研究叢書 466
義経記 権威と逸脱の力学
著:藪本 勝治
内容紹介
源義経の生涯を描いた軍記物語『義経記』を伝承論・作品論・享受論の三面から考究した研究書。作品を統合する〈義経の物語〉と、義経の権威性に吊り下げられつつもそこから逸脱しようとする〈義経の助力者の物語〉との協調とせめぎあいとして『義経記』を読み解く。さらに、『義経記』を義経に関する表象史の上に位置付け、義経主従にことよせてアイデンティティを創出し過去像を構築してゆく語り手たちの想像力が近現代まで系譜的に連なることを論じる。
目次
序 章 『義経記』への二つの視座―研究史と課題―
一 貴公子と制外者
二 文学作品と民俗伝承
三 義経と助力者達
四 本書の概要
I 語り手の論理と文脈
第一章 金商人吉次と陵兵衛の論理
はじめに
一 二つの牛若奥州下り
二 二つの人脈
三 『義経記』の吉次
四 陵兵衛の館を焼く
おわりに
第二章 伊勢三郎の助力と伝承の文脈
はじめに
一 「世になきもの」伊勢三郎
二 上野の助力者の系譜
三 助力者の物語の語り手
おわりに
第三章 土佐坊正尊と江田源三の物語
はじめに
一 江田源三の物語
二 三条京極の女
三 大和千手院の鍛冶
四 信濃の老母
結びにかえて―〈義経の物語〉を相対化する『義経記』―
補説① 〈江田源三の物語〉の発生に関する一考察
はじめに
一 〈江田源三の物語〉発生の文化圏
二 佐久郡英多神社の信仰環境
三 佐久と大和鍛冶
四 佐久近隣の土佐坊伝承
おわりに
第四章 白拍子静の物語と語り手
一 問題の所在
二 鎌倉下向まで
三 大姫との交差―『吾妻鏡』―
四 助力者の功名譚―『義経記』―
五 語り手の脈略
補説② 『吾妻鏡』における〈歴史〉構築の一方法
はじめに―野木宮合戦の重要性と問題点―
一 諸文献の野木宮合戦と先行研究
二 『吾妻鏡』の〈歴史〉構築
三 小山/足利の物語
おわりに―歴史と物語の相互関係―
II 権威と逸脱の力学
第五章 『義経記』の源氏将軍家神話―「源氏」の権威の不可侵性―
はじめに
一 「頼朝義経対面事」の源氏先祖言説
二 本文の生成過程
三 『義経記』における源氏先祖言説
四 『義経記』独自記事の持つ意味
五 頼朝義経の関係と『義経記』の構造
おわりに
第六章 『義経記』の義経主従―主従の相克と協調―
はじめに
一 『義経記』以前の堀川夜討
二 『義経記』の堀川夜討
三 「世になきもの」達の群像劇
四 『義経記』形成の力学
おわりに
第七章 護良親王主従と義経主従の類似―潜行する貴種と助力者の系譜―
はじめに
一 二つの主従説話の類似と先行研究
二 義経主従の表象から『太平記』の護良主従へ
三 『太平記』の護良主従から『義経記』の義経主従へ
おわりに―『義経記』成立論の一助として―
III 義経的想像力の系譜
第八章 源義経の表象史と「判官贔屓」
はじめに
一 中世の義経観
二 近世の義経観と「判官贔屓」
三 近現代の義経観と「判官贔屓」
おわりに
第九章 貴公子の悲劇とその語り手の系譜
はじめに
一 没落貴族の判官贔屓―「義経伝説の淵叢としての義経記」―
二 大陸進出の趨勢―『成吉思汗ハ源義経也』―
三 神国日本と外部―『御曹子島渡』―
四 不遇者の共感と参与―『雪国の春』―
五 語り手のしたたかさ―『義経記』―
おわりに
初出一覧
索引
あとがき