日本史研究叢刊 30
正倉院文書の歴史学・国語学的研究
解移牒案を読み解く
編:栄原 永遠男
紙版
内容紹介
正倉院文書は、一万点以上からなる他に比類ない奈良時代の原史料であり、その内容はまことに豊かである。その中に、「解移牒案(げいちょうあん)」と呼ばれる、下級官人が事務上のやりとりを記した約五百通の文書からなる一群がある。この史料群の輪読会である「解移牒会」のメンバーは複数の分野にまたがる研究者により構成され、八年にわたって丁寧な解読と議論をすすめてきた。文書の複雑な構造や性格、事情や背景を解き明かし、言葉の意味や文字の使用法、字面に込められた様々な感情にまで迫り、「解移牒案」という、重要であるが未だよく解明されていない史料群に、真正面からとり組んだ研究論考十篇として、その成果が本書に収められている。
古代史や古代日本語の両分野の研究者が、各々の立場から新知見を提示する、正倉院文書研究の今を語る論集である。
目次
序―扉をすこし開けたこと―
栄原永遠男
天平宝字期の解移牒案について
山下有美
桴工達の訴え―下道主の文書作成の苦心―
中川ゆかり
正倉院文書における文末の「者」
桑原祐子
「并」字の使用法から文字の受容・展開を考える
―「並」「合」との比較から―
方 国花
解移牒符案にみえる訂正方法とその記号について
井上 幸
正倉院文書における督促の表現―「怠延」を中心に―
根来麻子
古代日本独自の用法をもつ漢語―「返却」「却還」「還却」「解却」―
宮川久美
写経生の任用について
濱道孝尚
正倉院文書にみえる浄衣
渡部陽子
天平初期の帳簿―解移牒符案の源流を求めて―
栄原永遠男
あとがき
桑原祐子