囲 311
4 想起される「振る舞い」 312
5 「悪い振る舞い」 313
6 考察――「振る舞い」の再生産 315
小括 316
第八章 扶養の近代的実践 319
はじめに――パプアニューギニアにおける法の問題 319
第一節 扶養費請求訴訟の概観 321
1 制度の概要 321
2 歴史と利用者推移 323
3 法の他者性 325
4 訴訟実践を支えるエージェント 327
(1)福祉事務所 327 (2)裁判所 328
第二節 扶養費請求訴訟のプロセス 329
1 訴訟歴の検討――サプックの事例 329
(1)訴訟のはじまり 329 (2)扶養費の増額をめぐる訴訟 330 (3)延滞金請求訴訟 332
(4)刑務所へ 333
2 法と金と、ジェンダーの政治学 334
第三節 法の使い方 336
1 リンネのライフヒストリー 336
2 法の道具的指向 338
第四節 カストムと法の相互作用 341
1 扶養をめぐる合意――裁判所から日常的生活世界へ 341
2 扶養費請求訴訟のジレンマ 344
3 翻訳的適応――「振る舞い」の報酬としての扶養費 347
第五節 法とカストムの位置関係 349
1 国家法とカストムの併存 349
2 村落裁判と扶養費請求訴訟の対比――ケイパビリティの観点から 351
終章 359
カストムの多様性とダイナミズム 359 カストムへの信仰 361 ジェンダーとカストム 365
あとがき 367
初出一覧 24
引用文献一覧 4
索引
ISBN:9784779117688
。出版社:彩流社
。判型:A5
。ページ数:400ページ
。定価:6200円(本体)
。発行年月日:2012年02月
。発売日:2012年02月23日
。国際分類コード【Thema(シーマ)】 1:JBCC6。