研究叢書 532
都賀庭鐘における漢籍受容の研究
初期読本の成立
著:劉 菲菲
内容紹介
江戸時代中期の大阪の読本作者・都賀庭鍾(1718 ~ 1794)は、あらゆる分野の漢籍を読みこなして得た素材を、日本の歴史譚や伝説、軍記と融合させた作品を著し、読本の先駆者といわれる。その斬新な発想と手法は、上田秋成や曲亭馬琴など後世の読本作者に多大な影響を与えたが、広範な和漢の文献を駆使した庭鐘の作品は、創作技法も難解で、いまだ明らかにされていない部分も多い。
本書は、庭鐘の自筆読書筆記『過目抄』を最大限に活用し、庭鐘の読書の実態や学問の内実を詳細に考察、作品の典拠や生成過程、創作意図、創作方法などを解明する。
目次
凡例
序章
一 初期読本の成立背景
二 都賀庭鐘とその著述
三 本書の目的
四 本書の構成
第一部 都賀庭鐘読本の典拠研究
第一章 『英草紙』第六篇「三人の妓女趣を異にして各名を成す話」典拠考
はじめに
一 「三人の妓女」の梗概
二 第二話、第三話の典拠―王穉登「馬湘蘭伝」―
三 第一話の典拠―李師尹「王幼玉記」―
四 冒頭文と清代白話小説『照世盃』巻一「七松園仮を弄して真と成す」
おわりに
第二章 『莠句冊』第五篇「絶間池の演義強頸の勇衣子の智ありし話」典拠考
はじめに
一 「絶間池の演義」における強頸・衣子築堤譚
二 第二話の木菟宮怪異譚と明代白話小説『禅真逸史』
三 第三話の大隅宮怪異譚と明代白話小説『禅真後史』
おわりに
第三章 『通俗医王耆婆伝』典拠考
はじめに
一 『通俗医王耆婆伝』の梗概
二 『通俗医王耆婆伝』と明代白話小説『金瓶梅』
三 『通俗医王耆婆伝』と明代白話小説『禅真逸史』『禅真後史』
おわりに
第四章 『義経磐石伝』典拠考
はじめに
一 『義経磐石伝』と明代白話小説『金瓶梅』
二 『義経磐石伝』と明代白話小説『拍案驚奇』
おわりに
第五章 都賀庭鐘読本における『水滸伝』の受容
はじめに
一 先行研究
二 『繁野話』と『水滸伝』
三 『莠句冊』と『水滸伝』
四 『通俗医王耆婆伝』『義経磐石伝』と『水滸伝』
五 都賀庭鐘読本における『水滸伝』語彙・表現の利用
おわりに
第二部 都賀庭鐘読本の新解釈
第六章 『繁野話』第三篇「紀の関守が霊弓一旦白鳥に化する話」新論
はじめに
一 『任氏伝』、「人妻」、「紀の関守」の梗概
二 小蝶の人物造型
三 庄司次郎の人物造型
四 雪名の人物造型
おわりに
第七章 『繁野話』第八篇「江口の遊女薄情を憤りて珠玉を沈る話」新論
はじめに
一 「杜十娘」と「江口の遊女」の梗概
二 「江口の遊女」の創作動機―冒頭文を通して―
三 小太郎の人物造型
四 白妙の人物造型
おわりに
第八章 『垣根草』新論
はじめに
一 書物の体裁
二 語彙・表現
三 典拠
四 翻案手法
五 作品の根幹にある作者の価値観
おわりに
第三部 都賀庭鐘の読書と習作
第九章 都賀庭鐘の読書筆記『過目抄』とその読本創作
はじめに
一 『過目抄』の抄録書目
二 『過目抄』に見える白話小説に関する抄記
三 『過目抄』と庭鐘の読本創作
おわりに
付録 『過目抄』各冊の抄録書目一覧
第十章 都賀庭鐘の白話運用―『通俗医王耆婆伝』を中心に―
はじめに
一 『通俗医王耆婆伝』白話語彙の使用実態
二 『通俗医王耆婆伝』白話語彙の出拠
三 『通俗医王耆婆伝』白話語彙の運用手法
四 『通俗医王耆婆伝』白話語彙の誤用や理解不足
おわりに
終章
一 各章のまとめ
二 今後の課題
初出一覧
あとがき
索引(人名・書名)